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源法律研修所

禁止規定における国と自治体の違い

2020.09.06 00:00

 

 自治体の例規集を見ていると、同じ法制執務なのに、国と自治体では微妙に異なることに気が付く。その典型例が禁止規定の書き方だ。些細なことだが、備忘録として書き留めておく。


1 法律の禁止規定と「絶対に」・「一切」・「例外なく」

 「〜をしてはならない」などのように、一定の不作為義務を課す規定を禁止規定という。例外を認める規定がない限り、その禁止は絶対的であって、例外は一切認められない


 そのため、国の法律では、「絶対に」・「一切」・「例外なく」+「〜をしてはならない」という表現は、用いられていない

 例外を許容する規定がない以上、その禁止は絶対的であって、例外は一切認められないので、わざわざ「絶対に」・「一切」・「例外なく」+「〜してはならない」という風に表現する必要がないからだ。


 ただし、現行法上、憲法第36条及び経済産業省関係特定製品の技術上の基準等に関する省令の別表第1の「10.ライター」が「絶対に」を用いている。

 まず、憲法第36条は、そのもとになったGHQ草案第34条に「absolutely(絶対に)」という文言が入っていたという特殊事情によるものと考えられる。

 次に、経済産業省関係特定製品の技術上の基準等に関する省令の別表第1の「10.ライター」は、国民向けにライターに表示すべき使用上の注意事項であるという特殊事情から、国民に注意喚起するため、あえて分かり易い強調表現として「絶対に」を用いたものと考えられる。


cf.1日本国憲法(昭和二十一年憲法)

第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる


cf.2GHQ草案1946年2月13日

Article XXXIV. The infliction of torture by any public officer is absolutely forbidden.


cf.3GHQ草案1946年2月13日仮訳

第三十四条 公務員ニ依ル拷問ハ絶対ニ之ヲ禁ス


cf.4経済産業省関係特定製品の技術上の基準等に関する省令(昭和四十九年通商産業省令第十八号)

別表第1(第3条、第5条、第14条第1項関係)

2 条例の禁止規定と「絶対に」・「一切」・「例外なく」

 では、自治体の条例ではどうか。


 国の法律とは異なり、自治体の条例では「絶対に」、「絶対」、「一切」、「例外なく」という表現が多用されている。同じ法制執務であっても、国と自治体で異なるところが面白い。


 住民は、「例外を認める規定がない限り、その禁止は絶対的であって、例外は一切認められない」ことを必ずしも知らないので、誤解を招かないようにこのような強調表現が用いられているものと考えられる。


 かかる相違は、国の法制執務に比べて自治体の法制執務が劣るということではなく、常に住民と接しておられる自治体職員さんの智慧だと積極的に評価すべきだろう。

 

 例えば、条例Webアーカイブデータベースで「絶対に」を検索したら、この文言を用いた条例が100件ヒットした。


 その大部分は、いじめ防止に関する条例(cf.5)と飲酒運転防止に関する条例(cf.6)であって、「いじめは絶対に許されない」や「飲酒運転は絶対にしない・させない・許さない」という風な表現が多用されている。


 それ以外の用例としては、広島県大竹市「玖波財産区区有林自家用薪及び農業用柴草等採取条例( 昭和30年11月11日 玖波財産区条例第5号)」第6条(cf.7)、長野県「阿智村防災行政無線施設設置条例 (平成元年3月10日条例第3号)」第8条第4号(cf.8)、福井県「高浜町公有浜地使用条例 (平成12年3月27日 条例第4号)」第10条第4号(cf.9)などがある。


 その中で最も珍しいのは、宜野座村村有財産貸与条例(1961年2月8日 条例第2号)だ(cf.10)。同条例第10条は、「借受人は、村長の許可なく絶対に他人に転貸し、又は目的以外の使用に供してはならない。」とある。村長の許可があれば例外が認められるのに、なぜか「絶対に」を用いている。

 

cf.5伊達市いじめ防止等に関する条例 (令和元年10月1日条例第15号)

(基本理念)

第3条 いじめの防止等のための対策は、いじめが全ての児童等に関係する問題であることに鑑み、いじめが人間として絶対に許されない行為であるとの意識を持ち、児童等が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう、学校の内外を問わずいじめが行われなくなるようにすることを旨として行われなければならない。

(以下、省略:久保。)


cf.6玉野市飲酒運転根絶に関する条例 (平成27年3月23日条例第3号)

(目的)

第1条 この条例は、市、市民等及び事業者等が一体となって、飲酒運転を根絶するための活動を推進し、飲酒運転は絶対にしない、させない、許さないという意識を市民等に定着させ、安全で安心して暮らすことができる市民生活の実現を図ることを目的とする。


cf.7玖波財産区区有林自家用薪及び農業用柴草等採取条例( 昭和30年11月11日 玖波財産区条例第5号)

第6条 自家用薪及び農業用柴草等採取の為入山する者は雑木以外の立木特に松,杉,檜等の針葉樹は伐採してはならない。又露天で所謂「野炭」を焼く事は絶対にしてはならない


cf.8阿智村防災行政無線施設設置条例 (平成元年3月10日条例第3号)

(使用条件)

第8条 村長は、受信機を設置し使用を承認するに当っては、次の使用条件を付するものとする。

(1) この条例の目的以外に使用しないこと。

(2) 常に善良な管理のもとに使用すること。

(3) 受信機に異状を発見した時は、ただちに村長に届け出ること。

(4) 受信機の改造は絶対に行わないこと。また補修についても村長の指定する者以外はできないこと。

(以下、省略:久保。)


cf.9高浜町公有浜地使用条例 (平成12年3月27日 条例第4号)

(使用者の遵守事項)

第10条 使用者は、次に掲げる事項を遵守しなければならない。

(1) 公有浜地の使用面積は200平方メートル以内としなければならない。

(2) ボートの隻数は15隻以内とし、乗船定員は3名以内としなければならない。

(3) 海浜清掃は毎日行い、ビン、空カン、石、ビニール製品等は必ず持ち出して処分しなければならない。

(4) 花火の販売は午後9時までとし、爆竹等危険な花火は絶対に販売しないこと

(以下、省略:久保。)


cf.10宜野座村村有財産貸与条例(1961年2月8日 条例第2号)

第10条 借受人は、村長の許可なく絶対に他人に転貸し、又は目的以外の使用に供してはならない