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君がそういう理由をあたしは知らない

2020.08.06 12:07

人間も動物だ。


「宿題集めたいんだけど?」

「集めればいいじゃん。」

「じゃあ提出してくれない?残りはあんたひとりなの。」

「じゃあ提出させなよ。残り一枚のために。」

「………そういうのいいから。もううんざりだから。なんなのあんた?宿題一つもまともに出せないの?それともしてないの?だからそうやってあたしに無駄な時間過ごさせるの?先生に謝って正直に言えば?」

「君はほんとうに馬鹿だな。」

「は?」

「僕がそんなくだらない理由でわざわざ宿題一つに渋ると思うのか?」

「じゃあなんだっていうの?」

「いつになったら彼氏と別れるんだ?」

「いつになっても別れないから。あたしこれからデートなのよ。さっさと宿題出して。」

「嫌だね。」

「そう、じゃあ勝手にすれば?あたしは集めた宿題だけ提出する。」

「無責任な委員長だね。責任感ないの?」

「あたしの責任感を利用するやつに言われたくないんだけど?」

「僕を責任持って見張るのが君の役目だろう?」

「いつ決まったわけ?」

「ずっと前から決まってるじゃないか。僕は君のいうことしか聞かないだろ?」

「あたしの言ったこと聞いたことあったっけ?宿題出せって言って出さない現状になんつー矛盾した言葉だろうね。」

「君が僕を捕まえる。僕は君を逃がしてあげる。それだけのことだよ。」

「意味不明だから。」


淡々と続く会話は日常。


艶やかな長い黒髪を落とし、本当にうんざりとした視線を向ける彼女に。


青い黒髪の癖っ毛を揺らして、中性的な顔をニヒルに笑わせる彼。


アーモンド型の大きな彼女の瞳に蔑みが感じられる中、薄く透明感の強い灰色の瞳を向ける彼は形のいい唇を開いて言う。


「君の時間は僕のものだろ?僕の時間は僕のものだ。」

「なにそれ?俺様気取り?頭沸いてんじゃないの?」

「そうかもね。違うかもね。どちらでもいいし、どちらでも悪いよ。」

「………うざいんだけど?」

「君には僕を見張る権利がある。それを放棄したら僕はなにをするかわからないよ?もっと困らせるかもね。先生もクラスのみんなも君も、そして君の彼氏も。」

「なんなの?あんたあたしが好きなわけ?」

「馬鹿言うなよ。君が僕を好きなんだろ?」


もう無理。もういい。もうやってられない。


そんな言葉を無言の視線に乗せる彼女はさっさと背を向けて教室を出ていってしまう。


求愛なのか、ただからかってるだけなのか。


遊んでるのか、蔑んでるのか。


理解もできなければ、しようとも思わない。


クラスでも頭脳明晰で誰からも一目置かれている、けれど変人極まりない男に付き纏われる日々が始まったのはいつからなのか。


唯一覚えているのはそう…。


『あたし、彼氏ができたの。』

『…は?今すぐ別れろ。』


一風変わった男とそれなりに親しい関係を築き、男女の友情ってものに素直な近況を告白したことだけ。


トモダチが、うざくなった。


同じタイミングで、同じことを想い、同じタイミングで、トモダチは破綻した。


「晶(アキラ)」

「なに?」

「僕を見捨てるの?トモダチなのに。」

「トモダチって言葉、辞書で調べてきなよ。」

「トモダチだから甘えてんじゃん?」

「甘え過ぎだから。度を超えてるから。寧ろうざいから。」

「そういう晶が僕もうざいよ。」


同じだね、とゆるく笑う中性的な顔立ちはただただ綺麗なだけの笑みを浮かべる。


それに対して晶は眉根を寄せてうんざりとしたため息を吐き出すのだ。


「あんたがそうさせてんでしょ?密(ミツル)」

「違うよ。晶がそうさせたんだよ。」

「うざいよ、そういうの。」

「うざいよ、そういうの。」

「………クソ野郎。」

「クソ女。」


友情は破綻。

関係は平行線。


悪友とも呼べず、恋人でもない。


このなんとも言えない間柄に名前をつけるとしたらそう…。


男と女。

密と晶。


それだけ。

そして、それほど。


深く浅く。うざくて気になって。


逃げて捕まって、逃がされて逃げての繰り返し。


たかが高校生。たかが同級生。

それでも男と女。


ガキの駆け引きなんてたかが知れてて、ガキの恋愛なんてたかが知れてて、ガキの友情はガキなりに深い。


