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Be ambitious, dear friends.

一期一会~上海編③~

2020.08.04 08:05

一期一会~上海編~①②からの続きです。


上海では、授業の合間をぬって、あちこち観光に出かけた。市街にある大きな公園で大勢の親たちが子供のための「お見合い」をしているシーンに出くわしたり、小さな公園では太極拳の稽古をしているご老人方を眺めたり、ローカルな食堂で注文して出された大量の餃子に驚いたり、お洒落なカフェでお茶をしたり(GODIVAが素敵だった)、興味深かったし、楽しかった。


その日は、美術館を訪れた。

外国の博物館や美術館は面白い。他国の芸術や文化に触れることで新鮮な刺激をもらうこと請け合いだ。海外旅行の際は是非ともこういった場所を訪れることをお勧めする。


見物を終えて帰ろうと美術館の裏を歩いていると、ふと後ろから誰かに呼び止められた。振り返ると男女2人が人なつっこそうな笑顔で立っている。ごく普通のセーターにデニムにコート、大学生くらいに見えた。「何か?」と答えると、写真を撮ってくれまいかと尋ねてくる。「いいですよ」と差し出されたカメラを受け取ったところ、「もしかして日本人ですか?」と女性。やはり分かっちゃいますか、と答えると、2人の笑顔が輝いた。男性は「僕は大学で日本語を専攻しています!日本と日本のアニメが大好きなんです。ドラえもん、ドラゴンボール、ナルト…どれも最高!」と大喜び。私は写真を撮りながら、彼等のアニメや日本についての知識を感心して聞いた。日本に憧れているという2人の言葉に素直に嬉しいと思った。また彼らは友達だけど実は親戚でもあり、それぞれ違う大学に通っていると語った。ちなみにここでも会話は全て英語である。


立ち話をした後、私がそろそろいとまを告げようかと思うタイミングで、男性の方が控えめにこう尋ねた。実は僕らはこれからカフェでお茶をするつもりなのです。もしよかったらあなたもご一緒にいかがですか?どうやら今日は彼等のお気に入りのカフェで珍しい中国茶のイベントが開かれているらしいとのこと。趣があって素敵なんですよ、と女性も誘ってくれた。

嬉しかったけれど、美術館を巡った後なので疲れており、私は早くホテルに帰りたかった。人の良い2人に好印象を持ったから申し訳なかったけれど、ありがとう、でも明日も朝が早いからごめんなさいと断った。彼らは少し残念そうではあったけれど、「お勉強、頑張って下さいね。写真を撮ってくれてありがとう。再見(またね)!」と手を振って見送ってくれた。爽やかな出会いだったな、と思った。名も知らぬ誰かの人生と自分の人生が、一瞬交差したことは奇跡のようだった。


後日、留学を終えて日本に帰国してから、2人が詐欺師だったと知った。というのは、上海を訪れる日本人に向けて注意喚起用のサイトにこんな記述があったからだ。「若い男女2人組の詐欺師に注意して下さい。公園、美術館の裏側辺りに出現します。日本のアニメのことなどを親しげに話しかけてきます。やがてお茶会に行こうと誘って来ます。カフェのような所に連れて行かれますが、そこで15000円程の値段の茶葉を購入させられます。」茶葉なんてローカルスーパーなら500円も出せば買えるのではなかろうか。いわゆるぼったくり詐欺というものである。どうやら同じ詐欺師に遭遇していたが、運良く引っかからなかったようだと胸をなでおろしたものだ。やはり海外では油断してはならぬ。



それにしてもあの自称大学生たちは本当に人が良さそうだった。あれが演技だとすればハリウッド俳優顔負けの完成度である。それほどナチュラルに人を欺ける若者の未来を人ごとながら案じずにはいられなかったが。


上海編・了