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猛 獣 つ か い

2020.08.10 01:29

000.猛 獣 つ か い

000.プロローグ


「うわああっ!!悪霊退散!!!南無阿弥陀仏!!!南無妙法蓮華経?!!??」


片っ端から言ってみるお経とも呼べない羅列で飛び上がったあたしに、


男は何を言ってるんだとばかりの睨みを寄越してきた。


「なんの呪文だそれは。なんも効いてないんだけど?」

「え?あれ?…ゆ、幽霊なんじゃ…っ?」

「ユウレイ?なんだそれ。ていうか何やってんの?なんで襲いに来ないの?」

「襲うって…?あたしはメイドとしての仕事を…。」

「冥土(メイド)ならやることあるだろう?なんで僕を無視して普通に掃除してんの?」

「メイドって家事全般以外に何かやることがあるんでしょうか?」

「…は?」

「え…?」


001.猛 獣 つ か い

001.新しい冥土がやってくるようです。


「ゲームがしたい。」


暇だと安易に伝えてくるひと言は、つい最近手に入れたゲーム機を握って言われていた。


ピコピコ、ジャンジャン音が鳴り響き、部屋に引きこもって何日が過ぎたのかすら本人は数えてもいないだろう。


ただひたすらにだらしのない格好で、風呂も入らず眠ることもロクにせず、食事だってほとんど食べない引きこもり。


こんな生活ができるのは男が金だけは持ってるからとしか言いようがない。


「今しているではありませんかご主人様。」


そんな部屋の片隅で待機していた使用人の一人が口を挟んだ。


「もっと面白いのだよ。これ、カンストして飽きたんだ。」


家主はゲーム機をヒラヒラとしながら、何度も初期設定に戻して様々な遊び方をし終えたことを告げてくる。


「そうですか。ではそろそろは人間らしい生活でもしてみたらいかがでしょうか?」

「やってるじゃん。」


即答で返ってくるが、使用人は呆れ過ぎてものを言うことを忘れていた。


この主人の言う人間らしい生活とは、食事も睡眠も自分のやりたい時にできて、遊べたら満足というだけの代物だ。


それは人間らしい生活とは決して言わない。


ただの引きこもりダメ人間である。


「あ、そういえばさ。そろそろ届く頃だよね?新しい冥土(メイド)。」

「ええ…、今日の昼過ぎに到着予定と伺っております。それがなにか?」

「うん、楽しみだと思ってね。君らのように敵意から忠誠心に変わる姿はもう見飽きたし。そろそろ新しい刺激がほしいところだ。」

「………国から差し向けられる刺客をそんな風に仰るのはご主人様くらいかと。」

「別になんもする気ないのにねえ〜。」

「失礼を承知で言いますが、ご主人様はもう少し自分の危険度を自覚なされた方がいいかと。何もする気がない、という問題ではございませんので。」

「はいはい。取り敢えず、玄関も窓も開けといてね。またぶっ壊されて修理業者呼ぶの面倒だから。」

「…かしこまりました。」

「それと、今回は手出し無用だから。何もせず通して。」

「ご主人様の仰せのままに。」


一礼して去っていく一介のメイドは心の中で突っ込んでしまう。


(自分で業者なんて呼んだことないくせに…。)


むしろ壊しっぱなしで生活するような主人だ。


呆れかえっても足りないほど人間らしい生活とは無縁で、意欲的に取り組むのはゲームのみ。


他には一切興味を示さない。


勿論、自分が生きていくために必要なことでもだ。


放っておいたら廃墟や高架下、はたまたダンボールに入れられたって文句ひとつ言わずにゲームをしているだろう。


それでもこんな広い家に、広い庭を“与えられている”人間だ。


使う部屋なんて限られているのに掃除するのは丸一日を要してしまうし、


雇われている使用人達もほとほと困った引きこもり主人に対して近寄ることはない。


言いつけられていることはひとつ。


ゲームの邪魔をしないこと。


主人からの命令なんて全くと言っていいほどなく、姿なんて早々に見れるものでもないから、


雇われている使用人の中でこの家の主人の姿を見たことがあるものも少ないくらいだ。


部屋から出たメイドはこの家で働いている使用人数名に声をかけ、数ヶ月ぶりに出された主人からの命令を伝えていた。


それを知ってか知らずか、家主はゲーム機を机に放り捨てて伸びをする。


今日来たる新たなメイドを楽しみに待ちわびながら、


「簡単に降参してくれるなよ?」


ほくそ笑んで、どんな奴だろうかと想いを馳せるのであった。


*****


ピンポーンと高いインターホンの音が家に鳴り響くことが今日の合図。


業者がダンボールを持ってくる、なんてものなら良いのだが…。


「宅配でーす。」


そんな声を響かせているのは黒ずくめのスーツを着た男。


強い日差しで顔は見えずとも、窓からでもわかるほくそ笑んだ口元。


この家では見慣れた光景だ。


ああ、またどこぞの国から“挑戦者”が来たと思う程度。


そうして後ろで控えていた華奢な姿でメイド服に身を包んだ女が開け放たれている玄関へそっと入り込んでくるのだ。


普段なら、そのまま銃の乱射、爆弾の投下、はたまた窓からの侵入などなど。


結構大胆に入ってくる経路はあらかた見慣れているし、


静かに玄関から入ってくる者も大概パターンは同じ。


それが主人にとって飽きたと言わせる日常の一部なのだからして、今日も使用人達は巻き込まれないように自分の身を守ることに徹するのみ。


そして挑戦者を確認しながら、数年前は自分も同じ立場だったなあとしみじみ想いを馳せることになるのだ。


この家に仕えている使用人達は皆が皆、この家の主人への挑戦者だった。


暗殺を得意とする者。

戦闘を好む者。

自分の腕っ節に自信がある者。


上げていけばキリがないほどの挑戦者達の狙いは一つ。


家主を殺すこと。


けれど未だにそれを成し遂げた挑戦者はいない。


返り討ちにされて殺されるか、家主の気まぐれに助けられてここで働くかのどちらかになる。


元より挑戦者には家族や友人と呼べる普通の人間など来ないから、


負けてしまえば行くあても帰る場所もなくしてしまうのだ。


自ら自害する者だって少なくない挑戦者になる人間には、目的である家主を殺すことを成し遂げるしか帰る道はない。


そんな新たな挑戦者の訪問に誰もがご愁傷様だと思わざる終えない完敗を味わった人間がここよ使用人だ。


復讐なんてする気も失せるほど徹底的な負け方をしてしまえば、跪いて命乞いをするしかなくなる。


運が良ければこの家で働けて、悪ければ死ぬのみ。


さて今回はどうなるのやら、と見つめる使用人達の気配を知ってか知らずか、


今回きた新しい冥土(メイド)は綺麗な黒髪をなびかせ、コツコツと家主のいる部屋まで歩いていく。


一見無害そうに見えるものの、手練れというものはそんな気配も隠せるもののことを言うのだ。


取り敢えず、好戦的なタイプではないことがわかると、家にいる使用人たちは今日が終わるのを待つために各々が家から外へと出ていくのである。


*****


確か、教えられた部屋はここのはず…。


ノックを何回かしているのだけど全く返事がない。


ていうかこんなだだっ広い家なのに人ひとり、見当たらない。


そもそもなんで窓全開?玄関開けっぱなし??


