#NewsPicks #石破茂 それでも私は出馬する
2020/9/2
【石破茂】それでも、私は出馬する
「 泉 秀一 NewsPicks副編集長 」様よりシェア、掲載。
ありがとうございます。感謝です。
取材:泉秀一、キアラシ ダナ
石破茂(いしば・しげる)/衆議院議員(鳥取1区)。1957年生まれ、鳥取県出身。1979年に慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、三井銀行(三井住友銀行)入行。1986年7月、旧鳥取県全県区から全国最年少議員として衆議院議員初当選、以来11期連続当選。 防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣、自由民主党幹事長、国務大臣地方創生担当・国家戦略特別区域担当等を歴任
「本当はやらない方が、楽でいいよね…」。インタビューの終盤、石破茂はこんな言葉をこぼした。
9月1日午後、石破茂元自民党幹事長が正式に総裁選への立候補を表明した。2008年、2012年、2018年に続く4度目の総裁選出馬で、首相の座を狙うことになる。
ただ、目下のところ最有力なのは2日にも立候補を表明するとされる菅義偉官房長官で、石破氏にとっては厳しい戦いになりそうな情勢だ。
それでもなぜ、この男は出馬するのか。
NewsPicksは立候補直前の9月1日午前に、石破氏への緊急単独インタビューでその真意を聞いた。逆風に晒されながらも戦い続ける男の、本音をお届けする。
このままでは「詐欺」になる
──まずはシンプルな質問です。今回の総裁選に出馬される意向は変わりないですか。
石破 選挙のルールが確定したのちに、きちんと同志に諮って、了承が得られれば出馬会見をしたいと思っております。
推薦人が20人揃わなければ出られませんので。
今日の午後に開かれる派閥会合で了解を得られれば、ですね。(取材は9月1日午前中に実施。同日午後の派閥会合を経て立候補を表明)
──今回の総裁選は、党大会ではなく両院議員総会となる予定です。石破さんはこの方法に反対されていますね。
それはね、よくないですよ。大勢の党員が参加しなければ、その政権は正当性を持たない。強くならない。
自民党は党員集めを一生懸命にやって、「あなたも総裁選で一票入れられますよ」というのをセールストークにしているわけですよね。
ところがいざふたを開けてみると、総裁選になったら投票権がない。それはおかしいだろうと。
(会費として)年間4000円も払っても、バスにタダで乗れるわけじゃないし、イオンで割り引きされるわけでもない。
唯一の権利が、総裁選での一票ですよ。市長は市民が選ぶ、知事は県民が選ぶ。でも自民党員は自民党総裁を選べない。これは一種の詐欺に等しい。
私はやはり、大勢が参加しなければいかんだろうと思います。
今は国会を開いているわけでもないし、総理は後任が決まるまで全力で執務に当たるとおっしゃっておられる。つまり政府は機能している。これのどこが「政治空白」なのでしょうか。
新型コロナウイルスの感染を懸念する声もありますが、そもそも郵便投票だから、投票所に人がいっぱいやってきてクラスターが発生することもあり得ません。
両院議員総会にする、ロジックがない。
──建前は政治空白で、本音は石破潰しが狙いだと言われています。
それは、分かりません。確かに、石破潰しとか石破殺しとかいろいろ言われているけどね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
理由はどうあれ、両院議員総会でいくという方向はもう変わらない。
(自民党の)総務会が押し切るんですよ。(9月1日午後の自民党総務会で、両院議員総会での総裁選実施が決定)
アベノミクスを「引き継ぐ」か
──具体的な政策についてお伺いします。まず、アベノミクスをどう評価されていますか。
確かに、株価は上がった。企業利益は増えた。でも、労働者の賃金は上がっていない。生活保護はまた200万人を超えてしまった。これが全てです。
アベノミクスの成果は、株価が上がったことですよ。そりゃあ株は、安いより高い方がいいですよね。
ただ、マネタリーベースを増やせば(供給量が増えるため)円は安くなります。そして円が安くなれば、1万ドルで買えた株が6000ドルで買えるんだから、株価は上がります。
しかし、経済の構造は変わりましたかね。
