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プリズンキャンパス

2020.08.04 11:56

今日も予鈴が鳴る。


午前9時。

身体が覚えた音を耳にして誰もが自分の囚人の元へと向かう。


自分の囚人って、どういうこと?って思われるのが当然だろうがこの場所では当たり前にそう言う。


いや、この国では…、と言った方がいいかもしれない。


人口の9割が犯罪者のこの国では、学校という学校が当たり前に刑務所化している。


小さく、辺鄙な国で、周りが断崖絶壁に囲まれた盆地であるこの国はない世界中からありとあらゆる極悪人の中の極悪人が収容されている。


立地的にも脱獄したところで断崖絶壁を越えるための手段はなく、唯一この国の出入り口である門は囚人が送られてくる時にしか開かない。


警備もほとんどないが未だに脱獄犯がその門を開けられた試しもない。


錠もないし、鍵ももちろん掛かっていない。


じゃあなぜ逃げられないのかと言えば、人ひとりが押して開けるような門ではないからというだけ。


鉄製の、見上げるほどに高いその門は壁のように立ちはだかり。


大人100人で押しても隙間が開けばいい方だ。


その隙間からいつも囚人が送られてくる。


こちらとしても囚人をそうホイホイ受け入れたいわけではなく、


開けられるものなら収容しようという体制だ。


だから外の国の人は精鋭部隊を率いて自分の国の極悪犯を一生戻ってくることがない折り紙つきのこの国に閉じ込めにくる。


国そのものが刑務所とでも思っていそうだ。


いや、違いはないが…。


かくゆうこの国からしてみると、他の国と違って産業が発展してるだとか、名産品があるだとか、観光スポットがあるだとかそんなものが一切なく。


海外から受け入れる極悪人たちを収容し続けるという契約の名の下で潤っているというなんとも悲惨な情勢だ。


技術の進歩がある国でもなければ、高層ビルが立ち並んで女の人がバリバリ働くなんて話しはこの国の者たちからするとまるでお伽話同然。


大自然とともに暮らしてきたあたしたちはただただ自分たちが育てた農作物で日々の食を補い、


衣類に関しても布を染めて身体に巻くようなものが多い。


勿論海外から輸入した服や食べ物だってあるがそんなものがこの国に来るのは稀。


なかなかにこの場所へと商業を行ってくれるところは少なく、


この国の商人が海外から帰ってきて皆に売りさばいてくれるタイミングを見計らう他に手に入るすべがないのだ。


ただこんな国でも長く存続している理由はある。


囚人と隣り合わせの国なんて危険だと思う者が多いがそうじゃない。


寧ろそういう囚人たちはこの国と共に生きてもらっているし、かなり有益な働きをしてくれている。


ここでは囚人を檻の中に入れる真似はしないし、人間以下だと蔑むものもいない。


怖がるものもいなければ、寧ろどんな技術を持ったどこの国の犯罪者かと興味を示すものの方が多い。


何故ならこの国は表向き、刑務所とはっきり言われているがその実。


知る人ぞ知る、救世国とも呼ばれているのだ。


囚人だって人間。

相性というものはあるし、言葉も話せるし、意思疎通もできる。


こちらが歩み寄れば向こうだって歩み寄ってくれる。


そんな子供に教えるような平和ボケ精神が根強く残っており、


この国の民はこの国で囚人と共に暮らしながら、殺されただとかいたぶられたという話しなど一切ないのだ。


寧ろこの国の民だけが、どんな極悪非道な人間とも付き合える救世主のように歴史で語られている伝記すら残っているほど。


逆を言えば、極悪人たちはこの国の民にだけはどこの国から来ようとも心を開いて個人としての在り方を享受する。


だから裏では救世主が住まう国として、救世国なんて呼び方をされ、


囚人を迎え入れる資産だけで成り立っているように見えるがその実、


この国では囚人を当たり前に外国へと出していたりする。


これはこの国のものしか知らない極秘とも言えるし、誰もそれを語りはしないが、


極悪人の知識や技術、経験というものは正義感を持って訓練し、戦場で生き抜いてきた戦士や、


有名な学校へ通って知識を身につけ、エリート道を突っ走っているような人たちよりよほど利益を生むのだ。