理解が追いつかないというか、寧ろ理解不能だ。


泥棒に入ってくださいと言ってるようなもんじゃないか。


なんか知らず知らずのうちに連れてこられたけど…、ここって怪しい場所なの?


頭をひねったところで全くわからないからとりあえず家主の部屋まで来てみたものの、


返事がない上に誰も居ないなんて聞いてない。


「はあ…。」


働かせてもらえるっていうから来たのに…。


勝手に入ってあとは好きにして良いと前以て聞いていたし、歓迎なんてされることはないだろうと思っていたけれど…。


なんの出迎えもないというのもびっくりである。


「うーん、取り敢えず掃除でもしようか。」


周りを見渡しつつ、あたしは掃除用具入れやキッチンの場所などを把握しながら家の清掃にとりかかることにした。


こんなに広いのに、使われてなさそうな部屋ばかり。


埃も溜まっているし、冷蔵庫なんてほぼ空っぽ。


水と適当なまかない程度しかないなんてどうなってるんだか。


しかも庭なんて雑草だらけだし、小綺麗に見せてるだけで扉を開ければ掃除用具すら雑多に詰め込まれているだけだった。


「道具が揃ってるだけマシだと思っとこう。」


よし、とポジティブに捉えて掃除を始めたあたしはキュパキュパのピッカピカを目指して時間も忘れたまま掃除に集中したのである。


だから…、


「おい。」

「…………。」

「おいって!」

「……………………。」

「無視すんな!聞こえてるんだろ!!!」


怒鳴り声が響いてからピクリと手を止めたあたし。


なかなか取れないキッチンの汚れと悪戦苦闘していたもんだから聞こえてなかったのだが、


視線を上げればキッチン越しに、伸ばしっぱなしだとわかる黒髪を携え、気だるそうに立っている男の人を認識しました。


青っ白い肌色に、伸ばしっぱなしの髪の合間から見える瞳は透明感のある灰色。


生気がなさすぎる眼差しに見つめられると亡霊化なにかかとおもって思わず…、


「うわああっ!!悪霊退散!!!南無阿弥陀!!!南無妙法蓮華経?!!??」


片っ端から言ってみるお経とも呼べない羅列で飛び上がったあたしに、


男は何を言ってるんだとばかりの睨みを寄越してきた。


「なんの呪文だそれは。なんも効いてないんだけど?」

「え?あれ?…ゆ、幽霊なんじゃ…っ?」

「ユウレイ?なんだそれ。ていうか何やってんの?なんで襲いに来ないの?」

「襲うって…?あたしはメイドとしての仕事を…。」

「冥土ならやることあるだろう?なんで僕を無視して普通に掃除してんの?」

「メイドって家事全般以外に何かやることがあるんでしょうか?」

「…は?」

「え…?」


こうして冒頭に戻るわけである。


噛み合わない会話に顔を見合わせながら小首を傾げてしまう。


ていうかこの人誰?


ここに住んでる人?


てことはこの人が家主なのだろうか?


「君、どこの国から来たわけ?僕を狙って来たんじゃないの?」

「えっと…?あなたって狙われる人なんですか?なにから?あたしはただ働かせてもらえると聞いて、」

「働くってことの意味を履き違えてない?何が得意か知らないけど目的くらい教えてもらってんだろう?」

「目的…?」


はて?と考え込んでしまう。


元よりあたし、この世界の住人じゃないし。


そもそもここに来たのだって本当にわからないまま連れてこられたってだけだし。


取り敢えず生きるためには働かないとっていう心境しかなかったもんだから右も左もわかりませんってやつなんですが…。


この人は一体何を言っちゃってるんだろうか?


「えーっと、取り敢えずお茶でも出しますのでゆっくり話しませんか?あ、あたしはハナって言います。あなたのお名前は?」


立ち話もなんだし、家主であるにしろないにしろあたしもこの家のことを知らねばならないし。


キッチンのお掃除を先に済ませても良いですか?と聴きながらも食器の位置を確認していれば、


「そんなこと聞いてないしどうでもいいんだよ。僕の質問に答えろ。」

「質問と言われましても、その質問の意味があたしには全く分かっておりません。どういう経緯があってそんな質問に至るのかをお聞かせ願いませんか?」


そして長くなるだろうから座りましょう?と付け足すと、彼は何か言いたげな顔をしていたが、


次の瞬間には大きく深いため息をついてソファへとどっかり座っていた。


「でも掃除は待たない。早くしろ。」

「え、そんな。あと少しですので。これ放っておくのは耐えられません!」

「なんでだよ?!話しする方が大事…!」

「綺麗にする方が大事です!!!」


きっぱり言い切ってからゴシゴシと手を動かすことを再開したあたしに彼はなぜかあんぐりと口を開いてらっしゃる。


すみませんね。

どうしても気になるんですよ。


汚いものは嫌いなんです。

綺麗なものが好きなんです。


綺麗好き、と思われたら良いのだろうがあたしの場合はお医者さんからついに病名を貰ってしまったほどだ。


『強迫観念』からくる病名。


『不潔恐怖症』というらしいそれはよく聞く通り名を『潔癖症』という。


汚れたところを見るとどうしても掃除しないではいられない。


お風呂に何時間も入って出てこれなくなったり、一日に手を何百回と洗って綺麗にするどころかボロボロにしちゃうこともよくある。


一日中綺麗にするための方法を考えていると言っても過言ではないあたしに、掃除を一旦中止してこっちに来いは耐えられないのである。


「ふう…。綺麗になった。」


よし!と区切りがついたところでようやくお茶を入れる作業に取り掛かり、


待たせていた男性にすみませんと謝罪しつつ、まだ封も開けていなかった紅茶を出してあげていた。


そのまま彼の目の前に座り、自分の分を淹れつつ、何から切り出そうかと迷っていれば…、


「お前、僕のこと殺る気あんの?」


ないよな?絶対、と付け足しながらあたしの淹れた紅茶をにらんでいるこの人。


「ないですね。」


ていうか何故にあたしが殺人を犯さねばならないのか。


そっちのほうが疑問である。


あたしはただの綺麗好きなだけの普通の人間ですが?


キョトンとして即答すれば彼は目をパチクリとさせて訝しげにあたしを見つめるのです。


「なんで?」

「はい?」

「なんで殺さないのかって聞いてんの。」

「いや、普通にしたくないですよそんなこと。なにが楽しくて殺人をするのかあたしには理解できません。そんなことしたら床が汚れるし、掃除が大変です。絶対嫌です。絶対…!」


