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レイフロ@台本師&声劇民☮

晩夏にひそむは泡沫の朱(2人台本)

2020.09.13 11:39

晩夏にひそむは泡沫の朱

(ばんかにひそむは うたかたのしゅ)


【ジャンル:シリアス/恋愛】

【所要時間:15〜20分程度】


●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。

●ご使用の際は、利用規約をご一読下さい。


【人物紹介】

クマ♂

黒づくめの青年。


リンゴ♀

朱色の似合う少女。





↓生声劇等でご使用の際の張り付け用

――――――――

晩夏にひそむは泡沫の朱

作:レイフロ

クマ♂:

リンゴ♀:

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/9753257

――――――――






※台本の前半は、それぞれ役名が「青年」「少女」と表記されています。


以下、台本です。

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青年N:

この物語は、

ただただ鈍感な僕と、

何処にも行けない彼女が

其処(そこ)にいるだけのお話。

何も起きやしない。

たったひと夏の想い出。



少女:(驚く)

ひゃっ!


青年:

おっとごめんよ。驚かせるつもりはなかったんだけど…。


少女:

急に現れるんだもの。心臓に悪いわ。


青年:

君の心臓はとても小さそうだね。


少女:

そうかもしれない。


青年:

僕が怖くないの?


少女:

黒づくめ、という点ではクマかと思ったわ!

前にテレビで見たことがあるの。ツキノワグマって言ったかしら?真っ黒で大きくてガオーって!

だから一瞬怖かった。


青年:

一瞬だけ?


少女:

だって、本物のクマに比べれば全然怖くないもの。


青年:

まぁ、そうかもしれないけど…。


少女:

それにあなた、この家の前をよく通ってるでしょ?


青年:

え…?


少女:

私、外を見るくらいしかやることがないから。

ここは通り道なの?いつもどこへ行くの?


青年:

どこへって…。まぁ、色々だよ。


少女:

色々かぁ。いいなぁ。


青年:

何が?


少女:

色々行けていいなって。

私は、此処(ここ)が世界の全てだから。


青年:

確かに君は不自由そうではあるね…

あ、ごめん、無神経なこと言ったね…。


少女:

いいの。気にしないで。


青年:(ボソッと)

…でも綺麗だ。


少女:

え?


青年:

なんでもないよ!


少女:

…?変なの!


青年:

そう、かもね。

君こそ、こんなところでなにしてるの?


少女:

縁側(えんがわ)に出る理由なんて一つだわ。

ひなたぼっこよ。


青年:

ふーん。


少女:

あっ、ママが来る!早く行って!

貴方と話していることが見つかったら、私、もう縁側にすら出られなくなっちゃうの。


青年:

え?それは大変だ!じゃあ僕は行くよ。


少女:

お話出来てよかった。もしまたここを通ることがあったら…


青年:

知ってるだろ?僕はこの家の前をよく通るよ。


少女:

そうね。またお話したいわ。

えっと…クマさん!


青年:

いや、僕クマじゃないんだけど…


少女: 

あ!早く行って!ママが来る!



青年N:

僕は追い出されるようにその場を離れた。

とっさに、偶然通りがかったフリをしてしまったが、彼女が時折、縁側に出ていることは前から知っていた。

物珍しさから、もう少し近くで彼女を見てみたいと思ってしまった。

そうしたら、思わぬ会話が生まれてしまった。

彼女は、赤色よりも少し柔らかい朱色(しゅいろ)をまとっていた。

とても弱々しくて、フワフワした少女だと思った。






少女N:

数日後。






青年:

またひなたぼっこかい?


少女:

クマさん!


クマ:

まぁ今日も黒づくめだけどさ、「クマさん」で定着しちゃったかぁ。


少女:

ふふ。第一印象がニックネームになるなんてよくあることよ。


クマ:

じゃあ僕も君のニックネームを決めていいかな?


少女:

もちろん!


クマ:

…リンゴ、かな。


リンゴ:

リンゴ?

…ふふ、私の姿を見て決めたのね?結構安直なのね。


クマ:

ぴったりかなと思ったけど…ダメだった?


リンゴ:

ううん、とっても可愛い呼び名だわ!


