少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口15-
15 お城の庭園
体感にしてものの十数分で、今までに移動したことがないほどの距離を移動したことだけは彩里水にもわかった。
剛速で移動している間にも不思議と、先程穴に落ちる寸前のように自分から体重がなくなったかのように、竜のゴツゴツした鱗の上とは思えないほど快適に過ごした。
竜の背から見える景色は、見渡す限り森や湖などに囲まれ集落がいくつかあるようなのどかな風景だった。途中には空中に虹の架かる滝があったり、遠くには写真で見た7色の雲もあった。
また、彩里水たちがいる場所は真昼の晴天であるのに、7色の雲の見える反対の彼方には夜空に星々が輝いているのが見え、それよりも手前にはユニコーンの大群が空を横断していく姿がみえた。
一生分の夢のような体験をこんなに短い時間でしてしまった、と彩里水と白兎は竜が何処かに着いた後もしばらく夢見心地、放心状態だった。
双子は放心する2人を竜から下ろす。
彩里水たちが着いた先には絵本に出てくるような外国の古城が、現役さながら美しい姿でそびえ立っていた。
その城内にある広大な庭園とおぼしき場所で、彩里水と白兎は縛られたまま風船のように双子に率いられていた。
この世界についてから生物と思しき存在にほとんど出会っていなかった彩里水と白兎だが、この庭園に着くとそこかしこに植わっている樹木も草も花も小さな草食動物も、先程双子に説明された半人半獣、半虫半花など様々な形態で歌い踊りそこら中に溢れて活気づいていた。
庭園の道は美しい石畳で舗装され、その中を風船を持って手を繋ぐ親子のような二足歩行の犬や友人同士のように雑談に時折笑い声を響かせる二足歩行の蛙やトカゲやカメレオン、2人で寄り添い合ってベンチに座る老夫婦のようなバラと百合など、あらゆる姿の生き物が楽しそうに思い思い過ごしている。
様々な花のかぐわしい香りが次々に鼻孔をくすぐったかと思うと、ワゴンで売られている甘い香りのお菓子や香ばしいパンの香り、何やらわからない不思議な飲み物から立ちこめる、目の覚めるようなコーヒーのような香りなど、たくさんのものが彩里水と白兎の感覚を刺激していた。
そしてここを通る間、全ての者たちがこの双子が通り過ぎるときには恭しく傅いて通り過ぎるのを待つ。
そこかしこから
「今日もお美しい。」
「いつも素敵ね。」
などと彼らを褒め称える声が聞こえてくる。
初めて見るものばかりで溢れかえり、行き交う様々な生物を見て、驚嘆や感嘆の声をあげながらも、この自分たちを縛り上げている双子たちが全ての生き物に褒め称えられていることに彩里水は少しだけ違和感を持っていた。
庭園内を十数分歩くと、今度は眼前に荘厳な城が現れる。
風船のように連れられたまま、白兎は双子に言う。
「おいちょっと、オレたちのこと一体どうしようっての?こんなとこ、こんな格好でずっと連れ回して。」
「なんだい?君たち僕らに縛られていること、やっと思い出したんだね。」
「ここへ来るまでの間ずっと興奮して喜んで歓声を上げていたのに、急にそんな冷たい態度になるなんてねえ。」
と双子は2人に出会った時のようなニヤニヤ顔で白兎に言う。
白兎は指摘され、顔を赤くして黙る。
――なんだよっ。確かに全然忘れてたけど。ってかずっと思ってたけど双子だと交互に喋んなきゃいけない決まりでもあんの?
「ふふ。何か言いたそうだね?まあ、楽しんでもらえたならいいんだよ。」
「そうだね、これから君たちを城内にお連れするよ。」
「こんな格好で君たちをお連れするのは僕たちも本意じゃないんだよ?ごめんね。」
「そうそう、でもジタバタと逃げられても面倒だからね。」
「ふふ。でも空の旅は楽しんでくれたみたいだね。」
「そうだね、特に彩里水くんはまだまだ夢見心地みたいだしね。」
不意に自分の名前が聞こえ、周囲のものを物珍しくずっとキョロキョロし続けていた彩里水はやっと、双子と白兎が何か話していたことに気付く。
「え?何?どうしたの?」
「いやおまえ、どんだけ呑気なんだ。」
依然、呑気な声を出す彩里水に3人は堪えきれずプッ吹き出し笑い出す。
「な、なんだよー。」
彩里水は話の内容はわからないが笑われているのは自分だということはわかり、口を尖らせている。白兎は笑いをかみ殺しながら彩里水に答える。
「いや、だから、オレたちのことどうするつもりなんだってこの2人に聞いてたんだよ。」
つづく