想像してしまったじゃないか。


ソワソワして今すぐにでも床磨きをもう一度したくなる衝動をグッとこらえていれば、


「いや、そっち?考え方おかしいだろ。ていうか冥土として来たんじゃないの?なにがどうなってここに来たのかそっちから説明して欲しいんだけど?」


その言葉は全くもってその通りであるからして頷かざるおえなかった。


いや、こちらとしては全部聞いてるもんだと思ってたんですよ。


そしておそらくは彼もあたしが全部知ってるつもりで変なこと聞くんだろう。


根本的に噛み合ってない話しだと分かれば互いに互いの境遇を話すしかない。


だからあたしは一口、自分のいれた紅茶の完璧さに満足してから"この世界に来た”経緯からお話しすることになりました。


*****


あたしは極々一般的な家庭に生まれた極々普通の女子高生である。


人と違うとしたらちょっぴり綺麗好きが過ぎるくらい。


学校には常に長袖で行くし、手袋は欠かせない。


故に変わり者扱いは当たり前で、友達なんて呼べる人もおらず、


なんならあたしは生まれる場所を間違えたなと思うくらいには厳しい世界で生きていた。


「ちょっとかわいいからって調子に乗んなよ!!!」

「小町(こまち)くんに色目でも使ってんじゃねえだろうな?!」

「峰(みね)くんが優しいからって図に乗るんじゃねえぞ!!!」


まあ大概は女子のやっかみが多い。


そんな気はまるでないのだが、こういう体質だとわかってくれる人たちだってなんだかんだいてくれるわけで…。


それがたまたま彼女たちの好きな人だったってだけで、全くもってこちらは意図しないやっかみが多い。


むしろ女子生徒にだってそれなりに優しくしてもらってることは多いのに、何故男子になるとこうなるのか…。


挙げ句の果てに先生にまで甘やかされてるだのなんだのと言われる毎日はとても億劫だった。


あたしにとってこの世界は全く優しくない。


全部綺麗にするにはどうしたら良いんだろうとか考えてるあたりがオカシイんだろうけど。


そんなある日のことだった。


道端で怪しい占い師が座っていたのだ。


というかこういうのはよくある光景といっても良いのではないだろうか?


手相占いだったりタロット占いだったり、小さいテーブルを前にして座っているだけの占い師ってよく見かける光景だ。


あたしも例外じゃなくそういう人たちを何の気なしに見つけることはある。


ただ違ったのは…、


「お嬢さん。そこのお嬢さん。」


別に占いになんて興味ないし、そもそも手を触られることが嫌なのに自分から行こうとは思わない。


インチキなのか本物なのかもわからないあたしにとってはとっとと家路を辿ることが先決であって、


寄り道に楽しさを見出したことはなかったのだけれど…。


声をかけられてしまった。

しかも向こうから。


誰のことだろうと辺りを見回しても何故か人はあたししかおらず、


ちょいちょいと手招きされるおばあさんはあたしをガン見してる。


つまり、行かなきゃいけないのはあたしで、こんなこと無視すればよかったのに何も考えずふらりと近寄ってしまったのが運の尽き。


「あんた、死相が出てるよ。」

「はい?」

「他の世界に行った方がいい。」

「えっと……、はい?」


いやいやいや、意味がわかりません。


すんごいサラッと他の世界に行ったほうがいいとか言うか普通?!


そんな方法あるんですか?


まあ別にこの世界にこだわりはないし未練もないのだが、


今日死ぬよって言われてるようなもんだよこれ。


すごい不吉じゃないか。


「あんた今日死んだほうがいいよ。」


言われちゃったよ。


なんかニュアンス違うけど言われちゃったよ。


それに対して「はい、わかりました」って言う人間がどのくらいいるんだろうか?


居ないだろう。

絶対いないだろう。


この世界にこだわりも未練もないあたしでも死ぬのは嫌だよ。


「怖いんですけど?」


これ悪徳商法かなにかでしょうか?


回避するためにはこの壺を買った方がいいとかそんなやつでしょうか?


考えなしに近寄るんじゃなかったよ、ちくしょう。


ていうか女子高生のお小遣いなんてたかが知れてるってわかるだろうに。


「とりあえず、大通りに出て車に跳ねられてきたらいいよ。」

「いや、しませんよ。したくもないし。なんでそんなに死ぬことをオススメするんですか?あたしあなたの恨みでも買いましたか?」


怖すぎなんですけど?と続けると、おばあさんはため息混じりに「仕方ないねえ…。」と言いながら懐に手を突っ込んで刃物を取り出すのである。


いやいやいやいや…。

いやいやいやいやいや…!


え?なんで?そういう流れなの?

いや、どういう流れだよ。


なんでため息混じりに、じゃあ殺してあげるよって言われるような行動見なきゃいけないんだよ。


「あんたはねえ、この世界向いてないんだよ。わかるだろう?」

「わかりませんけど?!そりゃ確かに生きにくいとは思うけど、仕方ないことだし…!」


病気なんだもん。

治そうと思わなかったんだもん。


大変だけど、大変なことしてでもわからないうちに汚れてしまうのは嫌だ。


それなら大変さを選んで綺麗好きで居たい。


「それが案外、仕方ないことじゃないんだよねえ。」

「はい?」

「世界ってもんは複数あるのさ。魂ってものは振り分けられた身体に宿って、生まれた世界で生きてるだけ。まあごく稀に、あんたみたいに“あぶれた”モノも居るんだけどね。」

「哲学的な話しですか?それとも中二病的ななんかですか?」


おばあちゃん、その歳で中二病拗らせてるのは相当ヤバくないかな?


「人は、目に見えないモノを信じようとはしないさね。ただ目に見えないモノが見える人間もいるということだよ。」

「おばあちゃんがそれだって言いたいの?」

「あたしゃ、あんたみたいな“あぶれモノ”を元の世界に戻してやるのが役目さね。」

「要約すると、あたしはこの世界の住人じゃなくて別の世界の住人だからそっちに行かせてくれるってこと?」

「なんだい、あんた…。随分と理解がいいね。」


何故かポカンとされてしまっているんだけど?


だって拒否反応起こしてもペラペラと喋ってくるからさ。


取り敢えず聞こうと思ったあたしを褒めて欲しいくらいなのに、なんでそんなびっくりされなきゃならないんだよ。


「じゃあつまり、死んだ方がいいっていうのは行くべき世界に行くためには死ぬことが方法ってわけですかね?」

「そうなんだけど…。いや、そうなんだけどね。あんたちょっとは動揺しなよ。」


えー…。

さっきから動揺して拒絶してたのになんてこと言うのおばあちゃん。


刃物持って言うセリフかよ。


「だって殺る気満々じゃん、おばあちゃん。」

「逃げることだってできるじゃないか。」

「死相出てるってさっき言ってたじゃん。嘘か本当かわかんないけど、本当だったらゆくゆくは死ぬんでしょ?あたし。」


まあ別にそれを待っててもいいんだけど、痛いのは嫌だしなと思ってしまうわけで、


どっちみち死ぬんなら死に方くらい選びたいなと思うじゃんよ。


「アッサリしすぎだろあんた。」


そして自分から呼んでおいてなんなんだこいつみたいな目を向けるのやめてほしいんだけど。


「いや、生きるのしんどいし殺されてもいいかなって思って。」

「たかが十数年でどんな人生歩んできたんだいあんた?!」


真顔で言うとギョッとするおばあちゃんよ。


赤の他人にそんな哀れんだ目を向けられるとは思わなかったよ。


これでも真っ当に生きてきたつもりだけど、真っ当に生きてきても生きづらさってもんは拭えないのだ。


病気のせいにしているが、そんなことなくてもあたしは多分ずっとひとりだろうなって気がするし。


だからって別にこの世界が大嫌いとまでは言わない。


両親はこんなあたしを理解してくれて接してくれるし、あたしの病気に理解を示してくれる人間だって学校には数人いる。


あたしだって好きでこの強迫観念を持て余してるわけじゃないし、好きで誰にも触られたくないと思ってるわけじゃない。


だからあれだ。

死にたいとか、殺してとかじゃなくて、殺されてもいいかなってやつなんだ。


「はあ、まあいいや。逃げる気がないならあたしが早々に向こうに送ってやるよ。」

「ねえ、ひとつ質問なんだけど。この世界であたしが死んだらどうなるの?両親とかさ、やっぱり悲しませることになっちゃうの?」

「そりゃそうさね。ここに存在していたという事実は変わらないよ。葬儀も挙げられるし、花も添えられる。死体が消えて記憶まで消えるなんてことはありえないさね。」

「マジか。じゃあ一旦帰って掃除してきていい?」

「は…?」

「昨日区切りがついたところで掃除止まっちゃってんの。今日終わらせるつもりだったのに死んだら放置されたまんまとかありえないじゃん。うちの両親、掃除とかマメにするどころか絶対しないし。気になりすぎて無理!死ぬのちょっと待ってくれない?!」

