それいけアセビちゃん
000.それいけ、アセビちゃん
「ジキっ!ジキはいないの?!ジキタリス…ッ!!!」
「うえ…っ、今度はなんなんだよアセビちゃん…。」
「あたしペットが欲しいっ!!作って!!」
「いやいやいや…。俺様はただのしがない機械技師だから?ていうかペット作れって何??生き物創造できたら俺様、神様だろ。」
「本物のペットは食費に散歩にって金がかかるし面倒じゃない。ていうかあたしにそんな時間取れるわけないし。あたしが構いたい時だけ構えるペットがいいの。」
「…………あいっかーらず我儘だよねえ、アセビちゃんって。しかも人使い荒い上に給料にも見合わない仕事だし……。」
「なんか言った?!」
「いえ、なにも。」
あたしの目の前では今日も地下の工房で閉じこもり、作業服姿の男が目をそらして軽く両手を挙げている。
青い黒髪は癖っ毛で、いっつもだらしのない顔しちゃって。
つり目のくせにどこかオドオドしてて、陽に当たらない肌は不健康な色そのもそも。
油と汗にまみれて今日も汚い男、ジキタリスことジキはあたしの家の専属機械技師である。
ちょっとばかり裕福な家であるからして、両親は当然のように仕事人間でほとんど会えない。
ただ、両親が経営している会社の販売品を作る工場で両親の目に適ってこの家の専属技師となったのがジキ。
腕もよく、頭の回転も早く、注文したものがどんなに最新の技術であろうが作り出せてしまうその腕を買われてここに住み込みで囲われてる男。
工場で働かせるには勿体無いと両親は言い、販売したい試作品や、イメージでしかないモノをジキに言えばすぐ作ってくれることからかなり重宝されている。
ただあたしからしてみれば、昔から8つも歳の離れたジキはとっても都合のいい遊び相手。
あたしの我儘を全部形にしてくれる便利な幼馴染。
そういう概念しかないから、今日も今日とて大学の帰りにたまたま立ち寄ったペットショップで。
なんとなく欲しいなって思ったものを作ってもらいにこんな汚ったない地下まで降りてきたのである。
「ていうか、ペットってなにがいいわけ?」
「取り敢えず、色々試作品を作ってみてよ。なにがいいか、なにが気に入るかはその時決めるわ。」
「はあ………。俺様、忙しーんだけど。」
「あたしの言うことが聞けないわけ?!」
「やりますやります!やらせていただきますっ!!」
わかったから!と言わんばかりに凄んだあたしの形相に、ジキは叫ぶように両手をあげる。
全く、いちいち腹立たしい男だ。
フンッと鼻を鳴らして腕を組み、とっととこんな汚いところからおさらばしようと背を向けるものの…。
「あ、今日中に作ってね。」
言い忘れていたと振り返って付け足すと、
「今日中?!」
「なんか文句あんの?」
「いや、それはさすがに俺様でも無理があるかと……っ。」
「天才技師として見込まれてこの家にいるんでしょう?それくらいできて当然じゃなくって?」
「そうは言われても……。」
「今日中に作れたら、あんたの欲しいご褒美をあげるわよ?」
「マジで?!」
この男、本当にあたしより年上なのかと疑うくらいには単純だ。
それに、
「じゃあアセビちゃんのパンツちょうだい!」
キモい上にド変態。
キラッキラした眼差しであたしを見つめてくるジキの開き直った変態度には慣れてるとは言えため息すらつきたくなる。
「別にいいけど、お気に入りはあげないからね。もういらないお古だから。」
「全然いいっ!てかむしろそれがいい!!」
「はあ…?パンツなんてなにに使うわけ?」
「そりゃもう色々と!!」
なぜか興奮しているジキのキモさはご覧の通り。
一日中、地下にこもって油まみれの男は見た通り根暗なくせにオープンなド変態。
まあ別に、あたしの欲しいものを欲しい時にくれるなら下着くらいあげるけど。
「今日中に作れたらね。」
「俺様に作れねえもんなんかあるわけないじゃんっ!!」
俄然やる気になって胸を張るジキの姿に白けた目を向けて。
今日も今日とてチョロい割に、やる気になる理由がパンツなんてどんだけ安い奴なんだと馬鹿にする気持ちで階段を上がっていた。
生まれついての自慢の赤髪をなびかせながら、「アセビちゃんのパンツゲットすんぞーっ!」と叫んでるジキ雄叫びを聞きつつ。
「今日も平和だなあ…。」
なんて呟きながら、面白いことでも起きないかなって思う日々。
それがあたしの日常だ。
二十歳を迎えた大学一年生にして、それなりに苦労のない人生を辿ってる。
欲しいものは全部ジキが作ってくれるし、不満なんかない。
そうは思うけどやっぱり、ジキに頼んだって作り出せないものがひとつある。
それは……、
「ああ…。もう、シキミ様が恋しい……。」
惚れた男の代わり。