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痒みの原因~疥癬(かいせん)~

2020.07.30 07:24

犬や猫の皮膚に寄生するダニが原因で起こる疥癬症という病気があります。これに感染すると、動物は一日中狂ったように痒がります。しかも、疥癬症は専門医でさえも特定しづらいと言われています。今回はそんなやっかいな病気・疥癬症についての詳細な解説・診断や治療についてをお話します。


疥癬症とは

疥癬症とは、顕微鏡で覗かないと分からないくらい小さな「ヒゼンダニ」というダニによって引き起こされる皮膚病のことをいいます。このヒゼンダニには「耳ヒゼンダニ」や「ショウセンコウヒゼンダニ」など多くの種類があり、感染する個体も犬に限らず猫、ウサギ、ハムスター、フェレットなどのペットにも見られます。

ヒゼンダニは体表に寄生し、表皮を食べて生活します。卵を持ったメスダニは皮膚の中に2~3ミリの深さのトンネルを掘り、そこに産卵します。そのダニの卵は通常3~10日で孵化し、そのまま成ダニへと成長し、メスダニであれば再びトンネルを掘って産卵します。

この卵から未成熟ダニが生まれ、成ダニに成長し、再び産卵するまでのサイクルは約3週間、すべて皮膚の上で行われます。ヒゼンダニは宿主を離れると1~2日しか生きられませんが、容易に再感染するため注意が必要です。


感染経路

では、疥癬はどのようにして感染するのでしょうか?

ヒゼンダニは伝染性がとても強く、ほとんどの場合は直接個体に接触して感染するのですが、ダニが付いている首輪やブラシなどからも容易に感染します。また、犬や猫を多頭飼いしている家庭や犬舎などでは一頭に感染してしまうと全体に広がることがあります。

なお、感染していたペットから落ちたヒゼンダニがいる場所に、散歩などで別のペットが通ったことでその新しいペットが宿主となり感染してしまいます。そしてその皮膚上で同じように生活環を繰り返すのです。


症状

ヒゼンダニは感染すると体表に住み着き、特にメスダニは皮膚の中にトンネルを掘るため痒くてたまらなくなります。この病気ほど皮膚を激しく引っかいたり噛んだりする皮膚病はないほどです。特に毛が少なくやわらかい場所の耳、顔、肘、腹部や、ヒゼンダニが地上からはい上がって四肢に感染した場合には、多くの皮膚病変がみられます。

病気が進行すると、そこに厚いカサブタが作られ、その下にはヒゼンダニが更に繁殖します。強く掻きすぎてしまうと、その感染部は傷つき毛が抜けて皮膚の炎症が起こります。境目のはっきりしないまだら状の脱毛が特徴で、その傷口から二次的に細菌感染も起こしてしまいます。

また、感染した動物の体温が日に当たるなどして高くなるとヒゼンダニの運動も活発になってしまうため、痒みはさらに増してしまいます。

疥癬症になった状態で放置したままにしておくと病変は全身に及び、痒みからくるストレスで栄養状態が悪くなってしまうため、体が弱い幼若や老齢の場合には重い症状になってしまうこともあります。


人間への感染経路

疥癬症の犬や猫を人間が抱いたり触ったりすると、人間にもヒゼンダニが感染することがあります。特に抵抗力の弱い人が発症しますが、健康な人でも注意を怠ったりすると感染します。症状としては腕や胸、腰のベルトのあたりなど、体のやわらかい部分に赤い小さな発疹ができて強い痒みが生じます。もちろんその症状は同居している家族全体に及ぶこともあります。

しかし、犬や猫から感染するヒゼンダニは人間の皮膚の上では3週間以上は生きることが出来ないため、症状は一時的なものです。症状がひどく、動物と接触した過去があり疥癬症を疑われる場合は人間の皮膚科医に相談しましょう。


診断方法

疥癬症が疑われる場合は、ヒゼンダニを見つけることが診断の基準となります。皮膚の表面を、メスやハサミなどで強くこすってカサブタを掻き取り顕微鏡で覗くと、ヒゼンダニやその卵を発見することが出来ます。

ただし皮膚に掘ったトンネルの中にいる場合が多いので、ヒゼンダニは見つからない場合もあります。ヒゼンダニやその卵が見つかれば疥癬症として診断がつきますが、もし見つからない場合でも、疥癬症が疑われる場合には、獣医師は先に治療を進行させ、症状が改善に向かってくれば、疥癬症にかかっているという治療的診断を行います。


駆除方法

ではもし疥癬症になってしまった場合は、どのような治療をするのでしょうか?

まず、皮膚炎を起こしている場所の毛を刈ります。これによって病気の範囲や程度を知り、治療効果をあげます。そして週に1回程度の間隔で、過酸化ベンゾイルの入った薬用シャンプーなどで症状がなくなるまで洗います。このシャンプーはフケを浮かせて殺虫成分を毛穴に浸透させる効果があります。

また、動物病院でヒゼンダニを駆除するための殺虫剤を注射したり、それと平行して痒みを抑える薬や抗生物質などを内服して治療します。治療を開始して一旦症状が軽減したように見えても再発する恐れがあるので、ヒゼンダニが死滅して完全に治るまでは、獣医師の指示どおり治療を続ける必要があります。


まとめ

ヒゼンダニが見つかり、他に犬や猫を飼っている場合にはその動物たちにも感染していないかどうか検査を行いましょう。感染動物と過度に接触させたり同じ寝床を使わせたりしてはいけません。また、疥癬症の動物を触ったあとはよく手を洗ってから他の動物を触るようにしましょう。

疥癬は動物の体から離れると数日しか生きていけません。周りの環境を徹底的に掃除し、犬小屋、運搬用のケージ、散歩用のリードやトリミング用の器具など、接触するものをすべて消毒し、寝床で使ったタオルなどは熱湯で洗濯すると良いでしょう。

疥癬症は清潔な環境で適切な治療を行えば、多くの場合数週間で完治する皮膚病です。疥癬に感染した原因を突き止めて二度と再感染しないよう注意を払い、ペットのいる環境を衛生的に保ちましょう。