「……………………。」


どこから突っ込めばいいんだこいつ、って目をしてたと思う。


おばあちゃんにあんぐりと口を開けられて見つめられる数秒間がやけに無駄に思えたあたしからすれば、


早く帰って掃除したい!ってだけしかなかったんだけどね。


「死ぬのちょっと待ってってセリフあるんだね。あんた相当イかれてるよ。」

「いや、やり残したことあるから待ってって言ってるだけじゃん。」

「家族に別れの挨拶ならんかるけど、掃除って…。」

「死んで悲しまれるのはそりゃ心苦しくは思うけど、別に親孝行できてなかったとかじゃないし。感謝はしてるけど人間いつかは死ぬんだから子供が先に逝ってもなんら不思議じゃないでしょ。」


それより掃除だよ。


トイレとお風呂と洗面。

それから自分の部屋。


埃ってもんは目に見えなくても毎日溜まってる。


ただ水回りはひとつひとつしていかなきゃ時間がかかるし、キッチンまで昨日はしたから今日はお風呂と洗面とトイレなのだ。


水垢が溜まる前に綺麗にしたいし、自分の部屋は毎日掃除してるのに今日は死ぬからしないなんて理由はない。


死ぬなら掃除してから死なせてくれ。


「……うん、もういいよ。わかったから…。掃除終わったらまたここへおいで。その時、殺してあげるよ。」

「わかった!すぐ終わらせてくる!!!」


そんなやりとりで一旦家に帰ったあたしは気の済むまで掃除をし終え、


お母さんの最後の手料理を黙々と食べ、お父さんの仕事帰りにおかえりと出迎えて、


念入りに掃除したお風呂で身体を清めてからおばあちゃんのところへ戻ったのである。


「本当に来たね。」

「え?約束したじゃん。掃除したら戻ってくるって。」

「いや、そういうことじゃなくて……。うん、いいよ。もういい。」


なんか面倒くさがられてるんだけど?


これから殺されるのあたしなのに、ちゃんと約束まで守ったのに面倒くさがられてるんだけど?


何この扱い。なんか納得いかないんだけど?


「じゃあ即死をお望みだったね?」

「うん、痛いのは嫌。」

「はいはい。じゃああっちの世界では幸せにね。」


すごいラフな言い方で、懐から銃を取り出したおばあちゃんよ。


即死だから頭狙ってぽっくりってやつですか。そうですか。


役目とか言ってたけど、この人ただの殺人鬼なんじゃないの?


なんて今更思ったところで遅かった。


なんのためらいもなく引き金を引いた爆発音が耳にキーンと響くと同時にあたしは頭を貫かれていたんだから。


占いとかそういうの信じるタイプじゃなかったし、だからって全く信じないわけでもないんだけど。


これは安易に乗りすぎたというか、本気で殺されると思ってはいなかったんだけどって…、


甘い考えに後悔しても時すでに遅し。


他人とこんなに喋ったのいつ以来だっただろうか?


変な会話でも、会話できてることと、あたしのことをなんだかんだ変な目で見ながらも会話してくれる人にちょっと気分が高揚してたのかもしれない。


受け入れられるってことはすべからく嬉しいものだ。


だけどそんな甘い考えのせいであたしは殺された。


(マジかー。ほんとに撃たれたよ…。)


なんて思ったのが最後の記憶。


気がつけばどこぞとしれない檻の中に入れられており、トントン拍子にここまで連れてこられたのだ。


確か…、


「呪われた子が数千年ぶりに現れたぞ!!!」

「魔月忌(マガツキ)の森で発見されたらしい!」

「それガ本当なら一大事だぞ!!!」

「国の命運がかかってるんだ!王に早く知らせを!」

「その前にどんな呪い子なのか検証を…!」

「馬鹿言うな!そんなことして何人の命が落ちるかわからない化物を研究なんて正気じゃない!!!」

「だからって無闇に放り出せば何をされるか…!」

「だから王に意見を求めるのだ!グズグズするな!呪い子が起きる前に準備を整えるんだ!神殿にも伝達を!!!!」


意識が朦朧とする中で聞こえたのはあまり歓迎されているとは言えない会話だった気がする。


呪いって…、まだそんなこと信じてる人がいるのか。


ていうかあたしにそんな力はないんだけど…。


そもそもあたしはべつに呪われてないから。


ただちょっと度が過ぎるだけの綺麗好きだから。


なんて思って朦朧としていた意識は一旦途切れ、次に目が覚めた時には厳重な檻の中。


ファンタジー小説なんかで描かれてるような王の謁見間に差し出されていたのだ。


周りには武装している人たちが大勢いるし、目の前には高いところで王様が座るような質の良い大きな椅子に腰掛けている老人が一人。


あたしはまるで罪人のように人ひとりを閉じ込められる、鉄の鳥かごに入れられた状態だった。


すごいファンタジーだよ。

あんな鎧姿の人、歴史の教科書でしか見たことないし。


そもそも室内の作りからして日本とは到底かけ離れている。


中世ヨーロッパ的な装飾なんですけど。


え?ここ海外?

でもあたし死んだんだよね?


何がどうなってんの?


そんな思いで周りを見渡しつつ、こんなことならどんな世界に行くのかおばあちゃんに聞けばよかったと後悔していた。


ていうか本当に別世界に来ちゃったんだけど?


別世界に来たというか転生したって方が当てはまるんだろうか?


いや、転生なら赤ん坊からやり直しってのがルールじゃない?


あたし普通に女子高生のまんまじゃんね?


鏡ないからわかんないけどさ。


でも身体が赤ん坊じゃないことだけはわかるよ、うん。


なんて混乱した頭ではじき出せる事実を見つめながら、この世界で日本語通じるんだろうかとふとした疑問を持て余していれば…、


「何が目的だ。」


耳に響くしわがれた声音をちゃんと言葉として拾えた不思議さにちょっと感動した。


英語ならまだわかるかもしれないけど、別世界の言語まで世界共通だと言われている英語なわけないし、


だからってそれを理解するのは今のあたしでは無理に等しい。


言葉って大切だ。

伝え合える言語として日本語が共通言語なのだとわかるとちょっとホッとする。


そして何が目的だと問われることには考え込んでしまった。


だって死んだ方がいいって言われて本当に殺されただけだもんねあたし。


目的なんて特にないし、ていうかこの世界のこと教えて欲しいくらいなのに。


なんでそんな質問なのだろうか?

もっとないのだろうか?


ほら、何者だ?!とかさ。

どこから来て、何があっとんだとかさ。


なんで目的を最初に聞くのかてんでわからなかったんだけど、その質問に返す内容としてあたしが言えるのは…、


「掃除すること。」


綺麗好きなもので、こんな誰が触ったからしれない檻の中にいることも不愉快なんですよ。


錆があるし、これ取りたいなとか思っちゃうじゃん?


