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ゆめかわ至上主義彼女

2020.08.06 12:15

昔から可愛いものが大好きな少女がいた。


彼女はお気に入りのクマのぬいぐるみを何よりも大事にしていた。


寝るときは勿論、学校にだって連れて行き、イザベラという名前をつけてそれはそれは大層可愛がっていた。


そんなある日、少女は可愛すぎるイザベラをハサミでボロボロに引き裂いて綿を引っぱり出してしまったのだ。


「ああ…、またやってしまいましたわあ〜。」


ボロボロになったお気に入りのぬいぐるみの残骸を見つめ、けれど少女は泣くでも落ち込むでもなく…


「可愛すぎるイザベラが悪いんですのよ?」


そう言って、にっこりと笑うのである。


その少女の部屋にはすでに、何体ものボロッボロにされたぬいぐるみが飾られていた。


愛しすぎるとボロボロにして、跡形もなく引き裂いてしまうものだから。


何度縫っても無意味。


ツギハギだらけのぬいぐるみたちは、亡骸のようにされても少女に愛され飾られていたのだ。


けれど一番のお気に入りのイザベラだけは、お手製の棺桶を作ってやり。


そこへ横たえてどのぬいぐるみよりも大切にガラスケースの中で飾られた。


そうしてまた少女は愛するものを探したのだ。


親が買い与えてくれた犬や猫、兎といったペットはいつも寿命より早く死んでしまった。


何故って?

理由は簡単。


「可愛すぎるのがいけないんですわ〜。」


少女自らの手でズタボロにしてしまうからだ。


幼い少女が血まみれで、あーあと言いながらペットの残骸を撫で愛しむ姿は親にとっても恐怖だった。


それでも根は純粋な子だ。


愛らしく笑い、礼儀正しく、可愛いものに目がない。


ただ、可愛がるということに関してのみ。


少女は異常さを垣間見せる。


力加減がわからないとかいうレベルではない。


そんな彼女の異常な愛し方がおもちゃやペットからもしも、人間に移ってしまったら?


