COVID19 パンデミックにおける子犬事情
アメリカ心理学会で出しているPsychological Todayに掲載されたMarc Bekoff 先生の記事を紹介します(菊水健史意訳)
Pandemic Puppy Pandemonium Requires Lots of Time and Love
https://www.psychologytoday.com/us/blog/animal-emotions/202007/pandemic-puppy-pandemonium-requires-lots-time-and-love
先日、地元の公園でちょっとした小さな集まりをしていた時、ある人が「もうすぐ子犬を養子にするんだけど、何に一番力を入れるべきかな」と聞いてきました。迷うことなく、私は「社会化してください」と答えました。そうしたら 彼は「本当?」と聞き返してきました。
COVID19のパンデミック中に生まれ育った子犬は、実は危機に面しているかもしれません。「子犬を迎えるのに、家に閉じ込められている間が一番いいんじゃないか?」理論的にはそうかもしれません。でも注意点しなければならない点もあります。イヌやネコを飼うことが、必ずしもパンデミックを乗り越えるための良い方法であるとは限りません。むしろ注意することも沢山あります。迎え入れたイヌやネコのストレスを軽減するためにも、動物が実際に何を必要としているのかを知り、その動物の個性に細心の注意を払うことが不可欠です。私たちの生きている現代社会はすでに偏狭な社会ですから、この状況でイヌやネコを家に受け入れることをしっかりと考える必要があります。
子犬の場合は、多くの社会化が必要です。そして社会化の過程で「必要以上のもの」を与えることは、子犬にとっても、あなたにとっても非常に有益なことです。残念なことに、パンデミックの影響で、子犬の社会化の機会を得ることが難しくなっています。このような状況下ではインターネットは貴重な情報源である一方で、誤った情報も広めています。だから、もっと科学的な理解から始めてみましょう。
Psychology Todayのライターであり、犬の専門家でもあるZazie Todd博士は、「子犬の場合、環境に対する社会化は3週間から始まり、12~14週間くらいまで続く」と指摘しています。この時期が重要であるという知見は、この時期に子犬を隔離するという古典的な実験から得られたものです。敏感期がいつ終わるかは正確にはわかっていませんし、犬種によっても微妙に違う時期に終わるかもしれません。しかしいずれにしても、子犬がこの世での生活に備えるために、目的を持ってポジティブな経験をするための期間は限られているということです。
この最も重要な成長期に子犬に何が起こるかは、成犬になってからの子犬の行動に直接影響します。適切な社会化が行われていれば、新しいことにも対応し、嫌な経験から立ち直ることができる回復力のある成犬になりますが、不適切な社会化や不十分な社会化は、社会性を恐れ、不安を抱く犬になってしまう可能性があります。お手やお座りのようなマナーやスキルを子犬に期待するのではなく、子犬が世界で快適で安全な生活を送れるようにすることに重点を置くべきなのです。マナーやスキルは成犬になってもいつでも教えることができます。
子犬の社会化において、様々な環境とのかかわりの量は重要ですが、それ以上に質の高さが重要だということを付け加えたいと思います。子犬の社会化をするとき、多くの新しい飼い主はチェックリストに沿って進めていけばいいと思っていますが、それでは不十分です。時間をかけて、様々な刺激(人、場所、表面、他の動物、一人で放っておかれることなど)に対して「これはいいことだよ」という関連学習をさせなければなりません。また、子犬は遊んで楽しんで、たくさんの豊かさを楽しむ必要があります。
ここでは、実際にあった難しい話をいくつか紹介しますが、子犬の社会化の間違った方法の重要な例です。最近、子犬の飼い主さんからメールをいただきました。彼女が最初に雇ったトレーナーのホームページには最低限の情報しか載っていなかったのですが、Googleで5つ星を獲得していたので、試してみることにしたそうです。トレーナーがトレーニングセッションのために訪問すると、子犬のSpotは吠えたり、後ろに下がったり、うなり声を出し始めました(Spotの行動やボディランゲージから、明らかに怖がっていることがわかります)。トレーナーは平然とSpotを追い詰め、首輪にリーシュを付け、リーシュでSpotの前足から離したり(窒息させたり)、吠えたり唸ったりするたびに鼻を叩いたりしていました。トレーナーはその後、飼い主さんにも同じように指示し、Spotが常に自分の後ろにいて "決して主導権を握っていない "ことを確認したというのです。スポットは震えていたそうで、その間に排尿をしていたそうだ(吠えるのは止まっていたようですが)。楽しいはずの知らない人とのかかわりが、壊された瞬間になります。
