ビジネスアスリートであること
池上真之/サクラス株式会社代表取締役/ユーゴスラビア生まれ。新卒外資コンサル卒業後サラリーマン社長経て独立
サクラスの社長池上は、学生によく「ビジネスアスリートのチームを作りたい」と語っている。「ビジネスアスリート」なるものが果たしてどのような存在であるのか、社長本人に私古賀がインタビューをした。
そこから見えてきたのは、ビジネスにおけるプロとして最大限のパフォーマンスを追求し続けることの大切さだった。
―池上さんはよく、ビジネスアスリートのチームを作りたいと仰っています。池上さんにとって、ビジネスアスリートとはどのような存在でしょうか。
ビジネスアスリートというのは、私が勝手に言っている言葉なのですが、プロのビジネスマンの事をそう呼んでいます。会社員でもフリーランスでも、スポーツ選手と同じように、プロとしてお金を貰っている以上は最高のパフォーマンスで顧客に価値を提供すべきだと思っています。
―なるほど、プロの精神を持って仕事をする人をビジネスアスリートと呼んでいるのですね。
学生さんにとっては、会社で働くということはまだあまりイメージしづらいと思うのですが、プロ野球選手やサッカー選手に喩えると何となく想像が付くんじゃないかと思います。それで、アスリートという表現はいいなと。
―確かにアスリートならどう行動するかというのは比較的想像しやすいです。
プロサッカー選手は、人気選手が風邪を引いて大事な試合に出なかったり、初めて行くスタジアムだから迷って遅刻したりなんてことは無いですよね。チームに嫌いな選手がいるから試合に出たくないとかも、ない(笑)
―小学生みたいですね(笑)プロの世界は、学生気分でない、言い訳が通用しない世界ですね。
もちろん社会に出たら、弁解をしたくなるような理不尽な事もありますけどね。上司の言う通りに仕事をしたら「言われた通りにやるだけじゃ能がない」と怒られたり、次のときは逆に「なんで言うとおりにしないんだ」と怒られたり。
―そういった状況でもパフォーマンスを発揮することがプロには求められるのですね。
そうですね、他人や環境に依存していては前に進めない感じがしますよね。プロリーグでプレーしてたら、それは色んなことは起きる。それでも、みんな何とかするのがプロの世界。
あとはプロスポーツの世界を想像してみると、プロの選手には、競争がありますね。競争に勝って自分のポジションを勝ち取らないといけないし、チームを勝たせないといけない。
―ビジネスにおいても、競争はありますもんね。サクラス内でビジネスアスリートとして活躍できているなという人は居ますか?
個人名(笑)?そういえば、先月のMVPはAさんでしたね。
―なぜ、Aさんだったのでしょうか?
スピードですかね。Aさんはスピードが圧倒的に早い。この不確実な時代に、スピードは大きな武器だと思います。
サッカーに喩えると、監督である僕がやりたいサッカーは、スペインのようなパスサッカーです。そこまでサッカーに詳しいわけではないのですが、多分、サッカーに喩えると、そんな感じ。ブラジルとかイタリアとかドイツではなく、スペイン。
だから、スピードといっても、ドリブルとは違いますね。パスをまわすスピードや、反応するスピード。モタモタボールキープしていると敵に取られてしまうので、ダイレクトでそのまま他の選手にパスを出せる選手が必要です。そのためには、パスを貰う前から周りも見えてないといけない。
―スピードもそうだし、視野が広いんですね。
そうですね。でも実は、僕がMVPを決めるわけじゃないんですよ。
サクラスではポイント制度を設けていますが、その本質は実績を出して顧客が評価したかどうかです。サッカーでも監督が気に入って起用し続けても、実績を出せずファンをがっかりさせたら駄目ですからね。
MVPの理由ということだと、結果ですね。うちの会社だと、ポイント。
―なるほど。そのように顧客の評価を受けたメンバーがMVPになっているのを見る事で、他のメンバーも刺激をもらえますね。
そうですね。MVPは結果なので、結果の出し方は人それぞれ。「監督のやりたいサッカー」はあるんだけど、まあ、自分の得意なことを自由にやってもらえればいいなと思います。
―手段よりも、結果が残せたかどうか。
そうですね。監督としてはーー今日は「ビジネスアスリート」がテーマということなので、徹底的にサッカーで喩えることにします(笑)ーー選手が結果を残せるように、それぞれの個性が最大限に生かせるようなチーム作りをしていきたいと思います。
―サクラスは指示詰めという感じではなく、基本の仕事の仕方は教えた上であとは自分の好きなようにやってみてくれという感じが多いですもんね。
プロとして当たり前の事はみんなできる前提なのでそこは指示したくないですね。どうすれば点が取れるのか?どうすれば失点が抑えられるか?もっと戦術的なことをチームで議論したいです。
―ビジネスアスリートを率いる「監督」としての社長の役割は、細かい指示を出すというよりもそうしたチームづくりになるのでしょうか。
そうですね。監督の役割は勝つために目指すサッカーの形を定義して、そのためのチームをつくる。チームづくりには、選手の育成や起用、チームとしての連携強化やコンディションの管理など様々な側面があります。選手起用の部分以外については、将来的には誰かがキャプテンシーを発揮してくれたら助かりますね(笑)
―ちなみに選手起用というのは、どのような基準で行っているのですか?
