2020.08.01.「田辺いちかの会」
墨亭8月公演の初日は、朝から梅雨明けの晴天で、天気も味方につけての講談の「面白さ」を味わえた一日でした。
午前中の公演は、その実力が進境著しい田辺いちかさんの会。この日、いちかさんが選んだのは『英国密航』と『二人巾着切り』の二席でした。
前者は一鶴一門の方々が今も読む、いわばお家芸ともいえる話で、いちかさんも前座の頃から手掛けているとのこと。幕末の志士達が、如何にして御法度である海外渡航に出るのか。その行方とともに、横浜の港を出発してからの道中付けがやはり聴きどころで、歌がアンコに入ったりと入れ事充分、遊び心充分のケレン味ある一席でした。
二席目は、いわば、“いちかさんが見つけてきた”話。戦後しばらくの間、カストリ雑誌に加えて、謎の読み物雑誌が出版界を席巻したことがあります。その中には「神田越山」や、「大河内貞山」といった、そんな名前の講釈師がいる訳ないだろう!というような作者による講談風読み物が掲載されていたりもします。いちかさんのプロの目からすると、「明らかに講釈師が読んだ文章ではない……」というものがほとんどですが、いざ読んでみると、なかなか面白い物語もあったりします。そんな作品の中から選んできたのが、この『二人巾着切り』。あれこれ詳細は避けますが、これがなかなか面白かったのです! 政談の体をなした物語で、講談特有の登場人物の多さと、その人物達がどこかで結びついてくる、新講談の一席に仕上がっていて、この日はネタ下ろしということで、今後、整理されていくのでしょうが、話が進むに連れ、難解になっていく物語の行方を、いちかさん一流の話術の硬軟を用いて、うまく紐解いて見せていくのもまた聴きどころとなる。これからが楽しみな一席でした。うむ、今度は高座脇ではなく、真正面から聴いてみたい!そんなことをも感じさせる一席であり、次回の高座がまた楽しみとなる、そんないちかさんの高座を堪能した次第。
午後は「神田春陽 連続講談の会」でしたが、それはまた改めて……(雅)。