日用品×デジタルコンテンツが次の時代を切り開く
前回の記事では「TALKY」のクリエイションのスタイルについて掲載したが、今回は「TALKY」に2.5Dのプロデューサーである比留間太一さんを加え、4人体制で立ち上げた「PEOPLEAP」(ピープリープ)というマルチメディアプロジェクトについて紹介したいと思う。
異なったフィールドで活躍する4人のクリエイターを集め、チームを作り「日用品」を制作する。「日用品」に落とし込むことによって、アートをより身近な形にし、より多くの人に届けるというものだ。
「マルチメディアプロジェクト」って何? と言いたいところだが、第1回目に発表された「7inch -PLATE」について話せばわかりやすいと思う。
「7inch-PLATE」は、7inchレコードに見立てた食器として使えるプレート。 1枚のプレートを「ミュージシャン」「グラフィックデザイナー」「映像作家」「イラストレーター」が集結し制作するというもの。イラストレーターがテーマに沿ったイラストを提供、グラフィックデザイナーがプレートとパッケージをデザインする。さらにミュージシャンが楽曲を制作し、映像作家はMVを制作。プレートの裏面に記されたQRコードを読み込むと音楽とMVを楽しめるという、日用品×デジタルコンテンツを組み合わせたなんとも贅沢なプロダクトだ。
本来出会わない人をつなげて生まれるクリエイティブ
プロジェクトの進め方は最初の打ち合わせだけメンバーが立ち会い、あとはチームごとに制作をしてもらう。そこで関わる4人のクリエーターは友達NGの全員初対面。予測不能なコラボレーションで創出されるクリエイティブが最終的に形になるまで分からないのが醍醐味だ。
「一緒に組む人のパワーによって化学反応が起きるように、わざとカオスを作っています。そのカオスがもの作りする上で楽しくなる部分だと思うんです。結局仲間内だけでやると良くも悪くも仲間内止まりなんですよね。
今の時代、SNSによって自分の興味持っている人だったら、自分でコンタクトとってクリエイションができちゃいますよね。バンドやクラブシーンなんか最たるものだと思うんですけど、若い子たちは仲間と組んで、自分たちでシーンを作り上げていったりするじゃないですか。
彼らは放っておいても勝手にやりたい人とやりたいことをやるし、自分たちの周りで友達と一緒に成功してる。それはもちろん良いことだと思うんですけど、それを30代の俺らがやっても意味がないよね、と。おっさんだし(笑)。
だったら普通では出会わなかった人たちを出会わせて、そこから何が生まれるかを挑戦させるのが面白いなと。
PEOPLEAPっていう名前も、PEOPLE×LEAPの造語で『チームを超えた、知らないところにまで、どんどん飛び火していくプロジェクト』という意味で付けていて。今後も面識のない人同士が何かの共通点をキッカケに集まり、気持ちのよいカオスの中で『じゃあ面白いこと一緒にやろうぜ』っていう感じにしたいですね」
意図的に自分たちが作ったカオスによって生まれる「想像できないもの」に対してわくわくしているようだったが、これも経験値のある30代だからできること。
安全パイに走りがちなところをクリエイターに自由に制作をしてもらうために、あえて自分たちは一歩引いたところから見るという姿勢を取っているという。
「今まで知らなかった作家と出会える接点を、違う形で作れたらいいなとも考えていて。例えば、気鋭のミュージシャンとかイケてる新譜ってレコードをディグってる人しか知れないわけじゃないですか。それがレコードじゃなくて、日用品として、食卓とかの日常生活の中に音楽を忍び込ますことができれば、普段とは違う購買層にたどりつくはずなんですよ。
『7inch -PLATE』は、2800円という安さと可愛さで、気軽にだれかにプレゼントしたくなるようなものにもしたかったんです。だれかにプレゼントしたときに『何だこれ?』ってなるようにしたかったんですよね。だからこの値段でこのコンテンツがいっぱい入ってるんです」
それぞれの分野で名前が知れているクリエイターでメンバー構成されているのだが、お皿を買えるような売り場やミュージアムショップのような場所で全員名前が通ってるかと言えばそうじゃない。特定のだれかのためだけに作るのではなく、今までそういったアートやカルチャーに興味がなかった人たちに、音楽か、映像か、デザインか、イラストかを何かしらの接点で気付かせるというのがこのプロジェクトのキモ。
作る段階でもそうだが、実際にリリースしたあと、このプレートを知り、使う場面での『飛び火』も考えられているのだ。
