「…I Never saw another butterfly…」
8月は、日本人にとっては平和の大切さを、考える月ではないでしょうか。
自分は声高に「日本人」などと言う大きな主語を使うのは、あまり好きじゃないのですが、今日は8月6日です。
原爆を描いた作品は様々ありますが、自分は原民喜の「夏の花」は優れた作品だと思っています。もし未読でしたら是非。美しい文章の、悲痛な小説です。
ですが、今日紹介するのはまた違う本で「…I Never saw another butterfly…」と言う本です。
数年前にも紹介したことがあるので、記憶にある方もいらっしゃるでしょうか。
表紙には可愛らしく、なんとなく無垢な印象を与えるイラストが載っています。
なんだか寂しそうな本だな、と思ったのが、この本を見た時の最初の印象でした。
本の下部には副題が示されています。
「Children’s Drawings and Poems from Terezin Concentration Camp 1942-1944」
パッと見たときに感じたこの本の印象の理由は、すぐにわかったのでした。
「Terezin Concentration Camp」テレージエンシュタットと言えば、ピンとくる方も多いかと思います。
そこは、大戦期、チェコの北部にナチスドイツによって作られた、ユダヤ人収容所です。
この収容所の子どもたちの、詩とイラストを集めたのが、この本なんです。
テレージエンシュタットは、悪名名高い他の絶滅収容所とは少し性格が異なり、ここはそうした収容所への中継地点として機能していたようですが、けれども劣悪な環境などから、ここでも多くのユダヤ人が命を落としました。
また、この収容所の出来方や、様々なことなどが関係し、ここでは社会生活も(それはほんの僅かな、厳しい水準ではあったと想像されますが)営まれていました。
それはナチスドイツが対外的に、ユダヤ人に対する非人道的行為を言い逃れするための宣伝場所でもあったからです。
ここの本には、幾つもの詩とイラストが載っています。
詩は、厳しい生活、孤独や寂しさ、それらを拙い言葉で吐露するものも見られますが、しかし、その何処にも、僅かな希望の光を見ていることが読んでいるとわかるのが、とても辛いです。
ここで行われていたコンサートの様子を書いているものなどもあります。
イラストも、痛々しく感じるものも多いのですが、花や緑の風景、手を取り合う人々、草原で寝転がるイラストなどもあり、子どもたちが、そうした場所で生きていたのだということがまざまざと感じられます。
これらは、プラハのユダヤ人博物館で保存されていたものから選ばれ、出版がされました。
巻末には判明したそれぞれイラストの作者について書かれていますが、ほぼすべての子どもは「…died in Oswiecim on…(日付)」(アウシュヴィッツで亡くなりました)で終わっています。
まだ日本語版は出ていない本なのですが、多くの人に触れてみてほしい本です。
是非オンラインストアの方でもご覧ください。
「…I Never saw another butterfly…」