特別と特殊
日常生活で「特別」と「特殊」を厳密に使い分けている人は、あまり多くないのではなかろうか。
『精選版 日本国語大辞典』(小学館)によれば、
「特別」とは、「[1] 〘名〙 (形動) 普通一般と異なっていること。また、そのさま。普通でないさま。格別。」をいう。
「特殊」とは、「〘名〙 (形動) 普通と異なること。他に類のないこと。また、そのさま。特別。」をいう。
う〜ん、両者の違いがイマイチ分かりにくくて読解力を要するが、「特別」は、「普通一般と異なっていること」だから、同種のもの(普通一般)の中で異なっているものということになる。
例えば、普通のリンゴよりも大きい、小さいというのが「特別」だ。
これに対して、「特殊」は、「他に類のないこと」だから、同種のもの(普通一般)がない著しく異質なものということになろう。
例えば、マリンブルーのリンゴが「特殊」だ。
例規集を見ていると、「特別」と「特殊」をきちんと使い分けておられるので、流石だと感心するのだが、具体的に何を意味するのかが分からない条文が意外に多いことに気が付いた。
例えば、青森県の横浜町ふれあいセンター設置条例第6条は、「ふれあいセンターの使用許可を受けた者(以下「使用者」という。)は、ふれあいセンターの使用に当たって特別な設備を設け又は特殊な物品を使用するときは、あらかじめ所長の許可を受けなければならない。」と定めている。
同様の条文は、全国各地の自治体にあるが、青森県内、特に弘前市に非常に多い。
しかし、例示列挙すらされていないために、具体的に何がどのように「特別な設備」・「特殊な物品」なのかが不明確なので、行政庁の許可が恣意的(しいてき)に行われる危険性がある。許可・不許可の具体的な判断基準が読み取れるように表現するのがベストだが、せめて例示列挙をすべきだろう。
例えば、「会館の床や壁などを棄損又は汚損するおそれがある特別な設備」、「原状回復に多額の費用と時間を要する特別な設備」、「火薬やプロパンガスなど、会館の利用者の生命・健康・身体を害するおそれのある特殊な物品」という風に、それぞれの条文の趣旨から考えて「特別な設備」や「特殊な物品」を表現すべきではなかろうか。
この点、兵庫県の太子町立文化会館の設置及び管理に関する条例第7条第4項は、「会館の使用に際し、会館の附属設備以外の特別な設備又は装飾を必要とする者は、その内容を記載した仕様書を提出して、教育委員会の許可を受けなければならない。」と定めている。
また、京都府の木津川市ラブホテル建築規制条例第2条第3号は、「性的感情を刺激するための装置、照明、装飾品その他の通常のホテルにない特別な設備を有するもの」と定めている。
さらに、東京都貸切自動車条例第4条の2備考第3号は、「「特殊車両」とは、標準的な装備(冷暖房及びリクライニングシートの設備を含む。)を超える特殊な設備を有し、かつ、当該車両購入価格を座席定員で除した額が標準的な車両購入価格を標準的な座席定員で除した額に比し七割以上高額な車両をいう。」と定めている。
いずれも単なる「特別な設備」や「特殊な物品」に比べれば良いが、条文の趣旨からもう一歩踏み込んで表現したらさらに良くなると思う。
cf.1横浜町ふれあいセンター設置条例 (平成5年3月22日条例第1号)
(特別の設備等)
第6条 ふれあいセンターの使用許可を受けた者(以下「使用者」という。)は、ふれあいセンターの使用に当たって特別な設備を設け又は特殊な物品を使用するときは、あらかじめ所長の許可を受けなければならない。
cf.2弘前文化会館条例 (平成18年2月27日弘前市条例第201号)
(特別の設備等)
第8条 使用者は、文化会館の使用に当たって特別の設備を設け、又は特殊な物品を使用しようとするときは、市長の承認を受けなければならない。
旧9条…繰上〔平成19年条例33号〕、本条…一部改正〔平成21年条例1号〕
cf.3太子町立文化会館の設置及び管理に関する条例 (平成13年12月27日条例第22号)
(使用の許可等)
第7条 会館を使用しようとする者(以下「申請者」という。)は、教育委員会の許可を受けなければならない。許可された事項を変更するときも、同様とする。
2 申請者は、使用する目的、内容等によっては、あらかじめ関係機関と協議し承認を受けなければならない。
3 会館の附属設備を使用しようとする者は、教育委員会の許可を受けなければならない。
4 会館の使用に際し、会館の附属設備以外の特別な設備又は装飾を必要とする者は、その内容を記載した仕様書を提出して、教育委員会の許可を受けなければならない。
5 教育委員会は、次の各号の一に該当するときは、その使用を許可しない。
(1) 公の秩序又は善良な風俗を乱すおそれがあると認めるとき。
(2) 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条から第4条に規定する者
(3) 管理運営上支障があると認めるとき。
(4) その他教育委員会が適当でないと認めるとき。
6 教育委員会は、第1項、第3項又は第4項の規定により許可を行う場合において、管理上必要な条件を付することができる。
cf.4木津川市ラブホテル建築規制条例 (平成19年3月12日条例第183号)
(定義)
第2条 この条例において「ラブホテル」とは、旅館業(旅館業法(昭和23年法律第138号)第2条第2項及び第3項に規定する営業をいう。以下同じ。)を目的とする建築物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
(1) 玄関が閉鎖的であり、一般に開放された形態でないと認められるもの
(2) 受付及び応接の用に供する帳場、フロント等から共用の廊下、階段、昇降機等によって客室に通じる構造でなく、車庫、駐車場又は当該施設の敷地から直接客室に通じる構造であると認められるもの
(3) 性的感情を刺激するための装置、照明、装飾品その他の通常のホテルにない特別な設備を有するもの
(4) 建物の構造が、全体として、通常のホテルとは認められないもの
(5) 建物の外観が、付近の生活環境・景観又は青少年の健全な育成に支障をきたすと認められるもの
(6) 建物の場所が、通常のホテルが立地するのに適切であると認められないもの
cf.5東京都貸切自動車条例( 昭和三九年三月三一日 条例第一〇八号)