「ママ〜、今度はもっと頑丈なペットが欲しいですわ〜。」


少女は無邪気に言いながらも、その言葉は自分の愛情に長生きしてくれるモノを望む無邪気さだった。


少女にとって愛することは壊すことと同義。


愛し過ぎれば生き物はおろか、物さえも死ぬんだと理解してそれが及ばないものを望んだ。


けれどそんなもの、この世の中にあるわけもない。


そして少女が四歳の頃、遂に親は少女を見放した。


幼いながらにそれを理解し、勿論悲しみだって子供なりにあった少女は孤児院の中で早速浮いてしまっていた。


当たり前だ。

おもちゃも、ペットも、気に入ったものは全部ズタボロにしてしまうのだから。


あるとき、そんな少女を懸命に庇って世話をする先生がいた。


普通とは違ってもまだ子供なんだからと守ってくれる優しい人だった。


その温もりに少女は勿論甘えきって、初恋なるものを芽生えさせたのだが。


けれどそれが悪かった。


少女は先生を独占したいがあまりに、


「歩けなくていいと思うんですの〜。あたしから離れてしまう足なんて必要ありませんわ〜。」


何のためらいもなく、持っていたハサミで先生の足を突き刺してしまったのだ。


ただずっとそばにいて欲しかった。


それだけの理由でした行動が大問題となり、嫌煙され恐れられ。


少女はついに孤立してしまった。


そして理解したのである。


自分は何も愛してはいけないのだと。


けれど可愛いものに目はないし、優しくされるとコロッとついていってしまう。


だから少女は自分が誰も、何も、愛さないためにはどうすればいいのか考えた。


そして…、


「ああ〜、嫌われ者で良かったですわ〜。」


大好きなものから嫌われる立場で愛する事を決めたのだ。


逃げてくれるなら、追いかければいい。


追いかけても逃げてくれたら、ボロボロにしなくて済む。


適度な加減がわからないからこそ、相手にそれをして貰えばいいのだと少女は理解したのだ。


そして大きくなった頃、少女はとある学園へと呼び出されたのだ。


「人を愛してこいって言ったら、どうする?」


そうして、冒頭へと戻るのである。


何の因果か、何のプレゼントか。


愛していい人をくれるなんて少女にとっては何よりも得難いものだ。


けれど少女はどんな境遇に陥っても悲観なんてまるでなく、寧ろ自分を貫いてこの場にいる。


グラデーションになっているパステルピンクの髪をベースに、元々ゆるふわウェーブの髪をツインテールにして。


毛先はパステルグリーン。


今お気に入りのクマのぬいぐるみを抱きしめて、自分の好みにリメイクしたフリル満天のセーラー服姿でたっている。


少女はすでに高校生。


里親に引き取られては孤児院へと舞い戻ってくる生活をしていた。


「愛して欲しい男とは、一体誰ですの〜?」


けれどそんなこと、少女にとってはまるで傷つくようなものではない。


少女の性質を受け入れられない親に、何度捨てられようがどうでもいいことだったのだ。


それより何より、愛してもいい人をくれる目の前の男性の方が数倍。


少女にとっては価値のある存在だった。


「三千院 アレフ。それが君に愛して欲しい男の名だ。この学校にいる。」

「アレフ様ですか〜。可愛いんですの〜?」

「それは…、君が見て決めてくれ。」

「…?」

「ただひとつ言っておくが…。身の保証はしない。住まう場所も、生活資金も出す。転校の手続きもするし、必要なものがあるなら与えよう。ただし、それ以外のことに関しては一切の責任を持たない。」


キッパリと言い切るこの学校の理事なのか、それとも全くの無関係者なのか、はたまたアレフという男の近親者なのかはわからないが。


その男は重々しい口調できゅるんとしている少女を密命抜くのだ。


「あらまあ、面白い事を言いますのねえ〜。」

「…は?」

「あたし、生まれてこのかた自分のことで責任を取られたことなんて一度もありませんのよ〜?」

「………っ、」


うふふっ、と笑いながら。

これまでどれだけ愛らしくその場に存在しようが嫌われてきた少女は、


「嫌われ者で良かったですわあ〜。」


…と、今しがた目の前で少女を必要としながらも他人行儀に距離を取る言葉に恍惚としていた。


その姿に、引くなという方が無理。


けれど推薦されてきただけのことはあると、実感することも否めない。


「では、引き受けてくれるか?」

「お断りしますわ〜。」

「なん…、」

「人に言われて愛せるほど、あたし器用じゃないんですの〜。」

「どういう、」

「愛しかたを強要されるのは好きじゃありませんわ〜。愛していい人をくれるだけで結構ですの〜。」


にっこりと言って、求められる期待にはきっと答えられないと告げる少女。


けれど愛する気は満々だ。


つまり、望みを叶えるなんてことはガラじゃない。


ただ自由にさせて欲しいと訴えているのだ。


「まあ…、それでも愛する気があるのならありがたい。」


男は呟くように言いながら、寧ろこの少女がどこまで食らいつけるかの方が心配だった。


けれど、


「ひとつ、お伺いしたいんですけど?」

「なんだ?」

「どうしてその、アレフ様という人を愛して欲しいなんて頼みをあたしに?」


孤児院の中は愚か、その近辺でも少女の異常さは広まっている。


わかっていて呼んだとしたら、それは理解しかねることだった。


けれど男はひと言。


「あいつも君と同じだからだよ。」

「……はい?」

「愛させろって、それだけで行動するものだから…。学校に来て初日には、合意の上での行為が行われ。先生や生徒なんて関係なく、女という生き物への追求をやめない。暴走族なんてものに姫君制度があるから入り、今では十二人のハーレムを作ってやりたい放題。」

「ほえ?」

「快楽至上主義で、趣味はSEXと公言している。学校そのものを乗っ取りそうな勢いで今やアレフに物申すものなんて居ない。」


キョットーンとしている少女にとっては、暴走族なんて言葉はもちろん。


SEXなんて言葉もまるで知らないものだった。


「常軌を逸してるんだ。自分が愛して満足できるものを常に探してる。獣みたいにね。」


けれどその言葉には共感できたのだ。


飢えて渇いて仕方ない衝動が、何もかもをズタボロにする少女も同じ欲求を秘めていたから。


「それはそれは…、素敵じゃあないですか〜。」

「え…、」

「アレフ様とは気が合いそうですわ〜。」


うっとりとして、男の目の前で抱いていたぬいぐるみを引き裂き。


綿をその場にボロボロと落としながらクスクスと笑う少女の恍惚な顔は、見方によれば殺人鬼のようだ。


「……っイかれているとは聞いていたが、ここまでとは……。」


男がボソッと呟くことに少女はキョトンとして、それからボロボロにしてしまったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながらひと言。


