#石破茂 #米中新冷戦 - 米国だけに肩入れ危険
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ありがとうございます。感謝です。
まず僕のコメント
脊髄反射的に物事を捉えず
しっかり読んでいただきたい内容です。
現実を見た政治的議論をお願いいたします。
感情的でヒステリーになるのはやめていただきたいです。
終わり。
石破茂氏に聞く“ポスト安倍”の戦略「憲法よりエネルギーを集中すべき課題がある」
ダイヤモンド編集部,西井泰之 2020/08/29 06:00
イージス・アショア(陸上配備型迎撃ミサイルシステム)の配備停止に伴い、政府は新たな安全保障戦略を年内にまとめる予定だ。
論点の中心は「敵基地攻撃能力」の保有だが、28日に突然、辞任を表明した安倍晋三首相には政権のレガシー(政治的遺産)にという思いがあったともいわれる。
防衛問題に精通する石破茂・元自民党幹事長は、「陸上イージスの穴をどう埋めるかを検討することが先。
敵基地攻撃能力を持てば日本が先制攻撃をすると誤解されかねない」と慎重論だ。
持論である憲法改正の必要性は語りながら、「政治的なエネルギーを集中すべき課題はほかにある」という。
石破氏は安倍首相の辞任表明を受けて「驚いたが、党員の期待があるし、安倍政権で一緒にやった責任もある」と後継への意欲を示した。
8月中旬に行ったインタビューで語った“ポスト安倍”の安全保障戦略や日本の課題に対する考えを紹介する。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)
陸上イージス計画変更は違和感
敵基地攻撃能力は論理に飛躍
――イージス・アショアの配備停止を受けた「敵基地攻撃能力」の検討を求める自民党の提言をどう受け止めましたか。
陸上イージスの配備は、防衛の専門家や制服組も加わって検討し最終的には総理が決断された。それだけの重みのある決定を、変更した経緯が簡素すぎることには違和感がある。
配備を決めた一番の理由は、北朝鮮のミサイル防衛にあたる海上自衛隊のイージス艦の負担軽減だったはずだ。
イージス艦は、対空、対潜水艦能力も非常に優れた艦なので、中国の脅威が顕在化している尖閣などの南西諸島方面に数多く配備したいところ。
その虎の子を日本海にずっと張り付かせることになっている。
海上自衛隊は定員不足の艦船もあるなど、ぎりぎりの状態だから、それを補うためにイージス・システムを陸上に置こう、ということだったはずだ。
イージス艦を南西方面に振り向ける重要性は、陸上イージスのブースターの落下問題がどうであれ、変わっていない。
陸上イージスを配備しないのなら、その分のミサイル防衛をどうするのかという議論が必要であって、いきなり敵基地攻撃能力を持つという話が出てくるのは論理的な飛躍がある。
発射装置をレーダーと分離
艦船や海上浮体に据える案もある
――どういう対応が必要だと考えますか。
予定されていた形で陸上イージスが配備されなくなったとしても、それ自体が抑止力の低下を招くことのないよう、ミサイル防衛の能力を強化することが必要だ。
レーダーと迎撃ミサイル発射装置を離れた位置に配備する、あるいは古い艦船や海上浮体を活用するなどの選択肢がまず考えられる。
この2年ほどで、北朝鮮などのミサイル技術は格段に上がった。新たなミサイル脅威にどう備えるかについても早急に対応が必要だ。ミサイル防衛は、最初の一撃を防ぐという意味で非常に重要だ。
陸上イージスの配備が停止されたのは、迎撃ミサイルのブースターの落下地点をコントロールできないからという理由だったが、迎撃の一連の動作の中では、何かが地上に落ちることは自明だ。
そもそもミサイルの落下が懸念される地域では、事前に住民にシェルターなどに避難してもらうことが大前提だ。
国民の人口に対してのシェルターの整備率は、北欧やスイスで100%、シンガポールで80%なのに、日本はたった0.02%だ。東京などの都心には地下鉄網や地下道があるから、そこに食糧などを備蓄できるようにすれば、費用はそうかからない。
このように、まずは今できる方法で防御能力を高める努力が必要だ。
敵基地攻撃力整備には10年必要
ミサイル防衛の代替にはならない
――敵基地攻撃能力は必要がないということでしょうか。