「見捨てないでよ。」

「見捨ててはないよ。」

「じゃあなに?」

「それ、こっちが聞きたい。」


ガキにはガキの仁義があるのだ。



*****



二人がこんな複雑で、単純で、器用で不器用で。


けれどやっぱり器用な関係に陥ったのはきっと必然であり偶然。


それでいいのかも知れないし、悪いのかも知れない。


ただひとつ言えることは、


「僕より彼氏とかありえないから。トモダチ優先しないとか無理だから。最低だから。」

「トモダチの恋愛応援できないトモダチの方が最低だから。」

「トモダチがみんな恋の応援するとかいう概念持ってる馬鹿だったとは思わなかったよ。」

「トモダチが恋人上回って束縛じみたこと平気でしていい概念ある非常識だとは思わなかったよ。」

「ああ言えばこう言う。」

「ああ言えばこう言う。」

「ムカつくね。」

「ムカつくね。」

「真似しないでよ。」

「本心だっつーの。」

「ムカつく。」

「ほんとにね。」


この二人、なんだかんだ思考は似通っているし息もあうし、なによりも親友だからこその理解もある。


通じ合える居心地のいい隣は、トモダチが破綻したところで一緒に昼を食べるくらいには破綻してない。


「密がわかんなくなってきた。」

「他人のこと、全部わかろうとするような馬鹿だから恋人つくったの?」

「いちいち一言余計なのは治らないわけ?」

「治してよ。」

「どうやって?」

「彼氏と別れて。」

「じゃあ治らなくていいわ。」


机を付き合わした昼休み。


弁当のウィンナーをザクっとさして口に運ぶ晶を見ながら、ドロリとした野菜ジュースを飲み込む密。


「てか、昼ご飯それだけ?」

「それだけ。」

「だからガリガリなんだよ。」

「じゃあ肉つけさせてよ。」

「どうやって?」

「愛妻弁当?」

「ばっかじゃないの?」

「馬鹿じゃないよ。本気だし。」

「甘えんな。」

「甘やかしてよ。」

「ふざけんな。」

「ふざけてないし。」

「彼女つくれば?」

「じゃあ晶がなればいい。」

「もういい…。」


気は合うのに、気は合わない。


トモダチは破綻してるのに、継続してる。


理解不能なのに理解してる。


君が好きなのに、好きじゃない。


そんな関係は現在進行形で続行中。


****


「あのさ、学級日誌書くのにどんだけ時間かけるわけ?」

「今日のひと言文が思いつかないんだから仕方ないだろう。」

「いつもはサラサラ書く癖にわざとらしい。」

「別にいいだろ。それともまた放課後デートでもあるのか?」

「密には関係ないでしょ!」


ぴしゃりと跳ね除けられる放課後の時間。


日直に当たった二人は机を前に向かい合って言い合いをしていた。


秋の夕暮れは赤々と美しいのに、ロマンティックな雰囲気などまるでない。


ツンケンして黒髪を揺らし、不満そうに密を見据える晶は今日も今日とてご機嫌斜めだ。


まあそんなことをいちいち気にする密でもなく、今日に片手でペンを回して頬杖をついていた。


「昨日のデートはどうだったんだ?」

「いきなりなによ…」

「トモダチとして聞いてるだけだ。別に他意はない。」

「………ふつーに、楽しかったけど。」

「けど?」

「まだキスもしてくれないんだよね。」


はあ、とため息混じりに。


付き合って一ヶ月で健全すぎない?と晶が問いかけると、密は少しばかりホッとしていた。


「いいんじゃないか?健全なお付き合い。」

「健全すぎるでしょ?寧ろ病的じゃない?手を繋いだことしかないのよ?」

「不満なのか?」

「不満っていうか、不安?ほんとに好きなら触りたいと思わないのかな?」


男心ってわかんないわ、と晶が窓の外を見て言うことに密はゆっくりとペンを動かしていた。


「男がみんなして欲求に忠実だとも限らないだろう?」

「そりゃそうだけど…。」

「キスしないのか聞いてみたらどうだ?」

「そんなこと聞けるわけないじゃん!あたしが欲求不満みたいじゃん!」

「欲求不満なんだろ?」

「それは…っ!……っこのデリカシー無し男め!!」

「正直に言ったまでだ。」


密は言いながら晶の膨れっ面を見つめて小さく笑っていた。


好きなことに真っ直ぐで、好きだから不満で、好きだから欲求を持て余す。


その瞳に写れたらと願い始めたのはいつからだったのか。


