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KANGE's log

映画「MOTHER マザー」

2020.07.26 03:37

【一切、共感できない。でもあの親子が確実に存在しているという事実】

イオンシネマのワンデーフリーパスポート3本目の映画です。

TBSラジオでずっとCMが流れているのですが、「絶対、胸糞悪くなるヤツやん」と思いながら見て、思った通り胸糞悪くなる映画でした。つまりは「味わった」ということです。

働くこともせず、パチンコ・ホストクラブ遊びに明け暮れるシングルマザーの秋子と、その息子の周平が、徐々に社会から孤立していく。いよいよ行き詰った秋子は、周平に自分の両親、つまり周平の祖父母を殺害し、金を奪うように指示する…という話。

いわゆる「毒母」というやつですが、これが、実話に基づく話とのこと。原案となったノンフィクションもあります。

この山寺香『誰もボクを見ていない』の担当編集者へのインタビューがここにあります。  

また、この事件の現場などを取材した学生たちの記録がありました。 

これまで、貧困や児童虐待を扱った映画で、いろんな親を観てきました。仕事をしたくても事情があってできない人、仕事はしているもののその環境に恵まれない人、正業とは言えない仕事をしている人、仕事はしているけど浪費も激しい人、仕事はしているけど私生活が破綻している人、いろいろいましたが、ここまで徹底的に働かない大人は、初めてではないでしょうか。

一切、仕事をしない。周平が仕事をすることで住み込むことになった工務店の事務所の留守番のようなことをしているシーンもありましたが、やっていることは、デスクの上にあるものを、あっちへこっちへ動かすだけ。なんとなく仕事をしている感を装っているだけ。 

そんな中で、唯一、働いたといえるのは、「ジャガイモの皮をむいたこと」です。まったく未経験ではないように見えました。彼女のような人間でも、親の手伝いをしたことがあったのかもしれません。自分のためか、子どものためか、誰かのために料理をした経験があったのかもしれません。それでも、あんな人間になってしまうのです。人というのは分かりません。

秋子は、ただ何もできない人間ではありません。他者に取り入ったり、息子を支配する能力には長けています。児童相談所の相談員・亜矢が周平に働きかけてフリースクールで勉強するようになると、秋子は周平がほのかな恋心を持っていることを見抜き、そこから彼が負い目を感じるように、ちくりと言葉で刺します。息子としては、心の裏の方まですべてお見通しで、この親にはすべてを握られていると、痛いほど感じたことでしょう。

観ている間、スクリーンの周平に対して「早く逃げろ。その親を捨てろ。母親だと思わなくていい」と、ずっと心の中で声をかけ続けていました。

最終的に、祖父母を殺害しようとしたのも、「これで、母親と離れて生活できる」と彼が言ってくれたら、ちょっとは後味がすっきりしたかもしれません。つまり、オチとして成立したということ。でも、そうは言ってくれなかった。「そんな馬鹿な」という結末。これこそが、フィクションではないってことなのでしょう。

唯一、簡易宿泊所から逃げようとしたときに、「学校に行きたい」と秋子を突き放そうとします。これは、その間に、フリースクールで学習を続けることで、「母親との生活」以外の世界に少しでも触れることができた結果です。

そう考えると、劇中、何度も何度も、最悪の結果にたどり着かないように、ブレーキを踏んだり、ハンドルを切るチャンスはありました。でも、それができなかったのが現実です。

「セーフティネットの整備を…」と訴えたいわけではありません。もちろん、あるに越したことはないのですが。少なくとも、「各種のセーフティネットがあるのだから、それでも、その網から漏れるものは、もう自己責任」と切り捨てることはできないということが、この映画を見ると分かるのでした。日常の生活を送っていると、住民票を持たない子どもがいるなんて、意識することはありません。いないことになっているので、分かりません。でも、確実にそういった子どもたちが日本にもいるということを知ることができるという点で、意味のある映画だったと思います。