少なくとも、ミサイル防衛能力の代替にはならないということだ。
敵地攻撃能力を持つといっても10年はかかる。自衛隊は日本の領域内に侵入してくる敵勢力を追い払うための能力しかないから、敵地を攻撃するとなると、防衛戦略や装備体系、訓練なども根本から見直す必要がある。
現時点で最も実現可能性の高い方法は、トマホーク(巡航ミサイル)を米国から購入することだが、それでも、敵基地や移動式の発射台の位置、ミサイル発射の情報などが米国から入らなければ攻撃はできない。
それにトマホークはスピードが遅いので、途中で迎撃される可能性がある。
それを計算して攻撃には何発が必要なのかということも、自衛隊にノウハウはない。
そもそも米国はトマホークを英国にしか売っておらず、日本に供与してもらう交渉から始めないといけない。
これまで敵基地攻撃は日米同盟の役割分担として米国に任せてきた。それを一部であっても日本が持つというなら、米国との役割分担を大きく変えないといけない。
例えば米軍が中東や欧州に兵力を取られて余裕がないという時に、日本も「矛」、つまり一定程度の攻撃力を持つというのなら、米国との戦略設計をやり直す必要があるし、米軍と連携できるようにあらゆる装備体系を調整しないといけない。
結局、時間がかかるから、仮に敵基地攻撃能力を持つ決断をしたとしても、ミサイル防衛の性能向上やシェルター整備の必要性は変わらない。
安倍首相の“政治遺産作り”
だとしたら、非常に不健全
――性急な議論が出てきた背景をどう考えますか。
最悪の事態を念頭に置いて敵基地攻撃能力を持つという発想は以前からあったし、専守防衛という基本理念のもとでも、自衛権の範囲として法理論上一定の攻撃力は持てるという解釈は、鳩山一郎内閣以降、歴代政権が踏襲してきた。
ただ、専守防衛は理念であり自衛権を抑制的に捉えるが、情勢の変化によって解釈が変わり得る。憲法で戦力の不保持や交戦権の否認が規定されている中で、現実の国際政治や軍事情勢の変化に対応するため、専守防衛を逸脱しない範囲についてはガラス細工のように積み上げてきた面がある。
法理論上可能だが現実の能力を持たない、という意味では、核兵器についても同様だ。現状をどう認識し、何が最も効果的な抑止力たり得るかは、常に議論すべきものだ。
新たなミサイル脅威や米中対立など、安全保障環境が厳しくなったことで、これまで具体化できなかった政策に踏み出すべきだという議論が出てくること自体は理解できる。
しかし、仮にも安倍政権のレガシー(遺産)作り、というようなことで論じられ、受け止められているなら非常に不健全だ。安全保障政策はそうした動機で論じられるべきものではない。
日本の「反撃」が
「先制攻撃」になる恐れ
――ご自身はどう考えているのですか。
私自身は、今まで敵地攻撃能力の保有を積極的に主張したことはない。
15~16年前、防衛庁長官をしていた時も、北朝鮮のミサイルの脅威や専守防衛について国会で何度も問われた。
専守防衛の理念は、相手から攻撃を受けて初めて自衛権として実力を行使するという受動的防衛戦略として具体化されるが、相手から攻撃を受けて被害が出てからでは遅いし、相手の攻撃を受ける恐れがある段階で攻撃するのでは早すぎる。
それで当時は、相手が日本に対する攻撃に不可逆的に着手した時点で反撃ができると答弁した。
具体的な例として、北朝鮮のミサイルが発射台に据えられ、液体燃料を注入し始めたような時がそうだと。
だが、いまや北朝鮮のミサイルは固体燃料を使えるようになり、発射台も移動式で、状況の把握が難しくなった。
不正確な情報によって日本の「反撃」が「先制攻撃」になってしまえば、日本が国際社会から批判を受けることになりかねない。
攻撃能力には、それを正当なものとするための強力な情報能力も必要だ。
専守防衛の理念を踏まえ、日米同盟の役割分担として、「矛」(攻撃)は米軍、「盾」(防御)は日本、としてきた。しかし「矛」を持つかどうか以前に、わが国は「盾」としての能力にも不安が残る。
シェルターだけでなく、自衛隊の人員や弾薬なども不十分だ。
少子化の影響で人員は減少傾向だし、弾薬や燃料などの後方分野も今まで必ずしも充実させてこなかった。
防衛大綱でこうした部分を重点的に整備することを掲げてはいるが、喫緊の課題だ。
