少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口16-
16 トランプ
庭園の端、城の巨大な門扉は、先程までの楽しげな雰囲気から一転して荘厳だ。高さ5mはありそうな塀の門扉の両脇にはトランプの体に足と手が生え、顔はトランプのマークの形である、ハート、クローバー、ダイヤ、スペードの形の兵士たちが10人ぐらいずつズラリと並んでいた。数字は皆5だ。
双子が近づくと、門扉に一番近い兵士2名が門を開け、それ以外兵士たちは皆一様に恭しく頭を下げ、双子が通り過ぎるのを息を潜めて待っているようだった。
相変わらず風船のように双子に連れられた2人が分厚い塀の中の5mはありそうなトンネルを通り抜けて目にしたのは、巨大な四角い箱のような建物と、その中央から気高くそびえ立つ中性のヨーロッパのような城だった。
先程まで活気があった庭園とは打って変わって、門の中は静まりかえっていた。この世界で言う純花型や純虫型、彩里水たちの世界で言う、所謂花や植栽や昆虫はいたし、噴水やアーチなどもあった。だが、その全てのものに顔が付いていることもなく歌を歌うこともなかった。
「ここから先は特別な空間なんだ。」
「所謂王族やその家臣たち、城で働くもの以外は決して入れない。」
双子はまた交互に彩里水たちに話し始める。
「だから、ここへ来れるだけでも大変光栄なことなんだよ。」
「例え縄で縛られて風船のようになっていてもね。」
クスクスと笑いながら双子は言う。
巨大な四角い箱には小さな出入り口があり、そこにも先程門扉の周りにいた兵士が両脇を固めている。ただ、数字は6だ。
先程の塀の2倍の長さはありそうなトンネルを抜けると、そこにはまた美しい庭園が広がっていた。
そしてそこには先程四角い箱のような建物から生えている様に見えた城の全貌を見る事ができた。
中央が尖塔型になっており、高さ15m程はありそうな円形でその両側に翼を広げた鳥の羽のような形で高さ6m程の美しい白壁が裾を広げるようにあり、尖塔型の建物がケーキに刺さるろうそくのように両端をになっていた。
白壁に映え、周りの森と同調するような緑色の屋根が美しいコントラストを生み出しているこの空間は、まるで空間全体が作り物であるかのように魅惑的で幻想的だった。
その城に風船状態のまま双子に連れられ入城する彩里水と白兎。
城内はまた静まりかえっているものだと彩里水は思っていたが、ひとたび入るとこんなに人がたくさんいたのかと思うほど賑やかで活気があった。
それぞれが何か役割を担っているようで右へ左へと忙しく動き回っており、先程城外では双子が通る度に皆一様に恭しく頭を傅かせていたが、ここの生き物たちは双子にも彩里水たちにも気づいてさえいないかのようだった。
それでもすれ違いざまにチラリチラリと盗み見るような仕草をする者もあった。
その中で、城内に双子が入った途端にいち早く双子のそばに駆け寄り手がすり切れそうな程の籾手をして近づいてくる人物がいた。
彩里水にはその人は純人型のように見えた。
「禅様、逸様、お帰りなさいませ。旅はいかがでございましたか?・・・。」
つづく