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Angler's lullaby

For sleepers

2020.08.15 14:00
ひどい豪雨が終わり、梅雨が明けたら今度はとんでもない暑さ。


いや、ホントに、暑いじゃ済まされないくらい暑いですね。


こんな時季はなんてったって源流。


やっぱりどんなに低くてもスタートフィッシングで標高500mは欲しい。そんで1000m近くまで登ることが出来れば、きっとハイランドの神さびた風に出会える。

(ちなみに宮崎では標高100mくらいから在来のヤマメはいます。)


この日も後輩くんのジムニーに乗せてもらい、デコボコ林道を1時間近くガタゴトさせてやっとたどり着いた源流。


盛夏になったら行こうと決めていた場所。


日当たりは全然良くなくって、朝一は随分と暗いが、お陰で下界のうだるような暑さはここには全くない。


全身がキュッとする位冷えた水の中を歩きながら時間が経ち、やがて太陽が川面を照らし始めると、森と水には一気に光が宿り、まるで天国のような美しさを放つ。


もちろん、流れは細々としていて、ヤマメは本流や渓流のよりも一回り小さい。


だけど、それを補ってあまりある水や景色、そしてヤマメの美しさは僕を惹きつけてやまない。


そして、こんなとんでもない山奥に時折姿を見せる古い古い石垣や割れた陶器やビール瓶。


それらは昔、日本人の営みがそこにあったことを表している。そして、それをイメージしようとする僕がいる。


実は、8月は父方の祖父の命日がある月だ。


昭和20年8月9日、祖父が長崎市で経営していた会社があった場所は、ほぼ原爆の爆心地だったらしい。爆弾投下後に親族が遺品を探し回ったらしいが、結局何一つ見つからなかったとのこと。


当然僕は祖父に会ったこともなく、遺影でしかその姿を知らない。


祖父が原爆で亡くなっていたことは、やっぱりとてもショックなことで、小さい頃からずっと、一度も会ったことのない彼のことが気になっていた。


もし生きていてくれてたら、当時敵国であったろう欧米から来たルアーフィッシングや、アメリカの音楽であるジャズに傾倒している孫を見て、どう思うかなあ、とか。


世界中でコロナが猛威をふるっていて、毎年九州の、日本のどこかで豪雨災害が発生して、多くの人たちが辛い目に合ってるのを見たら、どう感じるだろう、とか。


今でも色々考える。



太古の痕跡以外、全く人のにおいがしない源流は、清らかで、神秘的で、すぐ近くまで鹿やウリボウを連れたイノシシが現れたり、山の稜線から吹き下ろす風が瞬間、心の濁りを洗いざらい持って行ってくれたりもする。



和魂洋才って、言葉があるでしょう。


こんな僕ですけど、やっぱり心身ともに生粋の日本人です。あなたの孫だ。


あの頃に比べたら、とんでもなく豊かに、便利になった世の中ですけど、何がいいかっていうのはいまだによく分からないですね。


だけど少なくとも、こうやって魚釣りさせてもらっている時間、僕はとても幸せです。


もし祖父が生きていたら、戦争のことを話してくれる機会があったら、男として何て言っただろう。


長年考え続けてきたこと。


ある時思った。もしかしたら勝手な解釈かもしれないけど、それは多分こんな感じだ。


「戦争が起きるのはやむを得ないこともある。こっちにその気がなくても相手が攻めてくるかもしれないんだから。」


「ただ、負け戦だけはしちゃいけない。そうならないように知恵を出し、勇気を持って行動しなきゃいけない。」



この日も後輩くんのお陰で、こんな美しいヤマメに出会えた。


妙に楽しくて、いつになくテンションが上がっていたこの日。8月13日。


もしかしたらじいちゃんが僕の傍にいてくれたのかもしれない。


最後の最後、釣れてくれた図太い黒点のヤマメは、きっとこの森に息づく精霊。


しつこく粘る僕にキャッチアンドリリースを条件に渋々姿を見せてくれたのだろう。


そして今日は75回目の終戦記念日。8月15日。


今年こそは長崎に墓参りに行こうと思ってたけど、コロナでそれもかなわなくなった。


こんな日は、せめてきっと、安らかに眠られている方々を想いながら、こんなに豊かで平和な時代を過ごさせてもらっていることに感謝しようと思う。