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中村鏡とクック25cm望遠鏡

2020.08.12 11:56

一戸直蔵氏

 「月」は、1909年(明治42)、天文学者一戸直蔵氏(1878-1920)が、月について書いた日本初の啓蒙書です。専門家が、大衆に向けて科学書を書くということがなかった時代の著作です。「月と地球」、「月の運動」、「月世界探検」、「月の地球に及ぼす影響」、「地球と月の歴史」が内容です。各章の扉には、漢詩や古文などが散りばめられ、著者の趣味が色濃く出ています。

 私が入手したのは、1929年(昭和4)増訂二版です。文体の古さからか、とても読みづらいのが正直なところです。

 上は、巻末に折り込まれている月面図です。地図に書き込まれている地形は、かなり限られています。

 「月」もさる事ながら、興味深かったのが、一戸直蔵氏の生涯でした。

 一戸直蔵氏は、1878年(明治11)、本州の最北津軽半島西部に生まれました。生家は、地元では比較的裕福だったようですが、父親の学問に対する理解は乏しかったようです。そのため、家出をし、進学の夢を果たします。東京でも自力で突き進み、東京帝国大学に入ります。星学科に進んだのは、学生が少なく、教授等から厚遇が得られるためでした。

 入学後も、一戸直蔵氏の猪突猛進は続きます。結婚相手の実家の援助を受け、私費でアメリカ留学(ヤーキス天文台)をします。上司ではなく政治家の伝手を頼り、私設天文台実現のため、台湾新高山天文台調査登山をします。若手研究者を束ね、東京天文台三鷹移転計画反対運動を起こします。ぶつかるぶつかる。ついには、東京天文台長寺尾寿氏から罷免されてしまいます。

 東京天文台を去った後は、出版業を営み、「現代之科学」を発行します。しかし、これもやがて立ち行かなくなります。最期は病が篤くなり、「人生の最後はコンナものだ。」と呟きつつ、43歳で世を去りました。

 あまりにも激しい一戸直蔵氏の生涯の故か、「月」を読み進めようという気力が、萎えてしまう自分でした。

(参考文献)

高橋実,月面ガイドブック,誠文堂新光社,1974

月,一戸直蔵,大鐙閣,1929

中山茂,一戸直蔵,リブロポート,1989