ていうかあたしが着てる服、誰が着せてくれたの?


洗濯したの?

そもそもあたしに触ったわけだよね?


だめだ。考えちゃだめだ。

お風呂入りたい。気持ち悪い。


自分のことも今いる環境も綺麗に掃除してしまいたい。


そんな想いに囚われてしまう強迫観念とやらのせいで、あたしはひと言。


それだけを漏らしたのである。


すると何故か周りがざわつき出し、偉そうに高いところで座っている老人もビクついているという意味不明さ。


綺麗にすることに怯えるって何?


綺麗にしたら気持ちいいでしょ?そうでしょ?


それとも汚いことを好む世界なんだろうか?


それはちょっと…、いやかなり、無理すぎるんだけど。


耐えられないよそれは。

汚いことを当たり前に好む世界とかあたしに一番合わないじゃねえか。


おばあちゃん、言ってることが違うじゃんよ。


暴走する思考をふるふると頭を振って思い込みはダメだと言い聞かせていれば、


「お、おい、掃除って…!」

「この世を滅ぼしたいってこと……だよな?」

「当たり前のように言ったぞあの呪い子!!!!」

「そ、早急に死刑!もしくは追放を望みます!!!」

「そんなことしたら俺らが呪われる可能性が高くなるんじゃないのか?!」

「じゃあどうしろってんだよ…?!」


耳に聞こえてくる物騒な話しには色々と突っ込みたかった。


なんで、そう捉える?


なんで、殺すこと前提?


あたし、掃除したいって言っただけじゃん。


掃除って、この世界の掃除って意味じゃないからね?


どっかのファンタジー小説の悪役かよ。


人間は増えすぎたから掃除するとか?


ないないない。

人間を掃除しちゃったら逆に環境汚染真っしぐらだよ。


飛び散るだけの血液や、腐るだけの死体なんてなんの肥やしにもならねえよ。


考えただけでゾッとすることに身震いすれば、周りでざわついていた人々が何故かあたしの動作にビクついて後退していた。


「お、おい?!あ、あれ…!」

「殺したくてたまらないっていう武者震いだよな?!そうだよ絶対!」


待て待て待て待て?!

だからなんでそうなる?!


あたしは掃除がしたいだけだ。

綺麗にしたいだけだから?!


つまり働きたいと言っているのに何故、人間の掃除前提で進んでいるのでしょうか?


弁解しようと思って口を開きかけた時、


「わかった。呪い子さまの、お望みの通りにいたしましょう。」


高いところで踏ん反り返っていた老人が青ざめた顔でそう言ってきたのだ。


あ、わかってくれた?

わかってくれたと思っていいのかな???


「ある家に送りましょう。そこの掃除はまだ誰も、完遂できたことがありませんゆえ。」


掃除が完遂できたことがないとはどういう意味だろうか?


ていうかそんな言い方やめてほしい。


めちゃくちゃ気になって仕方なくなる!!!


どんだけ汚いのそこ?!


嫌だ。汚いのは嫌だ!!!

綺麗にしたい!!!!


潔癖症ゆえの完璧主義なだけに話しだけでぞわぞわしてしまう。


「この世界の最古参と言われている家でしてな…。難攻不落の小国といっても過言ではない家なんです。」


どんだけ汚い家なんですかそれ?!


待って。湿疹出そうなんですけど?


ほんと待ってほしい。

難攻不落の最古参の家って…!


つまりゴミ屋敷だと?!


発狂したくなる想いをどうにか留めながら、あたしはソワソワしてしまっていた。


そんなところはあたしにとって悪でしかない。


汚いものは大嫌いだ。

掃除したい。


それだけの強迫観念に囚われてしまえば答えは決まってしまう。


「そこに、行かせてください。掃除させてください!!!耐えられない!!!綺麗にしてきます!!!!」


想像してしまったら最後ってやつだった。


考えただけでも恐ろしい。


そんな汚い環境があっていいわけがない!!!


別世界云々より掃除が大事なあたしにとっては綺麗が最優先事項なのである。


そしてその発言により、


「難攻不落の小国って…!まさかあの男を落とせる呪い子なのか?!」

「だから魔月忌の森に現れたと?!」

「ていうことは神の使いじゃないか!!!」

「は、早く檻から出せ!もてなせ!!そして神の使いを一刻も早くあの洋館に連れて行け…!」

「もしかしたら我が国が英雄として偉業を成し遂げるかもしれん!!!」


掃除がしたいと言っただけなのに、次の瞬間には生地のいい服を与えられ、豪華な部屋と豪華な食事を与えられ、


準備が整うまで、どうかお待ちくださいと頭を下げられ、


数日後には清潔なメイド服を仕立てられ、


馬車に乗せられてこの家まで来たというわけだ。


*****


「………つまり、なんだ?お前…、異世界人だとでも言うのか?」

「簡潔に言えばそうなりますね。」


未だに別世界に来たという実感はわかないんだけどね。


だって馬車で移動している最中にみた光景は日本となんら変わらない。


あたしが目覚めた国は中世ヨーロッパを思わせるような城に、街並みに、衣装だったけど。


ここまでの道すがらで変わる風景は高いビルに、発展した技術がわかる大画面に、現代風の衣装に変わったから。


この洋館もアンティークに包まれてはいるが、テレビにシステムキッチンにパソコンまである。


どういう原理かは知らないが、日本語も通じている。


まるでパラレルワールドにでも来た気分だ。


探してみればお母さんとお父さんがいるかもしれないとか思ってしまうくらい。


だからメイド服とか与えられて着ている自分を見つめるとただのコスプレにしか思えなくなるんだけど…、


目の前の男の人は足を組んで鬱陶しい黒髪の合間からあたしを睨みつけてくる。


「なるほど。だから話しが通じなかったのか。」

「信じてくれるんですか?」

「信じがたい話しではあるが、お前が語った国はこの世界でも文明がかなり遅れているところだ。神だの呪いだのを重視して、祈りと信仰心がモノを言う。今では鎖国国家だよ。」

「えーっと……?」

「つまり、そういう国だからこその土地柄と伝承がある。魔月忌の森というのは未開の地でな。未だ調査しきれていないほどに、未知の生物が生息し、ごく稀にそういう扉が開かれる場所だと言い伝えられている。」

「そういう扉…?」

「理論的にはあり得ないが、異次元空間と繋がると言われているんだよ。そして、その伝承は古くから書記として記録されている。」


ファンタジー過ぎませんか?

なんだその設定。


ここ、どっかの小説の中なのかな?


そう思ってしまうくらいには真顔で変なことを言い切る目の前の人にぽかんとしてしまう。


「魔月忌の森に現れた異世界人は何かしらの能力を持っていたという話しだ。世界を滅亡させるほどの能力をな。」

「えっと………、例えば?」

「戦略において秀でた才能を持った呪い子が小国を大国にまでのし上がらせて一大国家を築いたとか。」


それって現代で言うところの戦争を知ってる人が来たってことでしょうか?


技術の発展が見られるこの国と、目覚めた国の古風さを目の当たりにしてるからそう思ってしまう。


この世界で小国っていうのは文明がまだまだ発展していない国という見解でいいのかわからないが、


現代人が戦争におけるいろはを知っているとしたらそれは経験者か、研究者かと絞られてくる。


戦争経験者ならなおのことだし、軍で働いていたという人間が来たならば敵うわけがない。


「はたまた武器の製造に長けていて、一国をほろぼせる兵器開発を難なくやってのけたとか。」


それって現代科学に精通してる人ってことですよね?