また、メリーランド州の動物病院によって投稿された動画を友人から共有してもらいました。友人は私に、それについて何を考えていたかを尋ねました(その後、動画は削除されている)。この動画では、生後12週間の子犬、Bubbaは、スタッフが子犬の肢の処置している間、もがき続け、物理的に拘束され、うなり声、スナップ、唸り続けました(Bubbaは、Spotのように、不快で恐怖を示していた)。一方、動画のナレーターは、彼らはBubbaの新規刺激に対して脱感作していると言い(慣れさせること)、これらの状況で犬の飼い主として、あなたはイヌをほめたり、おやつを与えたりしないでください、と話していました。
今読んだ内容について、不快に感じたり、心を痛めたり、激怒したりしているのであれば、その通りだと思います。このようないわゆる「間違ったしつけ」の方法は、子犬(あるいは成犬)には決して受け入れられないだけでなく、社会化と発達の重要な敏感な時期に、子犬たちの主要な経験の一つであったということは、さらに問題です。
これらの子犬たちは、上記のような状況を自分で選択することができたのでしょうか。子犬たちには、このような状況で自分がこれから生きる世界の楽しさを連想する機会が与えられていましたか?絶対にありません。自分のことを考えてみてください。もしあなたがクモを怖がっていて、誰かがあなたの意思に反してあなたを押さえつけ、あなたにクモの入ったバケツを投げつけている間に「慣れる」ことを強要したとしたら、あなたはどう感じるでしょうか?選択肢の欠如と避けられない嫌悪刺激の持続は、特に犬がまだ子犬の時には、取り返しのつかない心理的なダメージを与えることがあります。これは人間も同じです。
SpotとBubbaの話に戻りましょう。どうすればよかったのでしょうか?Spotが知らない人を怖がっているのであれば、知らない人は安全で、食べ物や楽しい話、おもちゃなどの動機づけになるものを与えてくれることを、時間をかけて丁寧に教える必要があります。もしBubbaが前足を触られることを嫌がっているのであれば、前足を触られると良いことが起こること(例えばおやつがもらえる)を教えるために時間を費やすべきです。
どちらの場合も、子犬のボディランゲージに細心の注意を払って子犬の様子を把握し、子犬が快適に過ごしているとは思えない動きをしないようにしなければなりません。また、イヌは個体差がありますので、食べ物がおいしいというのは、良い連想を形成するための普遍的な方法になりがちですが、イヌのモチベーションを高めるものが違うということを覚えておくことが大切です。子犬や他のイヌとの付き合いを助けるために食べ物を使うのは全く問題ありません。愛情が減ることはありませんし、利用されることもありません。
もちろん、このトレーニングにはもっとたくさんのことがありますし、もしあなたの子犬や成犬でこれらの問題を経験しているなら、一人で悩まないでください。認定されたドッグトレーナーに依頼して、犬の個性に合わせたトレーニングプランを考えてもらうようにしましょう。あなたが選ぶトレーナーは、ちゃんとした行動科学の実践者であることを確認してください、なぜなら、多くの人々が気づいていないかもしれませんが、正しい知識をもっていなくても誰もが自分自身をドッグトレーナーと呼ぶことができるということです。
嬉しいことに、私が美味しいおやつを投げてあげたり、安心できる場所を与えたりしただけで、数分後にはSpotと私は良い友達になっていました。Bubbaに関しては、あの問題のビデオに対する世間の反応が、動物病院とBubbaの飼い主さんに伝わり、考え直してくれることを期待しています。獣医療の世界では、ストレスの少ないハンドリング技術がどんどん普及していくことを期待していますし、この動きは今後も続くでしょう。
「ワクチンを十分に接種していない子犬はどうでしょうか?」これは、一生懸命な子犬の飼い主さんからよく聞かれる質問であり、子犬の飼い主さんが心配するのも無理はありません。残念ながら、子犬は社会化の敏感な時期を過ぎてからでないと、完全にワクチンを接種されていません。アメリカ動物行動獣医学会によると、「行動上の問題は、飼い主と犬の絆を脅かす最大の脅威である」とされています。実際、行動の問題は、保護施設への放棄の第一の原因です。感染症ではなく、行動の問題は、3歳未満の犬の死因の第1位です。子犬のワクチンも大事ですが、それ以上に 子犬の社会化は、賢く行う必要があるのです。
時間は大切です。そして、子犬には優しくしてあげてください。子犬はまだ赤ちゃんです。私たちが仲間である動物とお互いに優しく接することで、子犬だけでなく、私たち自身も尊厳を持つことができるのです。