#064.読みやすい手書き楽譜の書き方 4
現在読みやすい手書き譜の書き方について解説しております。それでは早速続きです。
[アーティキュレーション]
アーティキュレーションというのは、スタッカートやアクセント、スラーなど音符とセットで書き込むことで、より具体的な表現を示す記号を指します。
記号の順番
音符に直接追加する記号には原則的な順番があり、音符に近い順に「スタッカート」→「テヌート」→「アクセント」→「フェルマータ」となります。
1つの音符にこれらがすべてが書き込まれることは多分ありませんが、例えばスタッカート+テヌートや、テヌート+アクセントは度々セットで書き込まれますから、順番を覚えておきましょう。
また、それらの音符に追加する記号とスラーは、スラーが最も遠い位置にすると読みやすくなります。
スタッカート
スタッカートは玉の最も近い「間(かん)」に書き込みます。玉と見間違われないようサイズに注意して書きしょう。かなり小さく書いても認識できると思いますので、グニグニと濃く書きすぎないのがポイントです。
テヌート
位置関係はスタッカートと同じで、玉に最も近い「間」に書き込みます。テヌートの場合、加線と勘違いされないように意識して書くことが重要で、短めに書くのがポイントです。
アクセント
アクセントは原則として「玉のある方の五線の外」に書き込みます。デクレッシェンドと間違われないよう、短めで、少し広めに書き込むのがポイントです。山型のアクセントも同様です。
フェルマータ
フェルマータもアクセント同様、原則として音符の玉のある方の五線の外に書き込みます。ただし、私が管楽器のパート譜を浄書をする上では、ほとんどの場合フェルマータは五線の上に書き込むようにしています。それは、フェルマータがテンポや演奏速度に影響を与える記号だからです。
詳しくは後述します。
ダイナミクス、スフォルツァンドなど
ダイナミクス、いわゆるフォルテやピアノの記号は音符の真下に書きます。ちょっとでもずれると誤解を招く恐れがある記号なので、わかりやすい位置を見つけます。
クレッシェンドなど
クレッシェンドやデクレッシェンド、ディミヌエンドはフォルテなどの記号とセットで書かれることが多いので、これらが(ピアノから始まってクレッシェンドした結果がフォルテだ、など)ストーリー性を持っていることが視覚的に理解できるよう極力横一列に書きます。そして開始と終了位置に関しても誤解がないよう丁寧に書きます。
また、とても長いクレッシェンドなどを書く場合、段が変わるかもしれません。その場合は、それが続いているとわかるように書きます。
また、場合によっては記号ではなく「cresc.- - - - - -」と文字で表記したほうが見栄えがよくなることもあります。これらは組み合わせて使うなど臨機応変に使い分けます。
スラー、タイ
スラーはあまり太く書くと楽譜が読みにくくなるので細く軽く書くようにします。
原則的には音符の玉からスタートするように書きますが、向きなどは状況によって臨機応変に書き分けます。
なお、タイはどのような場合でもできるだけ水平に書き、スラーは原則的に曲線部分を作って差別化します。
[文字、数字]
拍子記号
拍子記号の数字は五線の中にぴったり収める必要はなく、むしろ若干大きめに書いたほうがわかりやすい場合が多いです。略記の拍子は大きすぎずしっかりと書きます。
テンポ表記
テンポには文字によるものとメトロノーム記号によるもの、それらを両方表記する方法がありますが、拍子記号が書かれている場合は真上に揃え、そうでない場合はテンポが変化する拍の真上に書くのがルールです。また、文字は筆記体などではなく一文字ずつまっすぐにハッキリ書きます。
楽語、文字による指示
楽譜の中にはたくさんの文字が出てきますが、rit.やa tempoなどテンポ変化の指示、cresc.などダイナミクス指示、cantabileなどの曲想に関する指示、D.S.などの演奏順の指示などはイタリック(斜体)で書きます。ぜひお手持ちの印刷譜を見て参考にしてください。
なお、原則として『五線の上に書かれる文字はテンポなどの進行を指示する文字、五線の下に書かれる文字は曲想などを表す文字』と分かれています。そのルールを知らなかった方も無意識にそのように理解していたはずです。たまにrit.が五線下に書かれている出版譜がありますが、とても見落としやすいのです。
また、mute、open、change to Flugelhornなどはイタリックではなく真っ直ぐに書きます。