クマN:

そういって彼女はその場でクルンと回って見せた。ヒラリと朱色(しゅいろ)の裾が揺れる。


クマ:

今日は、ママさんはいないの?


リンゴ:

きっとお昼寝してるから少しの間なら大丈夫よ!ねぇ、お外の話を聞かせて!



クマN:

リンゴは、日差しが穏やかな日に、時折ママさんに連れられて縁側に出てくることしか出来ない。

僕は、最近あった何でもない出来事を話して聞かせた。


リンゴ:

へぇ、そんなことがあったの!ふふふ、楽しそう。


クマ:

こんなことしょっちゅうだよ。何も珍しくなんてない。


リンゴ:

へぇ。…でも、楽しそうだな!



クマN:

リンゴが笑うたびに、朱色(しゅいろ)の裾がふわふわと揺れる。

僕は代わり映えのしない日常を、面白おかしく話して聞かせるようになっていた。

リンゴとの会話は楽しくて、いつしか親友とも呼べる存在となった。

リンゴが縁側に出ていないか毎日見に行った。

数日出てこないと心配になり、出ていてもママさんが近くに居て近寄れなかったり…ヤキモキすることもあった。




リンゴN:

パパが言うには、ママはとても「世間知らず」だそうだ。

パパは、私を縁側に出すことに反対していた。でもママは「たまにはお日様の光を浴びさせないと」と言い張って聞かなかった。

ママにはとても感謝している。ママが私を縁側に出してくれたおかげでクマさんと友達になることが出来たのだから。






クマ:

リンゴ!


リンゴ:

クマさん!今来てくれないかなって思ってたところよ!


クマ:

たまたま通りかかったらリンゴが縁側に出てたから…


リンゴ:

ふーん?


クマ:

な、なんだよ。たまたまだよっ。


リンゴ:

ふふふ。



クマN:

何でもない日常に、彼女が色を付けてくれた。

ただ暑いだけの夏に、優しくて、柔らかい朱色(しゅいろ)を。







リンゴ:

クマさん!この間クマさんが言っていた珍しい鳥を見たわ!


クマ:

ほんとか?こんな鳴き声だった?

~♪(←適当に口笛を吹いて下さい)


リンゴ:

んー?こんな感じじゃなかったかしら?

スー(←口笛が吹けなくて息が抜ける感じ)


クマ:

ぷっ!リンゴ、口笛吹けないのか?


リンゴ:

ふ、吹けるもん!スー(←吹けない)


クマ: (笑いを堪えながら)

くくっ、うまいうまい…


リンゴ:

あーもう馬鹿にしてー!


クマ:

ははは!



リンゴN:

夏はこんなにも短かっただろうか。あんなに五月蠅かった蝉の鳴き声が、まるで幻だったかのように薄らいでいった。







クマ:

リンゴ、知ってる?もうすぐ近くの小学校で夏祭りがあるんだよ。


リンゴ:

え…、あ、うん。


クマ:

どうしたの?


リンゴ:

ううん、何でもないよ。


クマ:

ここからなら太鼓の音や、花火だって見えるかもしれないね!

…あ、でもママさんはお祭りに行っちゃうのかな?そうしたらリンゴは縁側に出してはもらえないのかな?


リンゴ:

うん、そうかもね…。


クマ:

でもきっと音は聞こえるよ!


リンゴ:(元気なく)

そうだね…。


クマ:

どうかした?最近少し元気がないような気がするけど…


リンゴ:

…。


クマ:

リンゴ?


リンゴ:

クマさんあのね、夏祭りが終わって寒くなってくると私…縁側に出られなくなっちゃうの。


クマ:

そっか…そう、なんだ…。


リンゴ:

うん。去年の冬はずーっとお家の中にいたから。


クマ:

じゃあ…しばらくお別れなのかな。


リンゴ:

……。

クマさん、私が縁側に出てこなくなっても寂しがらないでね?


クマ:

え…?


リンゴ:

クマさんはどこへでも行けるんだよ!

忘れないで。


クマ:

何の話?大げさだよ、春になってまた暖かくなれば…


リンゴ:

ん…、そうだね!