つまり、海外での未解決事件だったりプロでも手の施しようがなくなった事件だったりというものを相手に、


本物の犯罪のプロが出向いている。


勿論、その囚人のパートナーとして選ばれたこの国の民も一緒にだが。


そこから生まれる利益は産業の発展や貿易なんかよりもかなりの富を生む。


そうして成り立つこの国のシステムは、大人から子供まで。


自分の囚人を持っているのだ。


そしてあたしもこの国の民のひとり。


今日もこの国にはひとつしかない高校という学園で、学生生活の朝を迎えていた。


未成年の子供に分類されるうちはいくら自分の囚人がいるとは言え共に生活はできない。


そもそも共に生活するにしても結構いろんな規則があって、本当に信頼関係を結べている者だけがこの国でのみ当たり前に囚人も生活を共にする。


かくゆうあたしのパパは元殺人鬼だ。


ママが担当した囚人がパパだったらしく、その狡猾さは折り紙つきでこの国へと収容されたらしい。


けれどやはりこの国の民ならではの遺伝なのか血筋なのか…、


ママはパパを最初に見た瞬間、雷にでも打たれたようにこの人と結婚するだろうと確信したとか言っていた。


パパから話しを聞けば、どんなに脅しても、どんなに酷いことをし尽くしてきたか話しても、


ママはドン引くどころか、外の話しに目輝かせて聞いていたらしい。


変わった女、それともイかれた女という印象が強かったものの、


次第にわざと脅したりするのがバカらしくなって、自分のありのままの人生に耳を傾けながら受け入れてくれるママにだけ、


生まれて初めて心を開いたのだと言っていた。


照れ臭そうに、それはお酒を煽ってのことだったけれど。


この国の人口の殆どが犯罪者の子供だったりする。


なんならそういう技術を当たり前に教えてもらったりもしている。


勿論悪いことに使われた試しは一切ないのが不思議なくらい、この国は犯罪者の子供っていう事実がマイナスにはならない。


それが当たり前なのだ。


なんなら学校に通って習う事といえば、犯罪学だし、歴史だとどんな犯罪者がどういうことをした経歴があるのかとか、


知性のある犯罪者がこの問題をどうやって解いただとか、


この国は犯罪という犯罪に寄り添って生活がある。


そしてそんなあたしたちが自分の囚人を持てるのは、決まった年齢もなく。


幼少期からそういう人たちと接してる分、まだこの国の民がパートナーについていなかったり、


何度か試しに話してみても相性が悪くて残っていたりする彼らの収容施設はいくらでもあって誰でも足を運べるから、


5歳児だって懐いてしまえばその人がパートナーだと認められ、申請が通る。


あたしはそれこそ、10歳にも満たない年齢で彼に出会った。


予鈴の音を聞いて、各々が向かう部屋はこの学園の生徒のパートナーが生活している最上階。


この国のシステムで面白いところはこれではないだろうか?


パートナーである人物が毎日通う場所。


つまり、学生なら学校だし大人であれば職場。


主婦であれば自宅とは別の離れに国が囚人のために用意する部屋というものが必ず存在する。


自分の囚人ができれば、毎日必ず顔を合わせるのが当たり前であるし、それについて会えない距離であることは絶対にない。


小さな国でも収入はそこらの大国を上回っている分、この国の民と囚人の関係を深く繋げるための建築費なんてものはポイと出してくれる。


学校では最上階にそういう収容施設があり、施設と言っても個別に部屋が設けられているのでホテルやマンションのような光景であるが、


まあ各自、自分の囚人が生活している鍵を持ってその扉を開けることから1日が始まるのだ。


あたしもポケットから鍵を取り出し、トランプのチャームが付いているそれを見て足早に最奥の部屋へと向かっていた。


あたしのパートナーはこの国でも少々異端で、あたしが何もわかってない幼少期に彼の元へと通い続けて触れ合う姿を今でも大人たちが語るほど。


この国に来て10年余り、パートナーが出来ずに持て余されていた極悪人であったらしい。


今となってもそれを聞かされたところでピントはこない。


だって皆が語る彼の印象はあたしにはないものばかりだから。


簡易な扉の前に立ち、持っていた鍵を回して中に居る人物を見ると心踊るのはおかしなことだろうか?