もう思い出せないくらいいつの間にかそう思っていたのだ。


「それより早く書いてよ。帰れないじゃん。」

「いいだろ少しくらい。晶と一緒にいたいんだ。」

「……っ、……ばかじゃないの?」

「馬鹿じゃないさ。」


フッと笑って丁寧に書き進める日誌。


向かい合って別に特別な会話もしてないけれど、二人きりの時間が密には尊いものだった。


「やっぱあんたあたしのこと好きなんじゃないの?」

「僕を好きなのは君だろ?」

「トモダチとしてなら。」

「恋愛感情として、だろ。」

「あり得ないわ。」

「じゃああり得たらどうする?」


ゆるく笑って、いつもの悪戯っ子のような生意気な視線に晶は眉根を寄せていた。


なんだって話せるし、聞き上手。


トモダチとしては最高の奴だが、時折悪癖とも呼んでいいその不敵な笑みを見ると警戒もしてしまう。


「なに?あたしを惚れさせるとでも?あんたやっぱりあたしのこと好きなんじゃん?」

「トモダチとしての独占欲は否めないな。」

「恋愛感情じゃないと?」

「自惚れて楽しいか?」

「ムカつくわ。」


好かれているのはわかるのに、その種類はいつだってはぐらかされる。


いや、本当にトモダチとしての独占欲なのかもしれない。


実際、密は気に入ったものに関して人でも物でも自分のものだと思ったものを取られるのを嫌う。


それで勘違いする女子が好かれていると思って密に告白することはありがちな光景だ。


だからこそ晶もまた翻弄されそうになるのだ。


独特の色気を持ち、存在感を持ち。


特別クラス内で目立ってるわけでもないのに、一度知ってしまうと目を惹いでやまないミステリアスな密を。


「彼氏に不満ならさっさと別れたらいいのに。」

「だから、不満なんじゃなくて不安なの。」

「不安にさせてる時点で男として失格だと思うがな。」

「あんたになにがわかんのよ。」

「僕なら、……晶を不安になんかさせないほど愛で尽くすよ。」

「……っ!」


ゆるく笑って、恥ずかしげもなく恥ずかしい言葉を放つ。


それに恋愛感情なんて伴ってなくても、心臓を鷲掴みにされてしまうのは女の性と言える。


「………ばっかじゃないの……。」


視線を逸らして、精一杯の虚勢をはるのが関の山。


そんな晶を密は見つめて、


「馬鹿じゃないさ。本心だ。」


フッと笑いながら、可愛いなんて言葉は紡がなかった。


思わず“俺”と言ってしまいそうで。


本性を見せてしまいそうで。


そんな強引なやり方はしたくなくて。


そんな顔はやっぱり見せたくなくて。


泣かせてしまうときっと自分を許せないから。


「絶対、僕の方がいい男だろ?」

「自信過剰、自意識過剰って言葉を調べてみなさいよ。」


自制して、自制して。

それでも高まる欲求に吐き出す言葉は極端になってしまいがちだけど。


「自信のない男より余程マシだと思うがね。」

「謙遜もできない男はうざいだけよ。」

「でも僕を見限らないじゃないか。」

「そんな簡単に見限るトモダチやってないから。」

「だから晶がいいんだ、僕は。」

「あんたやっぱりあたしのこと好きでしょ?」

「だから、君が僕を好きなんだろ?」


今日もトモダチは破綻気味。

けれど関係は平行線。


好きだけど好きじゃない。


ガキにはガキの仁義があって、向き合う時間。


「…もういい。それより書けた?」

「ああ。」

「じゃあさっさと提出して帰りましょ。」

「送るよ。」

「結構よ。彼氏が送ってくれるから。」


ツンと言って立ち上がる晶を前に、引き止めて強引に口付けて。


さっさと別れろよって言えたらどんなにいいか。


でもそれはやっぱり泣かせてしまうんだろう。


怖がらせてしまうんだろう。


胸の痛みを我慢して、数十分間を自分に割いてくれたことを嬉しく思った方がいい。


まあ、


「今日も手を繋ぐだけで終わらないといいな。」


皮肉はやっぱり、言ってしまうんだけど。


だってやっぱり、嫉妬はするんだから。


「うるさい。うざい!」


晶の怒鳴り声を浴びながら、さっさと職員室に行く背中を追う。


そんな日常が今の晶と密の関係だ。


「短気は損気という言葉を知らないのかお前は。」

「うるさいな!!説教なんてして欲しくないから!!」

「俺……っ、僕に八つ当たりするくらいなら早く別れたらいいのに。」