その時はまた沢山お話聞かせてね!


クマ:

もちろん!


リンゴ:

クマさんに会えない日はね、教えてもらった楽しいお話をよく思い出すの。そうすると本当に自分が体験したかのように感じることがあってね?

…こういうのって変かな?


クマ:

何も変じゃないよ。


リンゴ:

ほんと?


クマ:

ホントだよ!


リンゴ: 

いつか…


クマ:(上記セリフとほぼ同タイミングで)

いつか一緒に、色んなところに行けたらいいね。


リンゴ:

そう、だね…。うん、ありがとう!


クマ:

ん?なんで「ありがとう」?


リンゴ:

えへへ、なんでもない!


クマ:

なんだよ、何でも言えよな?

僕たちは『親友』なんだから。


リンゴ:

ん、そうだね。ありがとう、クマさん。


二人:

(一緒に笑いあって下さい)












リンゴN:

夏が終わる。暑い夏が。



クマN:

夏が終わる。僕らが出会った夏が。



リンゴN:

少し前から、息が苦しくなることがあった。



クマN:

リンゴはいつも僕の話を真剣に聞いてくれた。



リンゴN:

私は、「とても弱い」のだと、ママが言っていた。



クマN:

リンゴはいつも笑っていた。



リンゴN:

もっとクマさんのお話を聞きたかった。



クマN:

リンゴはいつも優しかった。







リンゴ:

クマさん、私がいなくなっても寂しがらないでね…?











クマN:

リンゴは、とても弱々しくて、フワフワした存在だった。

赤よりも柔らかい朱色(しゅいろ)が、よく似合っていた。

可愛らしかった。

美しかった。

そしてその弱々しい見た目通り、

あっけなく、

死んでしまった。

夏祭りの数日前だった。


ママさんは、リンゴを手のひらに乗せて、縁側でシクシク泣いていた。

そのすぐ近く、庭の片隅に、パパさんが小さな穴を掘り、リンゴをソッと埋めて手を合わせた。







クマN:

太鼓の音がドンドンと体に響き渡る。

小さな町の夏祭りで、パパさんとママさんが寄り添って歩いているのを見かけた。

二人は、とある屋台の前で足を止めて、こう言った。


「また金魚を飼おうか」


「もうイヤよ、金魚すくいの金魚は、弱いからすぐ死んじゃうんだもの」


と。



ビニールプールの中には、真っ赤な金魚がたくさん泳いでいた。

僕は、その中にリンゴの朱色(しゅいろ)があるような気がしてプールに近づいた。

すると、ねじり鉢巻きをした男が、僕を見つけるなり慌てて立ち上がってこう言った。



「しっしっ!どっか行きやがれ商売の邪魔だ!不吉な黒猫!」 











クマN:

僕は走った。

明るい屋台も、楽しそうな人々の間もすり抜けて、

真っ黒な身体を夜の闇に溶け込ませながら、リンゴを想った。


リンゴ、


リンゴ、


リンゴ…。




視界が揺らいだ。

リンゴが一生涯(いっしょうがい)浸かっていた水が、僕の瞳から溢れているようだった。

こんなにも心臓が苦しいのは、走ったからじゃない。

僕は今頃になってようやく気がついた。



そうか。


僕は、

リンゴに恋をしていたんだ。








End.

―――――――――――――――

~あとがき~

小さな頃、夏祭りで金魚すくいをとてもやりたかったのですが、親がなかなかやらせてくれませんでした。

はっきりとは覚えていませんが、金魚すくいの金魚はすぐ死んじゃうからダメ、というようなことを言われた記憶があります。調べてみると、準備と知識のないまま持ち帰られる金魚の半数は、1週間以内に。季節の温度変化等の理由により、半年から1年で死んでしまう場合が多いそうです。

リンゴの場合は、去年の夏祭りでママさんにすくわれ、それから1年近く生きたことになります。

金魚を日光浴させる、というママさんの奇行(笑)は、生き物を飼ったことがない人がやりがちなハチャメチャな行動を表したかったわけですが、直射日光はよくないですし、ガチで野良猫に持って行かれる可能性があるためwもちろん真似してはいけません。あしからず。