日本は平和の国ではあるけど技術はどの国よりも綿密だ。


政府関係者、あるいは科学者という職についていた人が来たことがあるってことだよね?


「薬学に精通している能力の呪い子もいたそうだよ。見たこともない技術で人を治すことも、殺すこともできるとか。」


それ、医者じゃないでしょうか?


現代医学がこの国で通じたってだけじゃないんでしょうか???


「娯楽を極めた能力者の例もある。そいつの作り出すモノで相当ダメ人間が生まれて国が滅ぼされたとか。」


あれですか?カジノとかそういうやつでしょうか???


賭け事に依存するのって異世界でも共通なんですね!!!


「それに、人の心を操って悪夢を見せたり、はたまた人を壊したりできる呪い子もいたって話だ。」


それ、心理学者じゃないでしょうか?!!


カウンセラーとして、人の心を治す術を知っていれば、人の心を壊す術も知ってるってやつじゃないんでしょうか???


「すべては歴史の記録でしかないが、記録があるという事実を考慮するならば君が異世界から来て、魔月忌の森で発見されたということは現実味がある。」


それらすべての呪い子は皆、魔月忌の森で発見され、保護されたらしい。


おばあちゃんの言葉を借りるとすれば、あたし以外にも“あぶれ”モノがいたってことだ。


「それを考慮するならば君の言葉は信じざるおえない。して、どんな能力を持ってるんだい?」


僕を殺せる能力だといいね、なんてほくそ笑まれてもこまります。


あたしは極々一般家庭に生まれた極々普通の女子高生なわけで、


ちょっと人と違うところがあるとすれば、綺麗好きが過剰な程度。


綺麗にしないと気が済まないだけのことが、人を殺せる類にはなりませんよ。


「えっと、…あたしはただ、綺麗にしたいだけなので。掃除させてもらえたらそれで満足なんですけど?」


素直にいうしかない。

あたし、社会人でもなければ専門分野を極めている人間でもないし、


ましてや綺麗好きを拗らせてるだけのあたしが殺人的スキルなんて持ってるわけがない。


「つまり、僕を殺せたら満足だと…。やっぱりそういう目的があるんじゃないか。じゃあなんで殺しに来ないかな?」

「いや、そういう掃除ではないんですが…。」


なんで誰もかれもが掃除というものを殺人に結びつけるのだ。


一番汚らわしいことじゃないか。

絶対したくないんですけど?


「あたしは、この屋敷の掃除をしたいだけです。あなたの命なんてどうでもいい。寧ろ死にたいなら床も壁も汚さず首を吊ってください。死体の処理はちゃんとしますので。」


一酸化炭素中毒でもいい。

とりあえず体液やら血液やらを飛び散らせて死ぬとか勘弁してほしい。


死にたいなら睡眠薬を手配したっていいのだ。


綺麗に死んでくれるならあたしにはなんの支障もないが、汚らわしい死に方をするならブチ切れそうってだけ。


そんなあたしの発言にぽかんとしている目の前の人。


この人がどういう存在なのか知りはしないけれど、


「汚いものが大嫌いなんですよ、あたし。」


死が綺麗だなんて思ったことはない。


どれだけ綺麗に死ぬかってことは考えたことはある。


練炭自殺が一番綺麗な方法だと行き着いたのはいつの頃だったかわからないけれど、


血反吐吐いて苦しみながら死ぬより、眠るように死ねる方法が一番楽だし綺麗だし、自殺するならみんなこの方法を選んで欲しいと思ったのは事実だ。


まあ、この世界に練炭があるかどうかは知らないが、


一酸化炭素なら簡単に作れる代物だからお手伝いくらいできると思いますよ?


そんな心境のあたしに目の前の彼は言葉も出てこない様子。


何か間違ったこと言いましたかねあたし?


「あの、次はこっちから質問してもよろしいでしょうか?」

「なんだ。」

「なんで自分のこと殺しに来いっていうんですか?さも当たり前のように。」

「当たり前のことだからだよ。」


はい、会話終了。

お疲れ様でしたー。


わっかんねえよ。

そこを教えてくれっつってんのに一言で終わらせんじゃねえよ。


ついさっき、質問の経緯を互いに教え合いましょうって言ったばっかりじゃんよ。


「なんで当たり前なんですか?」


ただ文句をぐっと堪えて大人の対応をするあたしってえらい!


なんて思って見つめる先では、


「僕が一国を簡単に滅ぼせる力を持ってるからだろうね。」


だから!それがなんでだって聞いてんだよ?!


会話する気ゼロかあんた?!


あたしのように説明というものができないのか?!


それともやっぱり日本語通じてないんでしょうか?!


ああ!こいつ馬鹿なんだ!そうなんだな!!!


馬鹿でもわかる言葉遣いをしてあげなきないけないんだな!!!


「その力ってのはなんですか?」

「呪いだよ。てかそう言われてる。」


よく知らないけど、と付け足されるが本当に一言で終わらせるのやめて欲しい。


どう聞けばあたしの聞きたい答えを紡いでくれるんだろうかこの馬鹿?


あたし、頭が悪いわけじゃないと思うんだけどこんなに馬鹿な人と同じ土台に乗るのは難しいんだけど?


「つまり、呪われてる力が一国を簡単にほろぼせてしまうから、命を狙われていると…。そういう解釈でいいですか?」

「………いいけど、なに?あっさり信じるね。」

「いや、ここまでの道中でなんかやたらと呪い子って言われてましたからね。あ、呪いって点に関してはお揃いですね。」


どうぞよろしくお願いいたします、と会釈すると目の前の人は全くの無反応でした。


ていうかなんなんだお前って目を向けられ続けているんだけど?


