第三言語・続 2020.08.28 10:57 ※英語・スペイン語の次に喋られている言語↑ ──8月8日の「第三言語」の続編です。 ●カリフォルニア州のタガログ語(フィリッピン語)というのには虚をつかれた。カリフォルニアはもともとスペインの小説での〝桃源郷〟の名前で、ここに足を初めて踏み入れたスペイン人が、〝ここがそうに違いない!〟と名前を借用した。スペインからメキシコに代替わりをした後、アメリカがメキシコとの戦争の戦利品として、自分たちの領土にした。それ故、土地の名前、通りの名前がワンサカとスペイン語で、それが醸しだす異国情緒がカリフォルニアの魅力にもなっている。 なのに、「タガログ語」って?……ほとんど耳にしたことはない。 そう言えば、uberを呼んだときに、その運転手がフィリッピン人だった。「女って結婚した途端になぜあんなに強くなるんだろうね?」ってぼやいていた。「どの国もそうだよ」って応じてやった。 やはり、アメリカがスペインからフィリッピンを植民地として奪ってから、フィリッピン人のアメリカに出稼ぎに来ることが絶えず、独立後もその流れは途切れないようだ。 ●アメリカ50州のうち、インディアン語起源の州名が23〜24もある。例えば、アリゾナは「小さな泉」だし、ダコタは「同盟者」だし、オクラホマは「赤い人々」。 だが、それらをインディアン語が起源だなんて意識はないのだと思う。アメリカの言う「フロンティア」とは現実に「インディアンの掃討の最前線」という事であり、スー族に対する「ウーンデッド・ニー(サウス・ダコタ州)の虐殺」があった1890年をもって「インディアンの掃討が完了」として、合州国政府は「フロンティアの消滅」を宣言した。アメリカが独立を宣言したのが1776年だから、つまり、114年掛けてインディアンを念入りに殲滅してきたということである。その正にサウス・ダコタ州、そしてアリゾナ州、ニューメキシコ州にインディアン語が「第三言語」として残っているのが嬉しい。 ●急にカナダの話になる。五大湖の一つのオンタリオ湖から大西洋に流れ出るセントローレンス川を車で渡ってカナダに入ると、すぐにモントリオール。すでにケベック州だが、その旅は「ケベック・シティ」が目的地で真東に向かう。ハイウエイの標識が英仏併記なのだが、「ケベック・シティ」に近づくにつれて、英語表記が落ちてフランス語のみになる。ケベック州の公用語はフランス語なのだ。 (因みに、カナダの首相は英仏のバイリンガルが条件だという。) このケベツク州とアメリカと国境を接するニューブランズウイック州はフランスからの移民が多く、彼らはここを「アルケディア」(Arcadia)と称していた。だが、フランスはイギリスとの領地を巡る争いに負け、イギリスはアルケディアの住民のイギリス国王への忠誠を求め、強引な施策を押し進め、そのために多くのフランス系はアメリカへ逃げた。その子孫たちが住みついたのがこの地図で東部を中心に11州ほど確認できる。一番のロング・トレイルはもともとがフランスの植民地であったルイジアナ州である。ここを彼らはArcadianaと呼んだ。 ●このルイジアナ州はミシシッピ・デルタを持ち、その豊潤な土地を一大綿花地帯へと供した。ここへ黒人奴隷を輸入して、綿花の栽培に従事させたが、この土地こそが現在のRockのもともとのルーツとなる「デルタ・ブルース」を産んだ土地である。そして、それを洗練させたのが「ニューオリンズ・ジャズ」なのだが、そのメッカと言われている「プレザベーション・ホール」にソレを聴きに行ったことがある。 特に「フレンチ・クオーター」と呼ばれる一角の猥雑さ……。売春婦、ポン引き、そしてジャズの喧騒。ただ、メシが酷く美味い。そのフランス系の人々が地元のシーフードや野菜を見事にアレンジした料理を「ケイジャン」(Cajun)と呼ぶ。つまり、Arcadianaから短縮・転化してこう呼ぶ。フランス人の血が一滴でも入るとこんなにも美味しくなるものか!?観光客の多くも、むしろ料理を目当てにやってくる。 ●1976年、ワシントンDCと接するバージニア州に住んでいた。妻がDCにある公立で無料の英語学校Americanizationへ行っていた。そこで知り合った韓国から来て間もない「京子」さんと友達になり、自宅に招待を受け、お手製のキムチなど韓国料理をご馳走になった。ご主人は韓国では高校教師であったのだが、当時のパクチョンヒ軍事政権に嫌気をさし、片道切符でアメリカに逃げて来たらしかった。ヴァージニアでは韓国での彼の学位は何の役にも立たず、一介のボイラーマンとして頑張って、家族4人の生活を立てていく。 その当時から、DCの銀行で韓国系も多かったし、「統一教会」の年一度の大会はワシントン・メモリアルの丘で催していた。この州の第三言語が韓国語というのも驚かない。 ●1980年代、 NYで友人のそのまた友人のクリスマス・パーティに出かけて、とても頭がキレて魅力的な女性を紹介された。イリノイ州のシカゴから遊びに来ていて、そこでファイナンシャルTVの副社長をやっていると言っていた。名前はエバだったが、姓はZとかQが入って、末尾は「スキー」といった。日本人には発音が出来ない。「どこ系統の名字なの?」と訊いたら、「ポーランドよ」と答えた。 聞けば、「ポーランド最大の都市はワルシャワで160万人だが、シカゴには200万人のポーランド系が住んでいる」というではないか! ●ドイツ語。 いわゆる「東部」でもなく「西部」でもない州にドイツ系が多いのも特徴的だ。いわゆるWASP(白人・アングロサクソン・ピューリタン)という言葉がある。つまりは、この新大陸への一番先に来たということである。WASPだけでは国家の運営が立ちいかないので、どんどこいろんな所からの移民を受け入れた。でも、この「先着順」思想は拭い難い。アングロサクソンの後、ケルト系のスコットランド人やアイルランド人の移民は、山岳地帯におかれたらしく、蔑称として「ヒルビリー」(丘の上のビリー)と呼ばれた。が、音楽の才能が豊で、「ヒルビリー」というジャンルの一つになり、カントリー・ミュージックの重要なルーツの一つになった。 ドイツ系は17西紀から20西紀前半にかけて「神聖ローマ帝国」「ドイツ帝国」などの失政により、移民としてアメリカに来て、人生を賭けた。配達された場所は見ての通りいわば過疎地であった。 ──「ナイキ」の広告を作っている「ワイデン・ケネディ」という広告エージェンシーのクリエイティブ部門を訪問したことがある。普通にクリエイティブ・ディレクターがいてコピーライターがおり、アートディレクターがいるのだが、彼らの国籍がアメリカ、イギリス、イタリア、スペイン、ギリシャと多様なことに驚いた。どう頑張っても 似た様な人生を送って来た日本人5人でブレインストーミングするよりも、彼らのチームの方が何十倍もスパークするだろうことは保証できる。わざわざ「創発」とか「セレンデビィティ」などと言い立てなくても、「場」自体がそうなっている。その国家レベルが「アメリカ合州国」だと思う。