月の海
https://moonstation.jp/faq-items/f711【月の地名で「海」や「沼」などと名前がつけられていますが、海も沼もないのに不思議です。なぜこんな名前がついたのですか?】より
確かに、水もないのに、月の上には「海」がいっぱいあります。また、「沼」がつく地名もあります。月の真ん中あたりの少し下、「晴れの海」の東側には「腐敗の沼」(Palus Putredinis)という地名があります。また、海や沼だけでなく、「入江」や「湖」といった、水にちなんだ地名が多く存在します。
この由来は、望遠鏡での観測が始まった頃にさかのぼります。
最初に月を望遠鏡で眺めたのは、ご存じの通り、イタリアの科学者、ガリレオ・ガリレイです。1609年、彼は自作の望遠鏡を月に向け、月の表面の模様をスケッチしました。これまでの肉眼による観測と違って、月の表面には様々な模様があることがわかってきました。
これ以降、何人もの観測者によって月の観測が行われ、地図も作られるようになりました。
1645年には、ラングレン(Langren)によって初めて、月の表面の模様に名前がつけられました。1647年にはポーランドのヘベリウス(Hevelius)によって、月の山脈に、地球の山脈の名前がつけられました。今でも、月には「アルプス山脈」「コルディレラ山脈」など、地球の山脈と同じ名前がつけられている山脈があります。
さて、月の地名について最初に体系的にまとめたのは、イタリア・ボローニャの天文学者・理論家・哲学者のリッチオリ(Riccioli)です。彼はそれまでの命名法を捨て去り、その代わりにクレーターや模様、山脈などに体系的に名前を割り振ることを提案しました。1651年のことです。
このときに、リッチオリは、月の表面の暗い部分を「海」と思って、海の地名をつけてしまったのです。また、暗い部分でも小さいところには、沼、あるいは湖の地名を与えてしまいました。これが、現在でも引き継がれているのです。
当時は望遠鏡の性能も低く、肉眼観測がメインでした。また、実際に月には地球と同じように、海や陸があるという考え方もごく当たり前でした。リッチオリが、月の表面のくらい部分に水がたまっていると考えたのも、当時としては無理のないことだったのでしょう。
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/22/03.html 【月の海】 より
加藤 學(宇宙航空研究開発機構 教授,地球惑星科学専攻 兼任)
月表面の暗い部分を海(マーレ,mare),明るい部分を高地(テラ,terrae)とよんだのは,紀元1世紀頃のギリシャ人たちだといわれている。海は月全表面積の約35%を占めているが,裏側では5%以下である。ガリレオが17世紀に望遠鏡を使って観測して海は平らであり,高地は起伏に富んでいると著書で述べている。アポロ計画で月に人間を安全に降ろすために行った先行計画で,月の探査機による近接観測が始まった。アポロ計画で地球にもち帰られた岩石試料から,海は玄武岩でできていることがわかった。溶岩(マグマ)が固まったものであり,地球上でみられるものと大きな差はない。黒くみえるのは2価の鉄によるものである。
海はクレータ盆地に溶岩が噴出して窪みを埋めたもので,表側ではその噴出が35~25億年前に活発であったが,10億年前くらいまでも続いた。海の表面をよく見るとまだら模様であったり,クレータの数密度が同じ海でも領域ごとに異なったりしているのがわかる。噴出した時期が複数回に及んでいることやその時の溶岩の組成が異なっていることを示している。
では,その海の厚みはどんなものであるか。推定方法はさまざまであるが,実測値といえるものはまだない。月のクレータの直径と深さの関係はおおよそわかっているので,溶岩を満々と湛えている海の深さは形状から推測できる。また,重い溶岩がクレータを満たしたことによってクレータ底中心部に圧縮,周縁部に伸展が生じ,応力の集中した場所に直線的な盛り上がり(リッジ)や割れ目(リル)が生じている。その分布から重い溶岩の量(海の深さ)を推測する方法がある。表側の中心付近に見られる直径700 kmの晴れの海では周縁部で1 km,中心部で6から8 kmと見積もられている。月の溶岩の研究もアポロ計画以来活発になったものではあるが,まだ月の表側の表面が調査されたのみで裏側の海や地下の調査は始まったばかりである。裏側の最大の海であるモスクワの海の形成は「かぐや」の観測により35~25億年前まで続いたこと,この海の下の地殻の厚みがきわめて薄く,マントルがせり上がって来ていることもわかった。
筆者や新領域創成科学研究科の杉田精司教授らのグループが実施した月探査機「かぐや」の観測により,新しい事実やサイエンスが明らかになってきている。
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/moon/moon02.html 【月に「うさぎ」の模様があるのはなぜですか?】 より
月には明るい所とややうす暗い所があります。そして、満月のとき、うす暗い所をつなげてみると、その模様が「うさぎ」の形に似ているようです。肉眼でみた月の暗い模様を「うさぎ」に見立てるのは、古く中国から日本に伝わったことですが、この他にも世界の各地でいろいろなものに見立てています。たとえば、うさぎの耳の所を、ろばの耳やかにのはさみとみて、ろばやかにに、また、明るい部分も加えて、女の人の横顔などとも見立てられています。
月のうす暗い模様は「海」とよばれ、「晴れの海」とか「雨の海」とかの名前がつけられていますが、本当に水がある海ではありません。月の海は黒い色の玄武岩とよばれる岩石でできていますので、暗くみえるのです。月のその他の部分は、斜長岩とよばれる白い岩石でできているので白っぽくみえるのです(月の高地といいます)。
月の海は平らな地形でクレーターは少なく、高地にはたくさんのクレーターや山脈が見られます。じつは、月の海は月が生まれたころにできた非常に大きなクレーターで、それを月の内部から吹きだした玄武岩の溶岩が満たして作った地形なのです。
「うさぎ」の模様は月が満ち欠けしても変わりませんが、これは月の自転周期と公転周期が等しく、常に同じ面を地球に向けているからです。