なに?こんなに友好的に歩み寄ってんのになんなのその反応は。


「いや、なにがよろしく?殺しに来いよ。お前をここに送った国もそれを目的にしてるってさっき話したよな?」

「だからあたし、綺麗好きなんですって。殺人とか汚れること前提じゃないですか。しませんよそんなこと。勝手にそんな目的押し付けられても困りますし。」


ていうか最初に説明してくれてもよかったじゃん。


勝手に掃除したいって言ったあたしの言葉を誤解して解釈されただけのことを、あたしが忠実に再現しなければならない謂れなどどこにもないだろう。


そんな責任感溢れる性格ではないし、元より命を助けられたから頑張りますとかいうキャラではない。


「じゃあなに?本当に殺る気ないの?マジでここで働くつもり?」

「それが一番ありがたい話しなんですけどね。嫌なら他の方法考えるしかないですし。」


どう見ても嫌そうな顔されてるし。

ごり押ししてここで働かせてくれって言う気もない。


だって呪われてるらしいし。

当たり前に命狙われてるらしいし。


巻き込まれたらたまったもんじゃない。


ここに来てまだ数日しか経ってないのに即死とか笑えない。


「他の方法、ねえ…。そんな当てあるわけ?」

「ないですね。」

「清々しいほど即答するなお前。」


あーあ、期待外れだよ、と。

彼はそう言ってクシャクシャと雑な仕草で頭をかいた。


ていうかさっきから気になって気になって仕方なかったんだけどさ、


「あの、お風呂入ってますか?」

「はあ?」


どう見てもヨレヨレの服に肌色の悪い顔。


伸ばしっぱなしの無精髭も髪も気になって気になって仕方ないんですよ。


こんな人と面と向かってここまで話せたあたしを褒めて欲しいくらい。


「綺麗にさせてもらってもよろしいでしょうか?とっっっっても気になるので。」


話しはそれからで、と立ち上がると彼は「許可してない。座れ。」と言ってくる。


さっきからすごい命令口調で言われてるんだけど一度気になったらもう止まれないんですよあたし。


そういう病気なもので。


「すみませんがそれは聞けません。」


ゴム手袋を取り付けて、あたしは彼の腕を掴み上げておりました。


「おい?!」

「お風呂行きますよ。全身くまなく綺麗に洗いましょう。もう耐えられません。あなた汚すぎなんですよ。」

「き…っ?!お前僕がどんな能力持ってるか知ってて…!」

「いや、そんなことどうでもいいので。殺したいなら綺麗にした後にしてくださいね。それだけはお願いします。気になりすぎて化けて出る気しかしないので。未成仏霊になるとかあたしもごめんですから。」

「言ってる意味が全然わかんねえよ!!!?」


ズルズル引きずりながら、なんて軽い身体なんだと思ってしまう男性。


あたしより身長はあるし躯体も悪くはないのに、どんだけ食べてないんだろうかと思ってしまう。


冷蔵庫空っぽだったしな。

殺されなかったら豪華なご飯をたらふく食べさせてあげよう。


多分素材は悪くないと思うからこの人とお話しできたんだと思うし、


綺麗にしてしまえばあたしは満足だから。


そんな思いで風呂場へ彼を押し込み、シャワーを頭からぶっかけていた。


脱がすより先に消毒という頭があったから、


「熱っっつ!!!!熱湯かけるとか殺す気か?!あんたやっぱり殺る気満々じゃねえか!!!」

「なに言ってるんですか。殺菌してるんですよ。ちょっと我慢してください。火傷はしない程度に調節してますから。」


これでも温度調整は完璧なのだ。

毎日自分が被ってたから。


どの程度で肌がただれてしまうのかは検証済みなのである。


ある程度、冷水を入れないと綺麗にするつもりが汚くなってしまう。


それにこれなら服の殺菌も同時にできて一石二鳥だ。


「じゃあ服脱がしますね。」

「はあ?!ふざけんな!!やめろ!!僕は風呂が一番嫌いなんだよ!!!!」

「やっぱりお風呂はいってなかったんですね……。綺麗にします。暴れないでください。」

「嫌いだっつってんだろうが?!暴れるわ?!人の話し聞けよお前!!!」

「あたしも汚いのは嫌いです。なので、聞けません。」


もはや、風呂嫌いと聞いただけでこちとら鳥肌もんだってのに。


汚い身体のまま何日も過ごしてたとか想像するだけで湿疹が出そうだ。


モッコモコに泡立てたボディーソープで彼の身体をくまなく洗っていくあたしには異性という意識すら全くなかった。


「やめ…!ちょ!どこ触って…!!!」

「暴れるなって言ってるのがわからないんですか?ああ?こんな汚い身体で話しなんてできませんからあたし。」


迫るあたしの迫力は多分自分でもわかるくらい凄んでいた。


だからなのか、彼はギョッとして固まってしまい、そのまま手を動かすあたしにされるがままになったのだろう。


汚いことを放置するなんて絶対許せないあたしからしてみたら当然のことなのだけど、


この世界でそれが通用するかは別問題だ。


これ終わったら本当に殺されるかもしれないなあたし。


まあ、綺麗にできれば満足だからいいんだけどさ。


黙々と彼を洗浄し、髪も顔も洗い流し、適当なハサミを持ってきて伸びっぱなしの髪を切り落とし、


髭も剃ってあげてツルピカにしてあげましたとさ。


肌もかさついていたから開封されていない化粧水を発見してそれを塗りたくり、


保湿ケアとしてクリームをその上からペタペタと重ねていく。


清潔なバスタオルで包んであげて、洗濯機で乾燥されていた服を取り出して与えたのだ。


見事にツヤッツヤももちもち肌に仕上がり、驚くべきは彼の容姿だろうか?


あんなにもっさりモサモサ男が、洗ってあげて鬱陶しいもの全部取っ払ってやったら世に言うイケメン様だった。


見えなかった目元は明度のある灰色の猫目。


バランスよく配置されているパーツのひとつひとつが美しいとはこのことを言うんだろう。


芸能人でも見てる気分でキャアキャア言える性格ではないが、ていうかそういうのに興味はないんだけど、


見れる容姿で清潔となればあたしの満足度は高い。


「やっと綺麗になった。はい、じゃあ話しの続きをしましょうか。」

「切り替え早ッ?!とっとと背を向けてんじゃねえよ?!お前ほんとふざけんなよ!!!」


リビングに行って紅茶を入れなおそうと思った行動に、なぜか彼もバタバタと走りながらついてくる。


怒ってるようだ。

このままじゃ殺されるかもしれないから機嫌は取っておくべきだろうか?


「すみません。どうしても気になったもので。でもほら、ピカピカのツルツルですよ?すっきりしたでしょう?」

「そんなことはどうでもいいんだよ!!!さっきから話しの腰折りやがって!!!お前本当に殺すぞ?!」


てか殺されるかと思ったわ!!!!と噛み付くように言われるが、そんなことする気は無いとずっと言ってるのに…。


ていうか綺麗にするだけの行為で死ぬわけないじゃ無いか。


大袈裟だなこの人。


「不潔は嫌いなんです。お風呂嫌いなんてありえない話し聞かされたら止まれませんよ。」

「基準が全部おかしいんだよお前!!!」

「おかしくて結構ですから座りませんか?お茶入れ直しますから。あ、何か食べますか?顔色悪いですし栄養摂った方がよろしいかと。」

「うるさいうるさいうるさい!!!話しの腰をおるなっつってんだろうが?!ああ?!」


ガシッと首を絞めつけてくる片腕にはちょっとびっくり。


こんな細身なのにやっぱり男性は腕力があるんだなと思うびっくり。


いや、まあ、こちらとしては綺麗にできて満足だし、殺されるかもなと思ってた手前。


予想通りなので特に死ぬことに怯える概念はないのだけど、


「よかった。触られても発疹出ません。さっきピカピカにしたからですね。」


よし、とガッツポーズを小さくするあたしに目の前の彼はギョッとしていらした。


「なに満足げな顔してんだよお前っ。殺されそうになってんのにガッツポーズってまじか…。どんだけイかれてんの?」


迫り来る美麗なお顔もツルンツルン。


あたしが綺麗にした賜物だと思うと誇らしさすらある。


「あ、そうですね。綺麗にするまで殺すの待ってくれてありがとうございました。」

「いや、そうじゃない。そうじゃねえだろ?!」

「働かせてください?」

「それも違う!!!命乞いしろよ?!」


ここそういう場面だろ?!と言われると、ああそっち?と思ってしまう。


「えーと、助けてくださいって言って助けてくれるんですか?」

「僕の気分による。」

「じゃあ絶対ないですね。あ、お願いですから血液飛ばして床汚さないでくださいね。体液とか出ないようにお願いします。」

「諦め早すぎかお前は?!」


さっきからなんなんだ!!!と叫ばれるものの、さっきからあたしは自分の基準はちゃんと言ってるじゃあないですか。


なんでそんなに怒るのだ。


寧ろ潔く殺されてやろうというのになにがそんなに不満なんだ。


「僕に媚びへつらって命乞いしろよ?!それか殺しに来いよ?!今日はそういう日だろ?!そういう日になるはずだろう?!僕の楽しみをなんで勝手にお前が操作してんだよ!!!」


