🌸ブログで読む『ただいま大須商店街⑧』~佐藤さんとキャベツ畑~ 2021.11.03 12:20 「親父さんは…お前が出て行ってから…一日も休んだことが無いんだぞ!」大輔の声が頭の中でこだまする。 大輔「右腕だった佐藤さんが辞めてから、一人でこの「まつだ屋」を守ってきたのが仇になったなぁ…」🌸前回のお話🌸 🌸ブログで読む『ただいま大須商店街⑦-後編-』~転機~ 広大な大地、一面に広がるキャベツ畑。澄み切った青空を…柔らかな雲がうっすらと包む。太陽に照らされたキャベツたちがきらきらと輝いています。 久美子「あの…?すいません?」男性「はい…!?」 戸惑い気味に頭を下げた久美子。 久美子の後ろの、軽トラックの荷台には…箱詰めされたキャベツがいっぱいに積まれていました。 佐藤さん「そうでしたか…」久美子「・・・」佐藤さん「大変ですね…」久美子「・・・」佐藤さん「それにしてもよくここが、分かりましたね…?」久美子「…商店街の人に聞いて回りました。」佐藤さん「・・・」久美子「私…。自分でも自分のことがよく分からないんです。」佐藤さん「・・・」久美子「父の事も…。父の作るお饅頭も、大嫌いだったはずなのに…」 久美子「このまま何もしなくていいのかなぁって…」佐藤さん「・・・」 久美子「父は…私が家を出てから…。一度も店を休んだ事がないんだそうです。」佐藤さん「・・・」久美子「和菓子の種類を減らしてまで…父は店を開ける事にこだわった。」佐藤さん「・・・」久美子「何でだろうって…」 久美子「佐藤さん?」 佐藤さん「…?」久美子「店を開けるの…手伝って貰えませんか?」佐藤さん「………」 長い沈黙の後、佐藤さんは立ちあがりました。 荷車に積まれたキャベツを手に取った佐藤さん。 佐藤さん「久美子さん。これ…食べてみて下さい。」久美子「…?」恐る恐る、手を伸ばす久美子。 久美子「美味しい…!」 佐藤さんは、恥ずかしそうに何度も頷きました。 佐藤さん「キャベツは土作りで、味が変わります。この味になるのに…10年…、掛かりました。」久美子「・・・」 佐藤さん「親方はよく言ってました。『職人が自分の仕事に嘘つくな』…」久美子「・・・」佐藤さん「『仕事に嘘ついたら終わりだ』って…」 佐藤さん「親方の職人としての信念は…今でも、尊敬しています。」久美子「・・・」 佐藤さん「「まつだ屋」の饅頭は…親方のこし餡があってこそなんです。」 久美子「・・・」佐藤さん「私が作ったら…親方、裏切ることになります。」 久美子「…分かりました。」 立ち上がる、久美子。そして、佐藤さんに向かってゆっくりと頭を下げました。 佐藤さん「久美子さん!」 久美子「…?」 佐藤さん「親方が、和菓子の種類を減らしてまで店を閉めなかった理由…」久美子「・・・?」佐藤さん「私、こう思います。」久美子「・・・」佐藤さん「親方はね…女将さんが亡くなった頃から饅頭と、どら焼き以外の菓子を作らなくなりました。」久美子「・・・」佐藤さん「特に、生菓子は…女将さんが発案したものが殆どで…。」久美子「・・・」佐藤さん「辛かったんでしょうね…」久美子「でも、父は…あの日も、病院には来なかった。」 佐藤さん「行かなかったんじゃない。行けなかったんです。」久美子「…!?」佐藤さん「あの時はちょうど…。年末の忙しい時期で…。」 佐藤さん「女将さんから…(私のお見舞いに来る時間があれば、まつだ屋の看板仕事をしっかりやって下さいね。)って…。」久美子「・・・」佐藤さん「あなたの味を待っている人が、たくさんいるからって言われてたんです。」久美子「・・・」 久美子「でも、だからって…!」佐藤さん「親方…。一回だけ夜中にこっそり会いに行ったんです。」久美子「…えっ!?」佐藤さん「そうしたら女将さんに、(私は元気になるから大丈夫!まつだ屋をしっかり守って下さい!)って反対に叱られたって…。」 久美子「知らなかった…」 佐藤さん「親方は、女将さんを、とっても愛していらっしゃいましたよ。」久美子「・・・」佐藤さん「そして、大須の街も…」久美子「・・・」佐藤さん「まつだ屋の饅頭も…」久美子「・・・」 佐藤さん「親方が饅頭を作り続けるのは、女将さんへの弔いの意味があるんじゃないでしょうか…?」久美子「・・・」 久美子「佐藤さん…!ありがとうございます!」 佐藤さん「・・・(笑)」 久美子「・・・」 久美子「・・・」