「ユーリ!おはようっ!」


部屋の質は悪くない。

寧ろあたしの住まう部屋よりいいものかもしれない。


ひとり部屋としては簡易なキッチンもトイレもシャワーだってあるワンルームがそこに広がっており、


簡易なベットに今日も座ってフードを被った男、ユーリがあたしの囚人だ。


最初見たときは女の人かと思ったほど、綺麗な顔立ちと無表情の迫力は言わずもがな。


赤みの強いヴァイオレットの瞳はあたしの好物である赤ぶどうの色と同じ。


センターで分けられた白髪はストンと落ち、ピアスなどのアクセサリーが当たり前に多くつけられ、


なんと言ってもその首筋に刻まれた数字だらけの刺青が印象的だろう。


本を片手にあたしの訪れへと視線を向けるだけのユーリはあんまり感情というものが見受けられない。


彼の容姿もその性格も雰囲気も、この国の民が持て余すほどには外見から異端だったようで、


最重要指名手配犯に名を挙げ、世界的な犯罪者としてこの国に収容されたときの年齢は今のあたしと変わらないくらいだったとか。


「読書の邪魔をするなといつも言ってるだろう。なんでお前の声はそうもうるさいんだろうね。」


パタンと閉じられる本と、不機嫌な声音。

けれど変わらない表情。


これがあたしの囚人、ユーリだ。


海外から様々な国の犯罪者が集うこの国では、名前がカタカナの人もいれば漢字の人もいる。


多国文化を取り入れているこの国の子供達にもそれは反映されており、


容姿だって様々だから色彩だけで迫害されるようなことはまずない。


そんなことを言っていたらあたしの髪だってユーリに近い白い金髪。


いわゆるプラチナブロンドというものだ。


「もう朝ですよ?読書の時間は終わりです!さあ、ユーリ。冒険の時間ですよ!」


ふふっと笑いながら怖がることなく彼の側へ寄ると、ユーリは呆れたような慣れたような態度で息を吐く。


「冒険って…、どうせグロテスクでイかれた犯罪者の殺人現場にでも連れて行かれるだけだろう?」

「でもユーリにしか解けない謎です。」

「どうでもいいね。僕はここで読書しながら君のうるさい声を聞いているほうがよほどいい。」

「その才能は神様がお与えになったものですよ?使わずしてどうしますか?それに外の国にはここと違っていろんな景色や文化があります!あたしはそれが見たいのです!」

「目的がそもそもズレてんのは相変わらずか…。」


やれやれとため息をついて、それでもまだ腰を上げてくれないユーリ。


今日は数少ない外出許可が下りた日なのにあんまりな態度にぷんぷんしてしまう。


「ユーリは広い世界を知りたいとは思わないのですか?あなたに回ってくる仕事は他の誰より少ないのですよ?あたしはとっても楽しみにして今日を待ちわびていたのに。」


元から小さな背のあたしは座るユーリですら軽く見上げなければならない。


彼の身長に合わされた机も、爪先立ちして顔を出すほどだ。


身体いっぱいを使って文句を言わなければならないあたしの問いかけに、ユーリは興味が薄い表情で見下ろしてくる。


「僕に回ってくる仕事が少ないのはそれだけ危険だからだとなんてわからないかな。」

「わかってますよ!でもユーリなら解けるんです!そしてあたしはユーリのパートナーですよ?どんな危険でも二人なら怖くありません!」


今までそうだったのだから間違いないですよ?と根拠を述べてニコニコしていれば、ユーリは大きく大きくこれ見よがしにため息をついてきたのである。


「メアリー、夢見がち少女はそろそろ卒業してくれないかな。疲れてきたよ。」

「妖精はどこの国に行けば会えるんでしょうか?あやかし、というものにも会ってみたいですね。ユニコーンというものは神聖な森に住まうと本に書かれていました!今日行く国には忍者がいるそうですよ!楽しみですね!!」

「はあ……。」


この国でいると、外の国のことはとっても神秘的でワクワクとドキドキに満ち溢れているのです。


多国文化のこの国には様々な国から取り寄せた立派な図書館があり、


あたしは幼い頃からそれらを読んで空想するのが楽しかった。


今となったら本に書かれていることが本当にあるのか、会ってみたいものや見てみたいものの場所へと訪れるチャンスがある。


自分の囚人がどんな分野で長けているかで仕事の回りは変わるのですが、


ユーリは元々かなり扱いにくく、捕まえることに世界各国が力を総じていた犯罪者なだけあって、


腕は確かでも、あまりこの国から出すことは良しとされていない。


どんなにこの国の民がパートナーとしてついていようが、それだけで信頼のおける犯罪者ではないようなのです。


確かに無愛想で、いつも深くフードをかぶり、派手な見た目は人間離れした精巧さではあるけれど。


あたしからしてみれはユーリの能力は魔法と同じ。


ドキドキとワクワクが詰まった夢の始まりでした。


「16にもなって何言ってんだか…。」

「もう16歳です!」

「16歳は5歳児が抱くような夢を本気で語ったりしないから。」

「夢を諦めてしまったら終わりですよユーリ。信じていればもしかしたらもしかするかもしれません!ママも言ってました!不思議なことはたくさんあるって!たくさん!あたしも知りたいのです!!」