操作、とはまた…。

変な言葉遣いをする。


ああ、この人馬鹿だからかな。

あたしには理解できない土台から放たれる言葉など理解できなくて当然だわ。


「楽しみ、というと?あたしがあなたを殺すことですか?命乞いすることですか?」

「強いて言うならどっちもだし、どっちも違う!」


えー…。

なにこの人面倒臭いんだけど。


あたしにどうしろって言うのさ。


そもそもどっちもしてないじゃんあたし。


どっちもしたところで怒るくせにさ。


大人しく殺されてんじゃねえと今は怒鳴られてるわけだしさ。


わかんないわー。

どうして欲しいんだこいつは。


まあ、


「じゃあゲームでもしますか?」

「ゲーム?」


ピクリと反応を示した彼を見つつ、あたしは思い浮かんだことを口にしていたのである。


「あたしは綺麗にしたい。あなたは楽しみたい。じゃあお互いに死ぬのは得策ではないということです。」


どっちか欠けたら望みは叶わない。


ならば尊重しあいましょうという提案として、


「お互いにやりたいことをやるために、殺しはしない。」


それがルール。


「殺さないこと前提で、殺し合いましょう。」


つまり、自分がどれだけ自分のやりたいことができるか競いましょうってだけなのだが。


彼の楽しみたいという願望がどんなものなのかは知らないが、彼の楽しみに付き合わされればあたしは掃除できないし、


逆にあたしが掃除していれば彼は彼なりの楽しみってもんを楽しめなくなる。


邪魔のしあいっこ。

つまりはそれを殺し合いに見立てただけのゲーム。


ま、お互いに干渉しなければいいだけの話しなんだけどね。


つまり遠回しに互いの望みを尊重して、干渉しないようにしましょうって言ってるだけなんだけど、


「ふうん?面白そうじゃん。あんたの異常な綺麗好きを阻害したら死ぬより辛いってことだよね?」

「ま、そうなりますね。」


口にされるだけでも死にたくなるほど嫌なんですけど?


なんでそんな邪魔する気満々って顔するんでしょうか?


寧ろ、干渉し合わなければ家の中は清潔。


あなたは新しい楽しみでもみつければいいってだけのことなのに、


「ゲームオーバーまでお世話になります。」


もうここはあれだ。

どんな阻害を受けようが徹底的に綺麗にするしかない。


そう思って首を掴まれたままぺこりと頭だけ下げると、


「待て。なんか、いいように乗せられた気がするんだけど?」

「気のせいですよ。それよりお茶にしましょう。あとこの世界についても色々と教えてくれませんか?」


あれ?と小首を傾げていた彼を前に、あたしはにこやかなまま掴まれていた首から手を外し、そのままリビングへと引いていた。


また面倒臭い理由で怒鳴られても困るし、せっかく助かった命を無駄にする気もない。


「そういえばあなたの名前、まだ聞いてませんでしたね。」

「名前?そんなもんないよ。ご主人様ってここでは呼ばれてるけど。」


外でもいろんな呼び方はされてるよ、と言われてしまうと目をパチクリとしてしまう。


名前がない人がこの世界には普通に存在するのだろうか?


それは困るな。

ていうかこの人をご主人様とか呼びたくない。


一番の理由はそこだ。


メイドの格好してるけどあたしはバリバリの現代っ子なんですよ。


そんなコスプレに合わせた呼び方とか嫌ですよ絶対。恥ずかしいわ。


中二病をこじらせた学生じゃないんですよ。


「それならあたしが名前をつけてもよろしいでしょうか?」

「別にいいけど。なんでそんな名前にこだわるかな。」

「呼べないのは困りますからね。」


ソファまで誘導して、お茶を入れなおしながらあたしは名前を考えていた。


つけてもいい許可はもらったものの、まったく名前候補なんて考えてなかったから。


うーん、どうしよう。

ポチとかクロとか?


ペットの名前じゃねえかと怒られるだろうか?


考えてみればあたしにセンスなんてないんだったわ。


物は試しで色々言ってみる?


なんて考えつつ茶葉の缶をあけて、ふと思い出したのが…、


「じゃあ、リキ。」


昔、お母さんが飼っていたという黒猫の名前。


これならペットみたいとは思われないだろうし、あたしのセンスがどうとかでもない。


潔癖症ゆえに、お母さんの動物好きに合わせてペットを飼えたことなんてなかったんだけど、


毛が抜けるとか、トイレを部屋に放置とかそんなことはないから彼なら大丈夫だろう。


人間だし、清潔にさえしていれば問題なく触れるし。


うん、大丈夫。


そんな思いで紅茶を出しながら言えば、


「別になんでもいい。」


彼こと、リキはあたしの出したお茶に口をつけながらどことなく疲れた顔で素っ気なく了承してくれた。


ここが異世界なのかどうなのか、転生したのかそれとも違うのか。


わからないことだらけだし、なんか殺すとか普通に言われる世界みたいなんだけど、


取り敢えず働き口を見つけられたのでよしとしよう。


「てことで僕は寝る。」

「え?話しは??」

「お前のせいで疲れた。寝る。」

「じゃあちゃんと歯磨きしてください!それから食材買いに行きたいのでお金ください!!!お店の場所も教えて欲しいです!ていうかベットのシーツとか洗ってますか?!」

「〜〜〜っあーーー!!!うるさいな?!ほんとうにいちいちうるさい!!!僕がどこで寝ようが、なにしようが勝手だろうが?!」

「だってそういうゲームじゃないですか。」


乗りましたよね?構い倒していいんですよね?綺麗にさせてもらいますから、という目で見つめると、


リキは顔を青ざめさせて口元を引きつらせていらっしゃった。


いやね、こちらとしても干渉したくてしてるわけではないんですよ。


あなたがとてつもなく不潔で、だらしがないから気になって仕方がないんですよ。


なのでしばらくはどうしても構ってしまいそうです、すみません。


「歯ブラシどこにありますか?歯磨きしてる間にベットメイキングしますから寝るのちょっと待っててください!!!!」

「うっっっぜえ!!!お前ほんとうぜえ!!!睡眠まで邪魔すんじゃねえよ?!殺す気か?!」

「酷いクマして当たり前に徹夜してますみたいな風貌の人がなに言ってるんですか。小一時間くらい我慢してください。」

「嫌だ!!!寝るっつったら寝る!!!もういい!床で寝てやる!!!」

「あ、そこは先ほど綺麗にしたのでどうぞどうぞ。掛け布団いりますか?」

「〜〜〜〜〜っっっ寧ろ!床で寝かせるなよ?!僕はお前のご主人様になったんだぞ?!雇ってんの僕なんだぞ!!!」

「あ、床によだれとか垂らさないでくださいね。掃除のし直しになりますから。」

「聞けよ?!」


いい大人がなんだってこんなにやんちゃ坊主丸出しな性格してるんだろうか?


取り敢えず、異世界生活ってやつは…、



なかなかにハードそうです。