25/7/15 ユンギ
2020.08.14 06:18
「ユンギ」
リビングへ入るやいなや、ピアノの前に座った。
汗を拭う暇もなかった。
汗で粘つく手をTシャツで拭った。
母が楽譜を広げた。うまく楽譜が見えなかった。
目がチカチカした。
今まで照りつける太陽の下を走っていたのだ。
心臓がドキドキして、自分の息遣いもよく聞こえない。
汗が背中を伝って腰に溜まっている。
指はずっと震えていた。
「ミン ユンギ」
母はその一言で、俺を現実に引き戻した。
「ショパンすらまともに弾けないのに。今の時点で作曲をするとでも?」
母が楽譜をパタパタとさせながらそう言った。
俺は今まで何をしていたんだ?
よく思い出せなかった。
「初めからもう一度。」
母が低い声で言った。
もう一度。もう一度。もう一度。
同じページを開いて、また弾いた。
まだ火照ったままの身体から、しきりに汗が流れている。
頭がぼんやりして、吐き気がする。
だからだったのかもしれない。
俺は楽譜も、母も無視して、自分の中で生まれたものと一緒に、感情を乗せて指を動かした。
母が俺の手を掴んで、鍵盤から離して言った。
「これはそういう風に弾くものじゃないの!」
「どうか俺のことはほっといてください、母さん!」
俺は急に椅子から立ち上がり、叫んだ。
母が凍りついたように俺を見つめている。
もう少し。もう少しだ。
俺は何も言わず、息を吐いた。
素早く席を立とうとすると、頭を掴まれた。
母は、最後にはピアノに向かってトロフィーを放り投げた。
鍵盤は一つ残らず壊れて、弾け飛び、俺の頬を掠めていった。