三つ子の魂百まで……心理学的にはどんな意味をもつ?
https://benesse.jp/kosodate/201607/20160725-2.html 【三つ子の魂百まで……心理学的にはどんな意味をもつ?【前編】】
「三つ子の魂百まで」と言われますが、このことわざは心理学的には根拠があるのでしょうか? 発達心理学を専門とする法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授にお話をうかがいました。
「三つ子の魂百まで」はどう解釈するといい?
「三つ子の魂百まで」ということわざの意味をどう理解されているのでしょうか? 「3歳の時点の性格や気質が大人になっても続く」と考えているかたが多いのでは。そして、「3歳までにしっかりとしつけをしなければ」などと焦りを感じるかたもいるかもしれません。
しかし、実際の意味は少し異なるようです。確かに「三つ子」は3歳児という意味ですが、このことわざではそれが転じて幼子全般を指しています。すると、「幼いころの性格や気質は大人になっても続く」という解釈になり、「それならごく一般的な話だな」と考えるかたが多いのではないでしょうか。ですから、このことわざの意味を考える際は、ことさらに「3歳」を気にする必要はないと思います。
発達心理学の観点では3歳で区切る根拠はない
それでも、昔の人が「三つ子」としたのは、理由がないわけではないと想像します。発達心理学の観点では、人は生まれた瞬間から連続的に成長しており、特に3歳で区切る根拠はありません。しかし、3歳くらいになると、おしゃべりになったり、いたずらをしたり、かなり個性が現れてきます。そのため、一般の人が「だいぶ、しっかりとしてきたな」と感じるのは、おおよそ3歳ごろになるのでしょう。その際に見える個性は意外と大人になっても変わらないところがあるという意味で、「三つ子」としたのかもしれません。
発達心理学では「3歳児神話」という言葉をどうとらえるのか
同じく3歳がキーワードとなる言葉に「3歳児神話」があります。「子どもが3歳になるまでは母親が家にいて子育てに専念するべき」といった意味で語られることが多いのですが、先ほどのケースと同じく発達心理学的にいうと、3歳児がクローズアップされる根拠はありません。さらに「子どもが幼いうちは母親が家にいるべきか」という点については、さまざまな研究が行われてきましたが、「家にいるから良い or 悪い」と単純には語れないことが多くの研究からわかっています。
例えば、本当は働きたいのに家に入ることを求められ、嫌々、専業主婦をする母親がいるとします。育児と家事に追われる毎日に疲れ、子どもにイライラをぶつけてしまうとしたら、子どもによくない影響が及ぶのは想像に難くありません。逆にできるだけ子どもと一緒に過ごしたかったのに経済的な理由などで働かざるを得ない母親が家で不満を爆発させるとしたら、これまた子どもに悪影響が及ぶでしょう。要は、母親が常に家にいるかどうかが問題ではなく、母親も父親もどう子どもに接するか、その在り方こそが子育てに最も大切なことです。
物理的な親子の時間についてはバランスを考える必要はあります。仕事が楽しいからといって、一緒に過ごす時間が極端に短い場合などはよい影響があるとは思えません。逆に長い時間一緒に過ごしても、保護者がスマホなど別のことばかりを気にして子どもは泣きっ放しといった環境では悪影響が考えられます。保護者自身がいきいきとできるライフスタイルを選ぶとともに、子どもとの時間をいかに大切にするかという思いや態度が、子どもの健全な成長につながると考えてよいと思います。
後編では、3歳ごろまでの育児のポイントについて解説します。
https://benesse.jp/kosodate/201607/20160730-2.html 【三つ子の魂百まで……心理学的にはどんな意味をもつ?【後編】】