だから行きましょう!と彼の腕を引っ張ると、ユーリは面倒そうな顔をしながら頬杖をついて見下ろしてくるのです。


「取り敢えず、仕事の内容を聞こうか?」

「…はい!」


一週間前に言い渡された仕事のファイルをすちゃっと用意して、


あたしはユーリに手渡しながら語ったのです。


「忍者がいると言われているその国の重要文化財が盗み出されてしまったようなのです。城ごと全部!」

「城ごと…?」


どうやら興味を示してくれたらしく、ファイルをやっと開いたユーリを前にあたしは大きく頷いていました。


「そうなのです!忍術でしょうか?!とっても有名な観光名所にもなっていたらしく、忽然と城が消えたことで大騒動らしいのです!しかもこの忍者さん、他の国でも有名建築物を盗み出しているようなのです!」

「………」

「一週間ほどで建物は元の位置に返されるようなのですが、中にある国宝級のお宝や美術品は綺麗に盗まれているようですよ。」


捜査をしようにもどうすればいいのか手詰まりらしく、


各国で警察が動き回ってはいても犯人の姿すら検討が付いていない。


ただ建物ごと消えて一週間すれば元どおり。


中身は空っぽというなんとも奇妙な事件が舞い込んできたのです。


「時間がかかりそうでしょう?いろんな国に行って調べる必要がありますよね?今から楽しみだと思いませんか?」


ワクワクとしながらユーリを見上げて問いかけると彼はひとこと。


「ただのミスディレクションじゃないか。」

「へ…?みすでぃ…、なんですかそれは?」

「ミスディレクション。相手の注意を派手に引いて余所見させる間に目的を遂げるやり方だ。」


こんな風に、と見せてくれる彼は目の前で手から火を出した。


びつくりして飛び跳ねながらも、確かにこんなに派手なことをされたら視線はそちらに向く。


「すごいですユーリ!それどうやったんですか?!」

「すごいのは手から火を出すことじゃないから。」

「はい?」

「ペン貸して。」


手を差し出されることにいつも持っている愛用のペンを出そうと服のポケットに手を突っ込んだのですが、


いつもの場所にいつもの感覚がなく、あれ?と思っていれば目の前でユーリがあたしのペンを見せてきた。


これには二度びっくりです。


手から火が出ることに意識がそれて、盗まれていることに全く気づけませんでした!


思わず拍手を送るあたしにユーリはなんでもないことのようにペンを返してくれながら、


「これがミスディレクションだ。」


そう教えてくれたのです。


「いつ見てもユーリの魔法は惚れ惚れしますね!」

「魔法じゃなくてマジックだし、マジックを使った犯罪は詐欺って言われてるんだけどね。」

「そんなにも手が器用に動くなんて!ユーリの手は魔法の手です!」

「聞いてないねメアリー。」


そう、ユーリの罪名は詐欺。


詐欺は詐欺でも種類は様々あるもので、大きく分類されるなら泥棒とも言う。


ユーリはその中でも極めて罪状の重い盗みを働き、人を騙し、世界を嘆かせた知的犯罪者なのである。


故に、彼の言葉を鵜呑みに信用してはならないと各国の依頼人ですらあまり彼を頼ろうとはしない。


言葉の裏をかかれて知らぬ間に破滅させられた人が多いらしく、仕事の回りは良くないのが現状です。


それでも彼の頭脳や才能を借りなければ解決できない事件というものは少なからずあり、あたしはその日を待ちわびているのだ。


彼に巡ってくる仕事はどれもこれも他国に長期滞在しなければならないような案件ばかりで、


存分に外の世界を回れるから、名目上は仕事でも、人の命に関わってしまうことでも、


とってもワクワクしてしまうのです。


「そのミスディレクションとやらで建物ごと消してしまえるものなんですか?!」

「行ってみないとわからないけど、恐らくは大規模な仕掛けがあるだろうね。」

「………っっっ!!!!」

「感動して言葉も出ないところ悪いけど、とっとと解決して帰るからね僕は。」

「そ、そんな…!せめて1ヶ月くらい滞在を…!忍者みたいですっ!!」

「1ヶ月?冗談だろ。一週間で捕まえるよ。なんでこんなことにいちいち僕の時間を割く必要があるんだ。面倒くさい。それならメアリーをからかって遊ぶほうがよほど有意義だ。」