これからは違和感のあるコンテンツが残る
第一弾では「7inch -PLATE」をリリースしたが、今後は陶器にかかわらず、日用品に落とし込んだものを発表していくという。
「日常のなかにある『当たり前となって意識して見てもいないモノ』にフォーカスしてコンテンツをブッこみたいなというのがPEOPLEAPが一番やりたいことなんですよね。日常にあって見過ごしてるようなモノも、コンテンツをブッこめばかっこよくなりそうなものっていっぱいあると思うんです。これって視点を変えて考えるとPRの新しい形でもあって、意識して見てもいない日用品にコンテンツを組み合わせることで、きっと新しい導線ができると思うんです。
第一弾の「7inch -PLATE」でいうと波佐見焼の窯元、パッケージ屋、生産者、企画者、クリエイター、全員が全員のPRをし合っているんです。そうでもしないと今後物作りとか、なにもできなくなっちゃうんじゃないかという危機感を持っていて。
自分たちが伝えていきたいカルチャーや好きなものもどんどん忘れられていってしまう。
全部検索したら出てくるような環境に加え、さらにAIの進化を考えると、きっとこの先記憶するような行為自体もいらなくなっちゃうんですよ。
第一弾のお皿の裏にはQRコードと参加したみんなの名前があるんですけど、お皿って使ったら、洗って裏返して乾かしますよね。そうすると毎日いやでも目に入る。否が応でも記憶として意識に刷り込まれていくんです。
そういう風にしてアーティストの名前を覚えてもらうとか、検索してもらうキッカケを作るっていうのが今回のプロジェクトの狙いですね」
日用品として制作するにあたり、すぐに消費されず、何年も先を見据えたものづくりを行っている彼ら。これからのデザインについては、どう考えているのだろう。
「このプロジェクトって、10年経ったら面白いと思うんですよね。例えば、10年後の蚤の市にこれが出てきたときに『真ん中に穴空いてんのにどうやって使うの?』って思うだろうなと。けど、そういう風に頭を悩ませるのが面白い時代が必ずやってくる。『どうやって使うか考えたい』っていう時代。使いやすいものとか気持ちいいものとかは、全部AIがやってくれると思うんですよ。
そうしたなかで僕らのやるべきことって『ちょっと居心地が悪いけど可愛い』とか、『ちょっとした違和感』があるものが残るんじゃないかなと。
デザインに関しても、ちょっとしたギミックを入れたものを作ることによって、コンテンツが生かされる。そうすることで、今後も残っていくものになるんじゃないかな? だから『日常に溶け込まないもの』『目につくもの』を生み出してる」
「あとは海外への発信も意識していますね。日本の伝統の波佐見焼を使用して、パッケージも長崎の岩崎紙器。集めてるクリエイターも日本人。あとは、日本の陶器って青のイメージがあると思うので、プレートもパッケージも青と白の二色。これって日本発のプロジェクトだよねって自負してます。そもそも国内だけを見つめていても人口は減ってきているしシュリンクしてしまう。そうするなかで広がるやり方を考えたら必然ですよね。
もうひとつ、例えばミュージシャンが海外のレーベルに音源送っても入り口のハードルが高いんですよ。でもそれが日用品になって届いたときに、海外進出を夢みてるアーティストの力になるんじゃないかって。以前から日本のアーティストに、海外へ展開するためにはどうすればいいかと相談を受けることが多かったんです。移住するといっても英語は苦手と言われて、ハイ終わりじゃなくって(笑)。何か別の方法はないのかなって考えていたんです」
クリエイションの醍醐味を大切にして、それを「どうやったらたくさんの人たちに知ってもらうことができるのか?」「どうやったら残していけるのか?」を実験的に行っているのが「PEOPLEAP」なのだ。
「『PEOPLEAP』って最初に『Nice to meet you. This is the nosy gift project.』って書いてあるんですけど、お節介なギフトって意味なんですけど、僕らはすごくお節介なんです(笑)」
自分たちが影響を受けてきたカルチャーを死に絶えさせないために、遊ぶような気持ちで、それでいて本気で向き合った挑戦をしている30代。背筋が伸びる思いを感じると共に、これから彼らがどんな新しいものを生み出していくのか楽しみで仕方がなかった。
30代の本気の遊び、ハンパねえっす!
photographer : 花房 遼 / Ryo Hanabusa