練習番号は演奏中に視界に入れるというよりもリハーサル時に探して見つけるものですから、演奏中に視界に入れなければならないあらゆる記号よりも遠ざけた上で見つけやすく(邪魔にならない程度に)大きくハッキリ書きます。
[ページ全体の構成]
1曲まるごとの手書き譜を作る際には、ページの構成について予め計画しておくことが大切です。見切り発車で書き始めてしまうと、とても中途半端なところで段やページを変えなければならない状況になり、せっかく音符をキレイに書けても読みにくい楽譜になってしまうかもしれないのです。
特に、ページをめくる箇所については意識しておきましょう。演奏しながらめくるような楽譜は言語道断ですが、だからと言って1小節しかない間でもめくるのは難しいですし、仮に4小節あってもテンポが速かったり、2/2拍子や6/8拍子だった場合、結局間に合わない可能性があります。トランペットであればめくれる楽譜であっても、テューバやコントラバスはめくるのに時間がかかります。
ページめくりを急いで欲しい場合はページの最後に「V.S.」を大きく書いておきます。V.S.とは「Volti Subito(ヴォルティ・スビト)」の略記で、「すぐにページをめくってください」という意味です。
どうしてもめくるタイミングがない場合は、楽譜は何も最後の段まで必ず書き込まなければならない決まりなどありませんから、下数段を残してキリの良いところで改ページしてしまって構いません。空白の五線部分に斜線を引いておくのも親切です。
このようにシミュレーションたり計画した上で奏者が使うことを想定した楽譜を書くことが大切です。
それでは、最後に、試しに今年度発表(来年度実施)の吹奏楽コンクール課題曲の一部を写譜してみました。これがどこまで見やすいかわかりませんが、ひとつの目安にはなるかと思います。
楽譜浄書について
最近はfialeなど楽譜浄書ソフトのユーザーも増えて、だれでも手軽に印刷譜を作れるようになりました。しかし、ほんの少し前までは超大手の楽譜出版社もこのような作り方をしていたそうなんです。
超一流のドイツ人職人が実演で“魅せる”美しい楽譜の作り方~ヘンレ社の場合~【演奏しない人のための楽譜入門#04 】
https://mag.mysound.jp/post/533
銅板に彫って原盤を作っていたというのは正直知りませんでした。それにしても素晴らしいクオリティですね。
finaleであっても読みやすい楽譜を作るには、小節内のバランスを整えて、全体のバランス、めくりなど全体のバランス段の距離を調整し、何度も確認して印刷し、目視でチェックするなど、何度もチェックと修正を重ねて完成させています。
演奏する方にとっても楽譜がなければ音楽は作れませんから、ぜひ大切に、そしてじっくり深く読んでいただきたいです。
ましてや購入せずにコピーというのは、楽譜を浄書、出版をしている人がタダ働きをしてしまうわけですから、これ以上コピーが蔓延すると楽譜が手に入らなくなったり、ありえないくらい高額になったりと結局は自分たちの首を絞めるかもしれないのです。
現在の吹奏楽出版事情は確かに、パート譜面ひとつ紛失したら全セット購入しなければならないリスクがあり、コピーしたものを使用するしかその回避方法がないために、ユーザーだけが悪いとは決して言えないのですが、少しずつインターネットでダウンロードして手に入るシステムも増えてきましたので、もしかすると近い将来必要分を無駄なく購入できる日が来るかもしれません。
とにかく、楽譜は購入して大切に使うものである、とだけは絶対に覚えておいていただきたいです。
それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
トランペットオンライン講習会次回は8月23日(日)「ハイノート(音域変化)」がテーマです。参加受付中!
トランペットから音を出さない聴講型のオンライン講習会ですからご自宅でもご参加可能です。次回は「ハイノート」がテーマです。
多くのトランペット奏者が苦手とするハイノート(高音域)。なぜ苦手と感じてしまうのか、具体的にどのような方法でハイノートが出るのかを音域変化の原理から紐解きます。
高い音が苦手な方にはぜひご参加いただきたいのですが、今回は高い音を出す直接的な解説をするのではなく、音域変化はなぜ起きるのか、その原理を理解し、日々の練習方法を知る回です。
もし予定が合わずリアルタイムでご参加いただけない方は、見逃し配信のご視聴申し込みもご用意しております。
詳しくはプレスト音楽教室オフィシャルサイトをご覧ください!お申し込みもこちらで承ります。