日米安保や自衛隊の位置づけは
時間をかけて議論すること
――日米安保条約の非対称性や自衛隊を「軍」とする憲法改正を唱えるなど、現状の安保防衛政策の枠組みを変えることを主張してきましたが。
それは根本論になるので、ある程度、時間をかけたしっかりした議論が必要だ。
日米安保条約はより対称なものにしなければ持続可能性が低くなると思っているし、自衛隊は明確に自衛権に基づいて位置づけるべきだと思っている。
日米安保条約の本質は、米国が日本を守る代わりに日本は米国に基地提供の義務を負い、米軍が日本の領域を好きなように使えるということにある。
米国と安全保障条約を締結している国はほかにもあるが、双方の享受する権利と義務が同じでない条約は日米だけだ。
日米の場合、日本は敗戦後の非武装状態から始まり、朝鮮戦争や共産主義勢力の拡大などの情勢変化を受け、冷戦時の国際政治情勢が反映されて、独特なものになった。
日本が条約上の義務として米軍基地を置いているのは、集団的自衛権を行使して米国を守る義務を負うことが、憲法上も事実上もできないと解釈してきたからだ。
だが、自衛隊がそれなりの防衛力を持つようになり、一方で中国の膨張や北朝鮮の脅威など、安全保障環境も変わってきた。
いつまでも非対称な同盟関係でいいとは思えない。
自衛隊は、憲法9条の規定のもとで、「自衛のための必要最低限の実力」であれば「戦力」ではない、「戦力」ではないから「陸海空軍」ではない、と解釈してきたが、実態との乖離は進む一方だ。
海外はおろか、日本国民にとってすらわかりにくい解釈を続ければ、自衛隊に対する支持も安全保障政策への理解も進まない。
国全体が安全保障問題について思考を停止してしまっているかのような状況は、変えなければいけないと思っている。
米中新冷戦の状況で
米国だけに肩入れは危ない
――米中新冷戦と言われる国際政治環境の変化のもとでの新しい安全保障戦略では、何が重要だと考えますか。
明確な情勢認識を持たないとアウトプットも時代に合わないものになる。
中国の海洋進出や香港への強硬措置を見ると、中国の国家戦略が変わってきているように感じる。
一国二制度が風前の灯であることは香港に対する扱いで明確になったが、台湾に対しても今後、中国は強硬措置を取る懸念があり、領土的野心をより鮮明にし始めたと考えるべきだろう。
もう一つの変化として、中国のGDPに占める輸出の割合はピーク時の36%からいまは17%にまで落ちている。
対外的な野心を顕在化させ、米中貿易戦争が続く一方で、経済的には内需中心の成長戦略に切り替えつつある。中国の狙いや思惑をしっかり分析する必要がある。
共産党政権は、党の軍隊である人民解放軍と、徹底した情報統制、そして経済成長により国民を豊かにすることで体制を維持してきた。
軍事力を強化しても経済的な発展がなければ共産党政権はもたない。
その意味では、経済的に相互依存関係にある日本にもそれなりの影響力はある。
一方、米国は、自らの地位を脅かしかねない国家のGDPが、米国のGDPの6割を超えることを許容しないと言われている。
トランプ政権では「自国第一」が行き過ぎている。その意味では米中対立の根は深い。
だが、欧州でもアジアでも、米国と中国が角を突き合わせる状況の中で、一方的にどちらかの肩を持つようなリスクの高い外交戦略を採る国は少ない。
日本も、安全保障上はアメリカと足並みをそろえる一方で、中国との経済的な関係を可能な限り安定させるような方策を考えないといけない。
どちらかに、一方的に肩入れするのは避けるべきだ。
国益は国の数だけ違うから、首脳同士が会っても合意できないときは当然あるが、基礎となる信頼関係は地道に構築しておかなければならない。
安倍首相はトランプ大統領とは大の仲良しだが、習近平氏とはほとんど話をする機会がないというような関係ではまずい。
北朝鮮や韓国との関係もそうだ。
強硬姿勢を取れば一部の人の愛国心に訴えて支持率も上がる。
政治家としては楽なやり方だろうが、関係が悪化してもお互い得るものはない。
中国の膨張の抑止に
「アジア・太平洋版のNATO」を
――安全保障政策として具体的な対応策をどう考えますか。
中国の海洋進出や軍拡に対する抑止力ということでは、アジア・太平洋地域での集団安全保障システムを作ることを目指すべきだと思っている。
