3人のアーティストが生み出した“妖怪”
6月3日から6月12日までの10日間、原宿の「BLOCK HOUSE」でHIDEYUKI KATSUMATA×丸岡和吾×Funny Dressup Labの3人によるGroup Exhibition『川』が開催された。
今回の展示の一報を受けたとき、「これは絶対に面白い科学反応が起こっているはず!」と期待に胸が高まった。用いる素材も表現方法もそれぞれ異なり、作品から得るイメージもさまざまな3人の初のコラボレーション展だからである。
まずは3人の紹介をしよう。
HIDEYUKI KATSUMATAさんはオカルトやモンスター、妖怪といった類をモチーフとして扱うことが多く、日本に古くから伝わるおどろおどろしい心象風景を想起させる作風が特徴だ。彼の作品群からは浮世絵や仏教などの伝統的な美術作品との相関関係を感じ取ることができる。
丸岡和吾さんは骸骨や骨をモチーフとして取り入れ、『死』をテーマに表現を行うアーティスト。骸骨を陶器で表現した作品が代表的だ。
Funny Dressup Labさんは、ミニ四駆をドレスアップするために作られたデッドストックのステッカーを使用したコラージュ作品を展開している。世代であれば懐かしさが込み上げてくるドレスアップステッカーだが、その独特の形状や色彩を組み合わせることで本来の使用目的とはまったく異なる作品として、存在価値を生みだしている。
この3人がひとつのテーマで作品を制作するというイメージも湧かなかったし、何ができあがるのか、まったく検討がつかなかった。
ギャラリーに着くと、HIDEYUKI KATSUMATAさんがビールを片手にご機嫌な様子で声をかけてくれた。今回のグループ展のタイトルがはなぜ『川』なのか伺ってみた。
「テーマを決めるときに妖怪について話してたんだよね。一見、僕らに共通項はないように思えるかもしれないけど、それぞれ“怪奇的なもの”が作品に現れていると感じていた。だから妖怪は全員に共通しているキーワードなんじゃないかという話になって。そこから、妖怪の中でも、河童にしぼる流れになった。
水木しげるの漫画に『河童の三平』ってタイトルのものがあったり、『川の字に寝る』という慣用句があるじゃない? そんな風に3人でフレーズを出しあったときに『川』というキーワードに共通する部分が多くて、『川』というテーマがいいんじゃないかという話になったんだ」
たしかにギャラリーを見回すと、たくさんの妖怪が並んでいた。不気味な雰囲気を放ちつつも、いたずらを仕掛けてきそうなひょうきんさも感じるキャラクターがそこかしこに描かれていた。
「僕はひょうきんなキャラクターも描く。そこに丸岡くんみたいにコンセプチュアルな作品と、Funny Dressup Labくんのポップな色づかいが混ざったときに、みんなが知らない着地点に行くんじゃないかなと思ったんだ。それに、丸岡くんは陶器で立体をつくるし、Funny Dressup Labくんはコラージュ。僕は絵。3人とも全然テイストが違うから、何ができあがるかわからない、そういう展示だったら面白そうだなと思ったんだよね」
KATSUMATAさんがふたりに声をかけたというが、自身もひとりのお客さんのように楽しんでいる様子だったのが印象的だった。
そしてKATSUMATAさんとFunny Dressup Labさんのコラボレーション作品に目を向け、話を続けた。
「Funny Dressup Labくんと一緒に作った作品はいいものができたなと思ってるよ。ミニ四駆のステッカーって日本のカルチャーだし、僕は日本人のだれもが知ってる妖怪を描いた。だから海外のお客さんにも見てもらえたらうれしいな。
あと、今回久しぶりに掛け軸に絵を描いたのだけど、掛け軸って持ち運びのしやすさとかを含めて日本の知恵を感じる。僕は海外に行くことも多いから、海外での展示の時にそういうことも含めて知ってもらいたいな」
Funny Dressup Labさんにも話を伺うと、今回の展示で初めて人と共作を行ったという。
「他のふたりがどういうものを出してくるのか気にしながら作った。KATSUMATAさんは河童を描いて、丸岡くんは河童の頭蓋骨を作るという予定になって、河童の姿形を2人が表現してくれる。じゃあそれ以外を作ろうって思ったんだ。
例えば分かりやすくいうと、カッパのアイコンってなんだろうと考えると、お皿とかくちばしとか水かきとかですよね。でもそれだけだとアイコニックすぎて面白みがないかなと思って、『尻子玉(しりこだま)*』って文字をコラージュで作ってみたんだよね。文字から連想するのは僕のなかで新しくていいなと思った」
尻子玉*:人間の肛門あたりにあると想像された臓器。河童に抜かれると死ぬと思われていた。(参照:コトバンク)
ギャラリーの壁に文字だけが並んでいる違和感に加え、尻子玉という言葉のインパクトもあいまって、書体のなかに詰め込まれたステッカーとその色彩が強く印象に残った。「今後の展示でもこの文字シリーズを発表するかもしれない」とも話していた。
奥へ進むと、丸岡さんが椅子に座ってくつろいでいたので、作品について伺った。
「河童ってすごい謎に包まれているけど、お皿とくちばしが特徴という、みんなの共通のイメージがあるんじゃないかなという意識があった。僕は『死』というテーマで作品を制作しているから、河童のイメージをその中に取り入れて、河童の骨と死骸があったらどうなんだろうというのを具現化してみた。グループ展ではいつもと違ったことを行えるから面白いよね」
3人が作り出した妖怪は、私たちが今までイメージを持っていたそれとは異なったものだった。それぞれの作家の持ち味のなかに妖怪に対するおのおののイメージを取り入れるという新しいアプローチを試みたことで、作品一つ一つから日本古来から伝わる超常現象や神秘的な要素が伝わってきたのだった。
残念ながら今回の展示はすでに終わってしまったが、今後の活動については彼らが制作した映像によって紹介されているので、これを見て、彼らが生み出した妖怪について思いを馳せてみてほしい。