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【念願の“JFL昇格”への期待高まる】福井ユナイテッドFC 洪 潤極 選手

2020.09.07 06:31

 そこには確かな充実感と落ち着きがあった。一つ一つの質問を噛み締めながら真摯に取材に応じてくれたのは、北信越フットボールリーグ1部の福井ユナイテッドFCでプレーする洪 潤極(ホン・ユング)選手(25)だ。

 2018年に資金難で存続困難となったサウルコス福井を引き継ぐ形として、2019年に福井ユナイテッド株式会社を新たに設立。ゼネラルマネジャー(GM)にはFC岐阜やV・ファーレン長崎でGMを務めた服部順一氏が就任。更には今シーズン、新戦力として川崎フロンターレなどで活躍した元日本代表FW我那覇和樹を獲得するなど大型補強を実現させ、積極的にクラブ改革に着手している。

 

 福井ユナイテッドFCは、松本山雅FCやツエーゲン金沢が同じ北信越の地からJリーグへとステップアップしていくのを横目に、長らくJFL行きの切符を掴みきれずにいる。実力があるからこそ「今年こそは」と地域のファンは期待するのだが、なかなかその期待に応えられていないというのがクラブの現状だ。


引退も考えた昨シーズン。それでもプレーし続ける理由。

 

 2019シーズンに加入し、現在はチームの主力として活躍している洪選手は、「昨シーズンが終わった時点で引退することも考えた」と話す。

 

 移籍1年目のシーズンでは福井ユナイテッドFCのテクニカル重視なサッカーに適応出来ず、納得のいくようなパフォーマンスを発揮することが出来なかった。その中で勝ち上がったJFL昇格を懸けた地域チャンピオンズリーグ(地域CL)でも「一発勝負ならではの独特な緊張感があって難しかった」と話すように、一筋縄ではいかなかった。そのような要素が起因して、“引退”という選択肢がチラついたのだろう。洪選手はそれでも踏みとどまり、サッカー選手という自身の可能性に今シーズンも懸け続けている。

 

 洪選手は、落ち着きながらも力強い眼差しで、「福井ユナイテッドFCで結果を残して、このチームを昇格させたい。昨シーズンに難しいシーズンを送ったことは間違いないが、チー厶を昇格させて、個人としてもステップアップしていく為に、まだまだ出来ることがあると気が付いたから今年もプレーし続けようと思いました」と、現役としてプレーし続ける理由を語った。

 

 今シーズンに懸ける様子がひしひしと伝わってくる。何故なら、洪選手はサッカー選手としてそう長くない先を見据えているからだ。「常にステップアップしていかないと、どんどん居場所を失ってしまう。そんなギャンブルみたいな世界で這い上がっていく為には1年1年、1日1日が勝負になってきます」と、チームの昇格を目論みながらも、自身の現状も冷静に分析する。


目指す先は「JFL昇格」のみ。

 昨シーズンは苦しい時間が長かったものの、今シーズンは一味違うようだ。3バックの中央の役割を担っている洪選手はボールに関わる回数が格段に増えた。ビルドアップの部分で味方選手の“逃げ道”となり、攻撃の基礎を構築させる。「ボールを保持する時間が長くなりサッカーを楽しめている」と話す洪選手は、ビルドアップにおける潤滑油になりながらも、その傍らでディフェンスリーダーとしての役割をも担っている。「相手の楔に対して強く当たりながらも、味方選手のカバーリングを心がけています。的確な指示を出し、味方選手を動かすことによって、ピンチを未然に防ぐ事が理想。ただ、最終局面で1対1に突入した場合は絶対に負けない気持ちでやっています」。洪選手に求められるタスクは容易ではないが、だからこその“やりがい”を感じている。

   

 福井ユナイテッドFCは先日、1,220人の観衆の中で第9節を戦い「6−1」と大勝したが、洪選手を含めたチームは決してこの結果に満足出来なかった。その理由を「僕達の目的はまずはJFLに昇格すること。その為には地域CLを勝ち上がらないといけないし、地域CLを勝ち上がる為には日頃のリーグ戦から高い緊張感を持って、もっと圧倒的な結果を出さないといけない」と、目指す先は“JFL昇格のみ”のようだ。

   

 洪選手が話すように地域CLには独特な緊張感がある。リーグ戦で順風満帆な結果を残していたとしても、この“一発勝負”を勝ち抜いていくことは決して簡単なことではないのだ。しかし、この期待とプレッシャーの壁を乗り越えることが出来ると、新たなる景色が広がることは間違いないだろう。「JFLに上がることが出来ればJリーグでプレーすることも夢ではなくなってくる。選手としても、チームとしても幅が広がることは間違いない」。


サッカーを通して後輩達に示したいもの

 洪選手が引退を踏みとどまったのには、もう一つの理由がある。それは自身を育ててくれた母校や後輩達への想いからだ。「横浜F・マリノスで活躍する先輩、一圭(イルギュ)さんや、栃木SC所属の後輩、勇太(ヨンテ)の活躍が刺激になったし、俺もやらなきゃいけないという気持ちになった。」と話す洪選手は母校や後輩達への想いが人一倍強い選手でもある。

  

 「僕が育ったウリハッキョ(日本にある朝鮮学校)は人数も少なくなっているけど、在日コリアンでも『何にでもなれる』ということを伝えたい。そういった意味でも僕もその可能性を示してあげられる1人でありたいし、まずはサッカーで這い上がっていきたい」 

  

 洪選手が持つ根底の目的は「育ててくれたウリハッキョに貢献すること」であり、今はその想いをサッカーで具現しようとしている。「ウリハッキョに通ったから出来なかった」ではなく、「ウリハッキョに通ったからこそ出来た」というマインドを持たせてあげたいのだ。

  

 Jリーガーに負けず劣らずの勢いで、地域リーグやJFLへの関心が集まるようになってきている中、洪選手を含めた在日コリアンフットボーラーが全国各地、様々なカテゴリーでプレーしている。その選手達が躍動すれば、洪選手が持つ根底の目的「育ててくれたウリハッキョに貢献する」を達成出来るはずだ。


 そして、何よりも今シーズン。洪選手の活躍によって、チームの「JFL昇格」を果たすことが出来れば、洪選手が想いを寄せるウリハッキョや後輩たちへの心強いエールになるに違いない。

 洪選手の活躍に要注目だ。