3歳時点の個性や興味は、突然生まれるわけではありません。では、人間としてのベースが形成されてくる3歳までの時期には、子どもにどう接し、どのような関係性を築くべきなのでしょうか。発達心理学の観点から、法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授に解説していただきました。
「3歳までに○○をしよう」というフレーズは、ほぼ根拠が薄い
育児関連の書籍や雑誌では、「3歳までに○○をしよう」といったフレーズをよく耳にします。その根拠として「三つ子の魂百まで」「3歳児神話」が用いられる場合がありますが、これらに発達心理学的な裏付けはないことを前編で説明しました。
発達心理学的には、どの年齢も大切です。3歳を特別視する視点はありません。それでも、人間的な土台が形成されつつある3歳が大切であることはまちがいありませんから、発達心理学の観点から、この時期までに大切にしたい育児のポイントをお話しします。
◎「応答性」を高めることを意識しよう
0~1歳の時期に特に意識したいのは、保護者の「応答性」です。赤ちゃんは泣くことが唯一といえるコミュニケーションの手段です。それに対し、空腹なのか、オムツが濡れたのか、暑いのか……などを感じとり、応答してあげることが大事です。どうして泣いているのか、その意味を敏感に感じとるように心がけましょう。生まれた直後から子どもとのコミュニケーションは始まっているのです。
赤ちゃんは、しっかりと応答してくれた人とおおよそ1年かけて愛着(心の絆)を形成していきます。生後6、7ヵ月になると人見知りをするようになるのは、応答してきてくれた人と見知らぬ人とを区別できるようになるからです。こうした信頼関係を築くことが成長のベースとなります。
2歳ごろになると自我が芽生え、外の世界に対して意欲的になり、徐々に保護者から離れて遊べるようになります。それまでに築かれた愛着関係が安全基地となっているからこそ、安心して離れることができるようになるのです。さらに3歳ごろには、多くの言葉を獲得し、簡単なルールも理解できるようになります。
◎先回りして教え込まないようにしよう!
乳幼児期は、先へ先へと教え込もうとしない養育態度も大切になります。「おもちゃを買ってあげたから遊びなさい」「公園に連れて来たから遊びなさい」などと、保護者が先回りし過ぎて、子どもに過度に期待してしまいます。ですが、子どもは常に保護者の思った通りに振る舞うわけではありません。すると、保護者はイライラし、子どもは悲しい気持ちになるといった悪循環になります。
ここでも、やはり応答性が大切になります。子どもの姿をしっかりと見つめて、「何をやりたがっているのか」「何を教えることが必要か」をよく考えて接しましょう。子どもの自発的な言動に対し、「よくできたね」と認めたり、「こうしたほうがよいかもしれない」と教えたり、逐一、判断する態度が大切になります。
◎わかりやすい言葉で何度も説明しよう
子どもに対して言葉で説明しても、なかなか行動が変わらずにイライラすることがあるかもしれません。しかし、何度もわかりやすく説明するやり方が、最終的には最も心に深く届きやすいことを意識しましょう。感情に任せて叱ったり、ましてやたたいたりすると、「なぜ、そうするべきか」を考えることなく、怖いから従うだけになります。そうなると、怖い人がそばにいなければ、禁止されたことを繰り返すかもしれません。
0歳からの積み上げが3歳の個性を形成する
3歳ごろに表れる個性は、当然のことながら、3歳になって突然できあがるわけではありません。0歳からの積み上げにより、子どもの性格や興味は形づくられていくものです。子どもは、日々成長しています。「~~だよ」しか言えなかったのに、いつしか「~~しちゃった」「~~かなあ?」と語尾が多彩になる様子と同じです。日々、そうした小さな成長に出合えることが、子育ての喜びといえるのではないでしょうか。
プロフィール
渡辺弥生
渡辺弥生
法政大学文学部教授。専門は、発達心理学・発達臨床心理学・学校心理学等。研究活動に加えて、子どもの感情や社会性の発達などについて講演会の講師も務める。著書に『子どもの「10歳の壁」とは何か?』(光文社)、『まんがでわかる発達心理学』(講談社)。など。