「そんな野蛮な言い方はよしてくださいな〜。敢えて言うなら、ゆめかわいいと言って欲しいですわ〜。」


ふふっと笑い、愛くるしい笑みで放たれる言葉を理解できるはずもない。


「ゆめ、かわ…?」


ドン引きして、嫌悪すら滲ませているような男の顔に少女はうっとりとしながらひと言。


「ああ…、本当に。嫌われ者で良かったですわ〜。」


そうでなければこんな話しは来なかった。


きっと運命だと、少女はうっとりとしてぬいぐるみを抱きしめるのだ。


そんな少女の名はルート。

誰も理解できず、求めれば求めるほどぬかるみにハマる。


複雑な数字を単純化するために用いられる、数学のルート記号から取った名前は彼女にピッタリと当てはまり、その名の通りの少女となった。


異常さを単純化された形で生まれ落ちたルートの愛情を、


今や不良でハーレムを作っているらしいアレフという問題児が受けるに値するのかどうか。


いやはや、見ものである。



転校してきて数日。

ルートがアレフを見つけるまでもなく、その男は当たり前に目の前に居た。


「あん…っ、えっち。」

「とか言いながらノリノリじゃん。」


黒髪のアシメヘアーで、左側だけが胸元につくほど伸ばされ。


毛先はショッキングピンク。


ボディピアスは愚か、耳も唇も喉元やこめかみにさえピアスがつけられ。


複数の女を囲ってだらしのない格好で楽しみを見出す生徒なんて、目立つなという方が無理。


薄い唇をニヒルに笑わせて、見目麗しいながらも本当に高校生かと聞きたくなるほど色香が漂う。


けれどその色香の中に潜む狂気も、仄暗さも、どことなく感じる冷たい残虐さも。


ルートには感じ取れるものだった。


教室の窓から見える体育の授業。


アレフはルートの二つ上らしく、先輩にあたり。


グラウンドで誰もがサッカーに勤しむ中、堂々と女に手を出しているのだ。


そして、


「いいなあ〜。あたしもアレフ先輩のお姫様に加わりたいよ〜。」

「バカ。なんてこと言ってんのよ。あんな美人ぞろいのハーレムに入ろうなんて身の程知らずだから。」

「だってさあ〜。」

「まあ、わからなくもないけど…。ハードル高すぎだって。」

「だよね〜。」


数日もいれば噂だって耳に入ってくる。


アレフという男はZERO-ゼロ-という暴走族の総長をしているらしく、けれどバイクを乗り回すとか喧嘩をするとかそんなことはまるでしない。


溜まり場は無料のラブホテル。

学校はやりたい放題のお城。


そして姫君制度で囲ったお姫様は女にとって、美人だと認められるステータス。


誰もが愛されたいと願い、その十二人に加わっりたいと望む。


それはただ愛されたいとかではなく、女として最高の栄誉を貰いたいだけの位置になっていたのだ。


現に、十二人のお姫様はタイプも性格もバラバラ。


けれど誰が見ても美人に変わりなく、アレフに寵愛されるだけの価値はあると認識すらされている。


ただのクズで最低なヤリチン野郎でしかないはずなのに、不良なんていう世の害悪にしかなっていないのに。


アレフという男のカリスマ性は人の常識すら変えてしまうものらしい。


「手っ取り早く、アレフ様に近づくにはお姫様になるしかないみたいですわ〜。」


ルートは小さく呟きながら、ズタボロのクマのぬいぐるみを撫でて窓を外を眺めていたのである。


ステータスになるとか、美人だという証明なんてどうでもいい。


久方ぶりに愛せるモノを望むルートは、一週間足らずで行動へと移していたのだ。


いつ見ても女を囲い、女を隣に置き、女と遊ぶアレフがひとりになるのは…。


「お待ちしていましたわ〜、アレフさまあ〜。」

「…は?」


トイレに行く時だけ。


そう、ルートは男子トイレでアレフを待ち伏せしたのである。


ポカンとして、ここが男子トイレであることを確認するアレフは長身の視線からきゅるんとした華奢なルートを見つめていた。


勿論、制服のベルトは外され。

今しがた放尿しようとしたままの姿でだ。


「あんた、誰?」

「ルートと申します。アレフ様を愛するために参上しました〜。」

「………ふうん?それで?」