中国は「一帯一路」戦略で、経済援助などをテコに中東やアフリカなどの西方に進出しているが、NATO(北大西洋条約機構)加盟国から以西には行かず、もっぱら南沙諸島への基地建設など、南のほうに進出して影響力を強めようとしている。
米国をハブとして、日米、米韓、米豪、米比などの安全保障条約があるが、これらを緩やかに統合した枠組みを作るべきだ。共通の利益となる自然災害対処や対テロなどでの協力から始めて、最終的に安全保障機構となっていけば、中国の違法な進出に対抗ができる。
中国を敵視するような性質のものだと成立しづらいので、国際法の順守を中心的な課題とし、中国も一部参加できるような状況を作れれば、なおいいのではないか。
憲法改正はエネルギーがかかりすぎる
「安全保障基本法」制定が現実的
――かりに“石破政権”になった時の安保戦略で考えていることはありますか。
直近でやるべきことは話した通りだが、中長期的な課題の解決策ということでは、「安全保障基本法」を作って、自衛隊を国際法上の「軍」として位置づける方策を提起したい。
日本には農業基本法とか教育基本法とか、基本法が50本ほどあるが、安全保障に関する基本法はない。
だから、自衛隊の問題は常に「憲法改正」という議論になる。
憲法では「陸海空軍、その他の戦力は保持しない」とあるが、現実にはイージス艦やF-35戦闘機、航空母艦のような「いずも」型護衛艦も持っている。
それをめぐって軍隊だ、いやそうではないといった議論が続いてきた。これに最終的な決着をつけるのは憲法改正しかないのだが、それには大変な政治的エネルギーが必要だ。
その点、基本法の制定は一般の法律と同様の手続きで可能だ。
憲法改正のような高い手続き的なハードルはない。
まずは基本法という形で、憲法と現実の間を埋めるべきではないか。
――自衛隊を陸海空軍と認めることにどういう意味があるのですか。
多くの国民は自衛隊の存在を支持し、自衛隊が軍隊か、そうでないかはあまり意識していないのではないですか。
それはその通りだと思う。
国民がそういう意識でいるのに、政治的なエネルギーを憲法改正に費やすのはおかしいということになる。
私はこの通り、憲法改正論者だが、政治のエネルギーにも限界がある以上、優先すべきことはほかにもいっぱいある。
そうであれば、安全保障をめぐる憲法、日米同盟、米軍基地、米軍機の事故、アジアにおける集団安全保障の枠組みなどの問題を、安全保障基本法によって解決する方策を探るのが最も現実的なやり方だと考えている。
「東京一極集中」は脆弱で限界
個人消費が牽引する経済に
――政治がほかにやるべきことというのは。
今はまずは新型コロナウイルスへの対応だが、コロナ後の日本の経済・社会のあり方を描き、持続可能な未来のために制度を変えていくのも政治の重要な仕事だ。
日本は明治維新以降、ヒト・モノ・カネの東京一極集中を国家として選択し推進してきた。
江戸時代は中央幕府の権力と各藩の権力とをバランスさせた結果、地方ごとに特色のある産業が発展し、265年の間「天下泰平」を維持した。
だが黒船来航以来、外国の植民地になってはまずい、強い国家にしないといけない、ということで「殖産興業」「富国強兵」に価値観を変えた。
これを進めるには強力な中央集権が必要であり、東京一極集中を進めた。
そうして第二次大戦での敗戦を迎えたが、今度はGHQが、日本が貧しいままだと共産主義革命が起きるというので、改めてまた東京一極集中という道を進んだ。
高速道路や新幹線が整備され、高成長時代には地方にも成長の果実が回ったが、過疎化や農山漁村の疲弊などの弊害も大きかった。
アベノミクスでも、東京などの都市部や輸出企業は潤ったが、地方との格差は拡大してしまった。
雇用は好転したといっても非正規社員は増え、多くの人の賃金は上がらず、その結果、消費は停滞したままだ。
人や企業が東京に集中する状況は、今回の感染症に対しても、自然災害に対しても、非常に脆弱だ。基本から変えないともう限界に来ている。
食糧やエネルギー、サプライチェーンなどの外国への依存度を下げ、地方が豊かになり、個人所得が増え、個人消費で経済を引っ張れるようにしないといけない。
これは、次の内閣だけで達成できることではないが、必ずやらなければいけない課題だ。