「あたしはおもちゃじゃありませんよ!ユーリのからかうはとっても悪質です!!この前だってあたしのパンツいつのまに盗んだんですか!!帰ったらノーパンで、すごくびっくりしたんですから!!」

「今度からはもう少し色気のあるパンツにしてね。」

「会話のキャッチボールしてくださいっ!」

「メアリーにだけは言われたくないな。」


あたしたちの会話はもっぱらこんな感じ。


大泥棒と言われるだけあって彼の盗みのテクニックには普段から一喜一憂してしまっています。


そういう魔法をパンツを盗むことに使ってはいけないと思うのです。勿体ない。


なのにユーリときたら大きな事件よりもあたしのパンツを盗むほうが楽しいらしい。


変わり者ですよ彼は。


「ていうかパンツ返してくださいよ!兎さん気に入ってたのに!」

「それより仕事だろ?とっとと行って捕まえて報酬ふんだくって帰るよ。」

「そうでした!忍者に会うんでした!!」

「会ってどうすんの?」

「忍法とやらを教えてもらうのです!知ってますかユーリ?忍法を会得したら分身が作れたり、壁に同化できたりするらしいのです!」

「……………ああ、うん。」

「風呂敷で空も飛べるようになるんですよ!!」

「考えても見ろよ。人の重さと、風呂敷を広げた時の布面積の空気圧でバランスが取れるわけないじゃん。普通に落下して即死だからそれ。」

「それを可能にするのが忍者なのですよ!」

「あ、そう。」


簡単に気をそらされたことにも気づかないあたしはユーリとともに今の彼の部屋から出て仕事に向かったのでした。


実はユーリのクローゼットにあたしのお気に入りの下着や小物、写真を収納したコレクションが密かに出来上がってることなど知らず、


出会ってから7年の月日の中で、あたしから盗み出したあたしのお気に入り達が密かに愛でられていたことも知る由はありませんでした。


「あ、ユーリ!忍法にはお色気の術というものもあるらしいのですが、知ってますか?」

「ぶ……っ!…っ寧ろメアリー。お色気の術がどんなものか知ってんの?」

「異性を腑抜けにさせて、目的を遂げる術と本には書いていました!これくらいならあたしでもできそうだとは思いませんか?!」

「断崖絶壁の胸に誘惑されてくれる稀な思考の男がどれほどいるかによるんじゃないの?」

「だん…っ?!こ、これから成長するんですよ!!ていうか女の子の胸に対してそんな言い方しますか?!気にしてるのにっ!!」


ママは形もよくふくよかで羨ましい胸なのに、16にもなってあたしは周りよりも断然幼児体型代表だ。


未だに12歳前後に思われがちな身長だから、生まれつきウェーブの強い髪を伸ばして女らしさを出そうとしているのです。


なのに、断崖絶壁と言いましたねユーリ!


聞き捨てなりません!!


ムンとして言い張ればユーリは素知らぬ顔であたしの長い髪をひとふさ取ってフッと目元だけを笑わせていました。


「気にしてんなら背伸びしてお色気なんてやめとくことだね。むしろ誰を誘惑するつもりでそんなこと言ったわけ?」

「わ、わかりませんが…!手当たり次第やってみようかと!」

「死人を増やしたくないならやめときな。」

「お色気の術って人の命を奪うんですか?!そ、それはやめておきます!!教えてくれてありがとうございます!」

「どういたしまして。」


相変わらず無表情で、淡々とした物言いで。


素っ気ない態度のユーリから教わることは多い。


だからホッと胸をなでおろすあたしは知らなかったのです。


死人が出るというその言葉に含まれた意味を…。


「僕も殺人犯にまではなりたくないしね。」


ペロっと軽く舌を出して素知らぬふりしながらあたしの隣を歩いていたユーリのことなど知る由もなく、


彼があたしの素直さを利用して様々な間違った知識を7年もの間植え付けていたということも…


あたしが知る時はおそらく死ぬまで来ないだろう…、



ユーリが墓場まで持っていく謎。