#069.「息」という言葉について
はじめに誤解のないようにお伝えしておきますが、今回お話することは私自身の考えにブレがないように心がけていることであり、他の方の考えを否定するつもりはありません。ひとつの考え方として読んでくださればと思います。
「息」という言葉について
トランペットを演奏していても、レッスンしていても「息」という言葉をたくさん耳にします。
「もっと息を入れて」
「息で支える」
「息のスピードをコントロールする」
しかし、私はレッスンの時に「息」という言葉を極力使わないようにしています。それはなぜか。
我々が日常で使う「息」という言葉にはどのようなものがあるでしょうか。
「息を吹きかける」
「(寒くて)息が白い」
他にも、
「息をはずませる」
「息を切らせる」
「息が合う」
など慣用句などもたくさんあります。
ところで、こうした「息」を使った言葉の多くは抽象的、文学的と思いませんか?
また、「息」がどこの部分を指しているかと質問したら、もしくは「息をイラストにしてください」とお願いしたら、きっと多くの方が「口から放出された空気の流れ」を連想すると思いますす。
トランペットにおける「息」
話をトランペットに戻します。
トランペットは唇から空気を放出させたり、トランペットの管の中に息を吹き込むことで音を出すわけではありません。そのようなイメージを持ってしまうとかえって音が出ません。
このブログでも以前解説したように、トランペットから音が出る=唇が振動するには、体内の空気をどのように扱うのかが重要で、具体的には「体内の空気圧」が必要なのです。
「息」という単語はどうしても「体外へ放出する運動」と連想してしまうために本来必要な「体内の空気圧」にたどり着きにくいのです。
本当にちょっとしたことではありますが、そのちょっとが演奏バランスの軸を乱してしまう可能性があると考えると、レッスンで「息」は迂闊に使えないな、と考えている、ということなのです。
もちろん、「息」という言葉を使ったら上手な演奏ができないとか上達しないなんてことはありません。正しい知識を持ち、結果的に良い方向性で演奏ができれいれば、どんな言葉を使おうが関係ないのですが、私が危惧しているのは、吹奏楽部など大勢にレッスンをする際、「息」という言葉の影響で正しい演奏というレールから外れてしまう人が出る可能性がある、という点なのです。
個人レッスンであっても大勢の生徒さんにレッスンをしていたら同じですね。
「息」は、そんなリスクを冒してまで使う言葉でもないと思います。それだったら勘違いされにくい「空気圧」という具体的な表現のほうが良いです。
「もっと息を入れて※」→「目指す音が十分に響く空気圧を見つけて」
「息で支える」→「音がブレない一定の空気圧を用意する」
「息のスピードをコントロールする」→「空気圧(の強さ)をコントロールする」
このように「空気圧」を使うと、「では、そういった空気圧を用意するにはどうしたら良いか」と話が繋がってきます。しかし「息」だと、方法に具体性がなく、憶測や予想でわからないことを埋めてしまいかねません。
そのような根拠のない方程式を勝手に作り上げると、そこに「都市伝説」が生まれます。都市伝説は誰かに広めてしまった時点で伝言ゲームが始まり、進化したり変化したりと大変厄介な存在になり得るものです。こうなってしまうといろいろ面倒ですので、正しく根拠のある知識と方法で練習を進めていくことが大切です。
(※ちなみに「もっと息を入れて」というのは根本的に間違っていますので、そもそもの考え方から修正する必要があります。)
今回は「息」という単語について書きましたが、同じようにちょっとした単語の違いが誤解を生んでしまうのはよくあることですから、レッスンをする側は特に意識して言葉を選ぶことも大切だと考えています。
ということで今回はここまで。
それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
[明日締め切り!]トランペットオンライン講習会9月20日は「リップトリルとヴィブラート」がテーマです。
トランペットから音を出さない聴講型のオンライン講習会ですからご自宅でもご参加可能です。次回は「リップトリルとヴィブラート」がテーマです。
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