草原のコトノハ

思い出に変わるまで

2016.06.15 04:49

思い出に変わっていく瞬間が

キライな子ども。

夕闇に浮かぶお祭りの提灯の

ぼんやりしたひかりも

屋台で金魚を売る威勢のいい

お兄さんの声も

夜風に揺られて少しゆるんだ

友だちの浴衣姿も

カランコロンと下駄を鳴らした笑い声も

何かひとつに向かっていくときの

沸き立つ気持ちも…

次の朝は賑やかさを失った抜け殻。

あの瞬間は どこへ?

本当はいつでも真ん中のその瞬間に

身を置いていたい。

その瞬間を切り取って

永遠に感じていたい 子ども。

一世を風靡した私たちの歌が

懐かしいメロディーになっている。

ぴちぴちと輝いていた

ブラウン管の向こうのつややかな頬は

たおやかなしわが増え、少し青ざめた。

生きていた 今 が

飛行機雲のように

逃げていく


この日々も?

食べさせることに、

元気で送り出すことに、

笑顔で迎え入れることに、

安らかに寝かせることに、

必死で、ただただ必死な

この、めまぐるしく

おかしなくらい愛おしい日々も?

顔からはみ出しちゃいそうな笑い声も

じだんだ踏んでぽたぽたと落とす涙も

雪だるまのように重なり合った

背中のおんぶも

おふろで歌ったアブラハムの歌も

ひくひくと怒らせている鼻の形も

すみれいろの夕陽につないだ

ぷっくりした小さな右手も


いつか思い出になっていく

あたしのキライな思い出になる 瞬間 

を迎える

ああ、たまらない。

そんな日が来るなんて、

母さんやっぱり、たまらない。


たまらない、

思いを

次に展開させるような

じょうずな気持ちを

遂に立ち上げることができないまま