個々の適性を見ながらですね。「勝てる」チームづくりというのが第一。監督の目線からすると、目標があってそれを達成するための戦略があって、そのための役割が決まれば、あとは現実の選手層と相談です。
先ほど言ったようなパスサッカーだと、視野が広くて球離れのいい中盤の選手が鍵になるだろうけど、そうじゃなくてセットプレーで決めるチームだとしたら、別のタイプの選手が必要になります。前線からプレスをかけていくスタイルで戦いたいなら運動量豊富なフォワードが必要です。
そんなふうに決める感じですね。理想は。
―理想は、というと?(笑)
実際は、適性以前にもっと基礎的な実力をもとに試合に出るメンバーを決めざるを得ない。適性云々と言えるのは、選手層が厚いチームの贅沢な悩みで、そうでなければ総力戦です(苦笑)
―なるほど、やはりプロである以上は実力主義なんですね。
ただちなみに、選手の立場から考えると、特に新人のうちは「人気も実力のうち」と考えた方がいいかもしれません。プロでも鳴り物入りで入団して、結果を出す前から人気の選手はいますし。
選手の「人気」とは少し話が異なるかもしれませんが、サクラスでも、顧客の希望を踏まえて選手起用がなされるケースは多々あります。本人の人柄は勿論ですが、同郷、高校が同じ、家族と知り合いなど、実際に様々なケースがありました。
反対に、監督が「えこひいき」をすることは滅多にないので、私の機嫌をとっても何の意味もないですね(笑)まあ、だから皆、とってないけど・・・。
―選手起用について、何でも監督が決めるわけではないんですね。
実際に今年あるプロジェクトでも、私がもともとイメージしていたリーダーと違う人になったケースもありました。結果、とてもうまくいったので、私の評価なんて当てにならないなあとつくづく思います(笑)
―反対に「監督」役である池上さんが決める時はどんなときなのですか?
うまくいってないときですかね。勝っている時は監督なんかいらない。負けているときですね。最後まで諦めずに勝ちに行くためには、交代してもらうことも必要です。
また、反対に結果が出ない時に、実は選手は悪くない、という時もあります。そういう時に選手を守るのも仕事だと思います。
ー守るというのは具体的に何をするのですか?
他の仕事を任せる、ですね。なにかの仕事で失敗したとしても、選手が精一杯やった結果であれば。
―結果が悪かったとしても本気で取り組んでいれば評価に繋がるのですね。
サッカーでも相手が強すぎたり審判が不公平だったりして負けてしまっても、きちんとしたプレーをしていれば次も起用されますよね。僕も仕事が出来ている人はすぐ他の仕事を任せます。
―監督の役割として「選手起用」以外に「育成」も挙げてらっしゃいましたが、育成の方針はありますか?
そうですね。同じ人は何人も要らないのでそれぞれの長所を伸ばしていきたいなと思います。
―なるほど。自分の中でそういった長所を見つけていくためには何が大切でしょうか。
やはり100パーセント仕事に本気で取り組まないと何が得意かは分からないです。全力でやり切った時に得意不得意が分かります。あとは、食わず嫌いせず色んな仕事をやる事で得意な仕事が見つかると思います。
―サクラスは色々な仕事を任せてもらえますもんね。
他の人が活躍して点をとっているからこそお試しで起用する余裕もできて、色々な仕事を任せることができます。なのでそこはエースに感謝ですね。
―本当にサッカーの戦略に近いですね。まさにビジネスアスリート!
そうですね。理想論を言うつもりはなくて、どうしてもチーム内で貢献度に差がつきます。平均が50としたら、なるべく貢献度80の人を増やして20の人を今後のために起用できる環境でありたいです。
―誰かの分まで活躍しないとですね。スポーツもビジネスもチームワークが大事ですね。
はい。そういえば、先月のテーマに「努力・友情・勝利」を掲げてましたが、プロサッカー選手の友情って何だと思いますか?
―試合で良い結果を残したいというのが前提で、そのためにメンバーとコミュニケーションをとって自分がどういう風に活躍できるか、相手をどう活躍させられるか考える事ですかね。
そうですね。やっぱり実績を残すことを目的にチームワークを深めていって欲しいです。
―リモートワークだとその人のプライベートな面までは見えづらいと思うのですが、その上で友情を育んでいくために必要なことはありますか?
僕はお互いのプライベートは頑張って知らなくても良いものだと思っていて、もしお互いのことを知るなら、ピッチの上でどういう人かが大事。過去どういうプレーをしたのかとか、どういう癖があるかとか。
―なるほど、仕事の進め方ですね。
チームメンバーの普段のプレーを理解しておくことで、誰にボールを渡せばいいか素早くして判断して良いパスが出せますよね。そういうことが出来るように、他メンバーの仕事の取り組み方を知って欲しいです。
―それぞれの個性をどう直すかでなくお互いにどう活用しようかと捉えているのが良いですね。
そうですね。もちろん使えない個性もきっとあるんですけど。忘れっぽいとか、鼻毛が伸びるのが早い?とか(笑)
個性については、顧客と競合相手と自分と、いわゆる「3C」全部の視点で長所と言えるものがあるといいですね。
ー最後に、ビジネスアスリートである上で大切にして欲しいことを教えて下さい。
いまもちょうど3C(※注:市場/競合/自社を指す経営分析のフレームワーク)と言いましたが、3Cの視点はとても大事。ファン、ライバル、結果の、3つを意識してほしいです。
ファン(顧客)は仕事をする上で欠かせません。ライバルは競争により自身をより成長させてくれる存在です。結果はプロとして当たり前ですが、つまらない政治や心ない攻撃などから自分の身を守ってくれる存在でもあります。
ビジネスにおけるプロ、「ビジネスアスリート」とは、常に全力で仕事に取り組み結果のために自身も他メンバーも高めていけるようなストイックな存在であった。そのような努力をアスリートが当たり前に行っているように、ビジネスの世界でも自身の成長を望むならばストイックであることが当然でなくてはならないのだった。
(文/古賀夕愛=聖心女子大学3年)