「あたしをお姫様に加えてくれませんか〜?」


にこにこと、それはもう当たり前のように近寄ってきて。


ケロリとしているルートに、けれどアレフも動じた様子はなく。


寧ろ品定めでもするかのようにルートを見つめていた。


「なに?抱かせてくれんの?」

「いえいえ。あくまでも、あたしが愛するに相応しいお方なのか近くで知りたいだけですわ〜。」

「んー……、てかさ。」


アレフは頭を掻き、次の瞬間にはルートの首を掴んでにこやかに笑っていた。


「俺、女の子大好きだけど。上から目線で品定めしてくるとかさ。何様?」


首を絞める力に加減はない。


当たり前に酸素を奪い、ルートの身体を簡単に持ち上げるアレフのクズっぷりは相当なものだった。


でも、だからこそ…


「ああ〜、その嫌悪した顔。ゾクゾクしますわ〜っ。」


ルートは恍惚として、苦しみの中に悦楽を見出していたのだ。


苦しいと顔から血の気が引いているくせに、そんなことは恐れるに足らないとでもいうように。


アレフのことを見上げるのだ。


その様に、アレフはキョトンとしてから力を抜いてルートの足を再び地につけさせていた。


「なーんか、キモいけど可愛いこと言うんだねえ、君。」

「キモいとは失敬な。ゆめかわいいと言ってください!!」

「まあ、どーでもいーんだけどさ〜。」


アレフは躊躇いもなく便器の前で放尿しながらルートを横目に見ていた。


まるで動じないルートがキョトンと小首を傾げる反応は少し新鮮だったのか、


「ルートちゃんだっけ?あんた処女?」

「ジョジョ?なんですのそれ?食べ物の名前ですか?」

「………ははっ。おもしれえ。」


なんだこいつ、と真面目に首を傾げているルートを見つめ。


ベルトを締めてから手も洗わないでルートの唇に指を辿らせるアレフはゆるく笑ってひと言。


「ま、見た目も身体つきも悪くないし。やってみる?オヒメサマ。」

「本当ですか?!」

「うん、ただし…。俺、浮気は許さないから。」

「…ほえ?あたし、浮気なんてしたことありませんわよ?」

「………うん?付き合ってた奴いんの?」

「いいえ。愛したモノは全部ボロボロになってしまったので。」

「は?」

「ああ、でも大丈夫ですよ?ボロボロになってもちゃんと愛しますので。」


ふふっと笑い、ズタボロのぬいぐるみを抱きしめるルートの無垢な笑みに。


普通の人間ならドン引きどころか恐れ戦いてたじろぐ場面でアレフはゆるく笑っていた。


「ちょーっと違うんだなあ、それ。」

「はい?」

「俺、愛されたいんじゃなくて愛したい派なんだけど?」

「ああ、成る程。ではあたしがアレフ様の奴隷になればいいんですね?」

「あははっ。なにそのプレイ。ふつーに勃ちそう。」

「プレイ?」


キョトンとするルートの無垢さは、その思考の異常さが嘘のようにあどけない。


だからこそ、


「調教プレイ、楽しめそうだね。」


アレフの下衆な思惑になんか気づきもしないし、寧ろ理解もできなかったけれど。


「調教なんてされなくても、あたしはアレフ様にお仕えしますわよ?」

「いや、俺が言ってんの身体の方だから。」

「身も心も捧げてますわ。」

「じゃあ、今すぐ脱いで。俺の舐めてくれる?」

「舐める?何をおっしゃってるんですか?あたし、そんな生温いことはいたしませんわ。」

「は?」


異例にあたる、十三番目のお姫様はにっこりと笑ってポケットから愛用している裁ちバサミを取り出し。


そしてアレフの制服を切り刻んでうっとりと、その肌に触れるのだ。


「愛してくれるならこれくらいしてもらわないと満足できませんわ。」


そう言って爪を立て、ハサミを向けるルートの愛らしい笑みに。


アレフはドン引くどころか、ルートの異常な悪癖に恍惚として舌なめずりをしていた。


「あたしをがっかりさせないでくださいアレフ様。」

「俺をどんだけ煽んの?ルートちゃん。」


異常な悪癖と共に、


「あたし、愛することは得意なんです。」

「奇遇だね。俺もだ。」


愛したがりの二人の人生が交わったことは事実だ。


どんな運命のいたずらも人間の固い決意を揺るがすことはできない。

(エラ・ウィラー・ウィルコックス)