定家家隆両卿撰歌合 廿三番 左
はなすすき 草のたもとも 朽果てぬ なれて別れし 秋をこふとて
●訳
花薄の袂も朽ち果ててしまった。
馴染んだあと別れた秋を恋い慕うというので。
●語句など解説
・はなすすき 穂の出た薄(すすき)
・草のたもと 薄の穂を袂に見立た。本歌から取った語。
・朽果てぬ 薄の穂が枯れ果てたことを、袂が涙で朽ち果てることになぞらえている。
草のはに くらせる宵の きりぎりす あきかぜ吹きぬ ねんかたやなき
●訳
草の葉の下で暮らしている宵のこおろぎよ。
秋風が吹いてきた。(お前も)寝る場所がないのか。
●解説
前半は、そのまま読んでも意味や情景がわかりやすい和歌ですね。
でも、最後の「ねんかたやなき」の部分は訳せましたか?
平仮名だけで表記されると、イマイチなにを伝えられているのかわかりませんよね。でも、古文の場合、品詞を考えると案外その謎が解けたりするんです。
私は、この部分は、「ね」「ん」「かた」「や」「なき」と区切ってみました。
「ね」動詞「寝(ぬ)」の未然形の平仮名表記。
「ん」助動詞「む」の連体形。(こおろぎに語り掛けている形なので、こおろぎの気持ちなどを「仮定」していると考えられる。)
「かた」和歌の最初で、「草の葉の下」という場所を指していることから、素直に「場所」という訳を用いてみました。
「や」最後の「なし」が、形容詞ク活用の連体形であることから、係助詞とわかります。「や」は疑問や反語を表す係助詞です。
「なき」すぐ上にある「や」が、形容詞「なし」を連体形にしています。
これらのことを踏まえて「寝る場所がないのか?」という訳としましたが、これを読んだ皆さんはどう訳したでしょうか。
古典では、当時の人々が、当時使われていた言葉を用いて、気持ちを乗せて書いたり詠んだりしたものを無理矢理私たちが解釈しているにすぎないので、正直なところ、解り辛い部分や、訳者によって解釈が全然異なる部分が多いものです。
私の解釈が絶対正しいなんてことはありえませんし、担任の先生が全く違った解釈をしていて、それが正しいかと言われたら、そんなこともありません。
自分なりの解釈をして楽しむのもまた一興です。
ぜひ、古典の世界に浸ってみてくださいね。