相当思いつめていたのだろう。


過敏な反応を示す晶の華奢な背を見つめると、


「____好きなの!!」


振り返りざまに、怒鳴るように叫ばれていた。


その顔は必死で、泣きそうで、


「本気なの!!好きなことを簡単に諦められるような恋してないの!!!」

「晶…、」

「あんたにとってはただの言葉遊びかも知んないけど、そういうのやめて!!」


この件に関しては特に!と晶が言い放つことに密は静かに謝っていた。


「すまない。」

「……もういいわよ。」

「傷つける気はなかった。ただお前に相手にして欲しかっただけだよ。」

「そんなこと…、わかってるわ。」


ばかね、と無愛想に。

けれど力無く笑って、


「あたしも八つ当たりしてごめん。」


晶が振り向いてくれることに一喜一憂するのだ。


例え密が求める好きじゃなくても、ちゃんとわかってくれている笑顔にどうしたって歓喜は湧いてしまう。


「晶にだけだよ。」

「ほんと、ばか。」

「全くだ。」


隣に居られる。

それだけの幸せを噛み締めて、トモダチはやめられない。


希望がないなら突き放した方が利口なことはわかっているのに、


「だからクラスのみんなからも勘違いされるのよ。その無愛想で人の尊厳踏みにじるのやめたらいいのに。」

「俺…、僕が理解されたい人間は一人だけだ。」

「不器用ね…。」


その他大勢に好かれたいわけでも、知って欲しいわけでもない。


たったひとりの特別になること。


それだけが望み。


だからこそ、恋人になれなくてもトモダチとして。


隣にいることはやめられないのだ。


職員室に日誌を届け、校舎から出るまで。


そう時間はかからずに校門へと歩いていた二人。


そこで待っていたのは昨日、鳳蝶から聞いた人物だった。


「マサくん…!ごめんね!待たせて…!」

「そんな待ってねえって。」


ブリーチをし続けたのだろう白髪をなびかせ、ピアスも多く開けられている。


ただそれに重たさややり過ぎ感は感じず。


気さくな微笑みはなるほど、確かに大人びていて色気もあり。


悪そうな見た目とのギャップは女ウケしそうだ。


今しがた隣に居た晶が颯爽と密の隣を離れて、恋する乙女の顔をすることを見てるしかできないのはもどかしすぎる。


本当なら一言二言、言葉の弾丸を放ってやりたいところだが。


そんなことしたらきっと晶にまた嫌われて、怒鳴られて、口を聞いてくれなくなるかもしれない。


そう思うと密はガラにもなく我慢をしていたのだ。


そんな折、


「ミッくーんっ!!」


駆け寄ってきた声音に視線を向け、鳳蝶がにこやかに近づいてきたことに密は小首を傾げていた。


「どうした?」

「どうもこうもねえよ!てめえあたしとの約束忘れたのか?!」

「約束?」

「ゲーム付き合うって昨日約束したじゃん!」


そのムッとした顔に密は「ああ…」と呟いていた。


情報提供し、密の恋に協力する代わり。


鳳蝶の我儘を聞くことが条件として提示されたのだ。


そして最初の我儘は、新しいゲームソフトを一緒に攻略することだった。


「忘れてはないさ。わざわざ迎えにきたのか?」

「そーだよ!遅過ぎ!待ち合わせの時間言ってただろ!!」

「悪い悪い。日直だったんだ。」

「罰として夕飯おごりな。」

「はいはい。」


いつもの会話、いつもの関係、いつものやり取りだった。


正直、晶から気をそらしてくれる鳳蝶の破天荒でハツラツとした存在には感謝もしていた。


けれど、


「ア、ゲハ…?」


今しがた気をそらした相手が声を発したことで否応無く意識は向けられたのだ。


政宗と言う、見た目からして不良のそいつが灰色の瞳を大きく広げて見つめる先には鳳蝶がいる。


昨日聞いた、元カレという話しを聞いている密からすれば驚くことでもないが。


他の女に気を取られた彼氏に一抹の不安をよぎらせた晶の顔は見逃せなかった。


「あーー!政宗じゃん!ひっさしぶりーーっ!!」


まあ、考えなしで本能的に動く鳳蝶にそんなことはまるで無意味なものだが。


気さくな態度でにこやかに笑う鳳蝶の対応に、政宗も動揺しつつ口を開いていた。


「ああ…、ほんとに。」

「不良のオーサマしてんだろ?噂は聞いてるよ。」

「別に…、そんなもんになった覚えはねえよ。」

「まったまたあ!謙遜すんなって!」


肩を叩いてトモダチのノリで話す鳳蝶に、晶は少しホッとした様子を見せていた。


ただ、政宗の顔が複雑そうに歪んだのは密だけが気づいたこと。


「ていうかそいつ…、鳳蝶の新しい彼氏?」


そのまま視線を向けられる密は政宗とようやく。


そして初めて視線を交えたのである。


「違う違う。強いて言うならあたしのご主人様?」


そーだよな?と鳳蝶が絡んでくることに密は「ああ…」と小さく呟く程度。


けれど、


「いや、なんだそれ?」


政宗からすれば…。

いや、この関係を知らない他人からすれば不可解なこと極まりない。


実際、晶も初めて聞いたとばかりに目を丸くしている。


密からすればあまり鳳蝶との関係は知られたくないものだったのだが、鉢合わせてしまったものは仕方ない。


「まー…、なんだ。相棒ってやつ?」

「…は?」

「愛し合ってんだって。」


冗談交じりにケラケラと笑って、な?と覗き込んでくる鳳蝶に密は肩をすくめるしかなかった。


勘違いされてもおかしくない発言だが、その通りだから。


だからこそ目の前の二人が困惑したように見つめてくる視線の対処をするのには頭を悩ませることになるのだ。


「鳳蝶。お前ちょっと黙れ。」

「ああん?なんだよ。せっかく迎えにきてやったのに。」

「それとこれとは話しが別だ。」


鳳蝶の頭を抑えてため息交じりにいう密に、鳳蝶はムッとしながらも従っていた。


それがまた悪かったのだろう。


「付き合ってねえんだよな?」


政宗の疑り深そうな視線と、その態度にまた不安をよぎらせる晶。


途轍もなく厄介なことになったと密が眉根を寄せたのは言うまでもない。


「おい、鳳蝶。別れたって言ったよな?」

「黙れって言われたので何も言いませーん。」

「拗ねてんじゃねえよ。答えろ。」

「……別れたってば。あたしはミッくんのものだ。これで満足か?!」

「不満足だよ。寧ろどうやって振ったんだよ。あいつ、まだお前に気があるんじゃないのか?」

「はあ?そんなこと知らねえし。どうでもいいし。」

「どうでもよくないから聞いてるんだよ。晶を泣かせたら例えお前でも許さないぞ。」


コソコソと、二人だけにしか聞こえない会話が繰り広げられる中。


鳳蝶はムッとしながら密を突き飛ばしていた。


「ざっけんな!!あたしのせいにするんじゃねえよ!!」

「鳳蝶、」

「誰がどう言おうがあたしはミッくんの味方なのにそんな言い方はねえ!!」


泣きそうな顔で叫び散らした突然の鳳蝶の喚きに、政宗と晶が口出しなんてできるはずもない。


「………悪かった。だから落ち着け。」

「たったひとりの味方を失いてえなら勝手にしろ!!」


ばーか!!と言って立ち去ろうとする鳳蝶を引き止めないわけにはいかない。


どんなに勘違いされても、どんなに理解されなくても。


密にとって鳳蝶は何よりも大切な存在だ。


だからこそ、鳳蝶の腕を掴み引き寄せて。


抱きしめるまでの躊躇いはどうしたってなかなるのだ。


「悪かったと言ってるだろう。」

「気持ちがこもってねえ!!」

「……じゃあお詫びにお前の好きな手料理作ってやるから。」

「……………ハンバーグ。」

「材料一緒に買いに行こうな。」

「………うん。」


その流れを見てしまえばやっぱり勘違いはされるんだろう。


でも好きな相手に勘違いされても、たったひとりの信頼できる味方を蔑ろにはできなかったのだ。


例え、どんなに複雑な状況になっても。


「放課後デートを邪魔して悪かったな。僕らはお暇するよ。」


密は鳳蝶の肩を抱いて振り返りながら言っていた。


それに対して困惑気味の二人に、密は明日の晶への説明を考えてしまうのだ。


そして、


「政宗!また近いうちに話でもしよーぜ!」


鳳蝶はご機嫌に、考え無しにそんなことを言うもんだから、


「ふざけるな。二人きりで会うとか許さないからな。」

「んじゃあミッくんも来ればいいじゃん。」

「まあ、それなら…。」


どうしたって性質的、性格的な独占欲もごまかせず。


その日以降、この四人の複雑な事情が大きな溝を生んでしまったのはきっと必然だったのだろう。


好きな人には、好きな人がいる。

どれだけ大切に思っていても、どれだけ自分の想いが一番だと思っても…。


追いかける相手しか見られない盲目さには勝てないのだ。