根本は変わっていませんよ。東京などの都市部の企業が潤う一方で、地方との格差は拡大しています。
地方創生は、それぞれの都市が活性化する「点」は密になったけれども、まだ「面」になっていない。大きな流れにはなっていないということです。
──もし首相になった場合、アベノミクスの金融・財政政策は引き継がないということですか。
突如、変更することはいたしません。当面は、継続をしてまいります。
ですけれども、物価が上がって経済がよくなるというのは、あまり聞いたことがない。経済がよくなって物価が上がるということは、あるでしょうけどもね。
金利がゼロに近づくことはお金に価値がないということだから、マーケットメカニズムが利かないことを意味します。そうすると、必要のないところにお金が滞留し、必要なところに届かなくなる。
現在は、民間銀行が預金で国債を買い、それが日銀に流れ、日銀当座預金にお金が積み上がるということが起こっているわけですよね。
しかしその一連の流れを通して、国民や民間企業にお金が潤沢に供給されたかというと、そうではないのではないかと。
私は経済の構造転換を図りながら、いずれは、あるべき正常な金融政策に戻していかねばならんだろうと思っています。
「目標未達」が全てを語る
──株価や大企業の利益だけを指標として評価するのではなく、もっと国民生活に目を凝らす必要があると。
金融政策は株価ばかりが注目されがちで、金利が下がったことによって個人の可処分所得がどれだけ減ったかということは、ほとんど議論されません。
「金利を下げて経済がよくなったぞ」ということになっているんだけど、本当にそうだろうかと。
可処分所得を上げて個人消費を喚起するという視点で、(第二次安倍政権の)金融政策にどんな役割があったのかということは、検証し直す必要があるでしょう。
よく私はハイパーインフレを懸念していると思われるんですが、決してそうではありません。
ハイパーインフレというのは、第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本のように、(財やサービスの)供給力が破壊されてしまった時に起こった事象です。
今は、供給力が破壊されたわけでもなんでもない。ハイパーインフレの懸念はありません。
あくまでも経済の構造改革を実行する上で、金融政策がどうあるべきかという視点が重要だと思っています。
──株価は良くなったけども、実際の経済成長にはつながらなかった。だから経済の根本から改革する必要があると。しかし、アベノミクスが始まった当時、石破さんは幹事長でした。当時から懐疑的だったのですか。
私の考えは、ずっと変わっていません。
マネタリーベースを2倍にして、2%の物価上昇を目指すという話でしたが、結果はどうでしょうか。2%の物価上昇は、達成されていませんよね。それが厳然たる事実としてあるわけで。
もう一度言いますが、経済がよくなった結果として物価が上がることはあっても、物価が上がったから経済がよくなることはありません。
(当初の目標設定が)そもそもどうだったんだ、ということです。
「米国一辺倒」は危険だ
──米中の2大国が対立しています。外交についてはどう舵取りをすべきでしょうか。
米国は価値観を共有する国ですが、地理的にあまりに遠い。一方で中国は、価値観は共有しないが、あまりに近い。
その中で安倍政権は、トランプ政権との間に緊密な関係を築きました。
ごく限定的ではあるものの、集団的自衛権の行使を可能にし、日米が協働できる分野がさらに広がったという点は評価すべきでしょう。
だけど私は、この米中対立時代においては、どちらか一方に偏って関係性を築くことはやるべきではないと思っています。
──とはいえトランプ政権下の米国は自国第一主義です。親密にしておかなければ日米同盟にほころびが出るリスクもあります。
まず前提として、米国との信頼関係をより密にしていくためには、日米同盟の意味をもう一度、考え直さなければなりません。
仮に11月の大統領選でトランプさんが勝つとすれば、駐留経費をもっと払え、3倍だ4倍だ、という話になるでしょうね。
でも、それに盲目的に従うだけではいけない。そもそも、一体何に対する負担増なのかということを(多くの国会議員は)国民に説明できますかと。
何のために三沢基地にF-16がいて、岩国基地にオスプレイがいて、佐世保基地に強襲揚陸艦がいて、横須賀基地に原子力空母がいるのか。
そんなことは、ほとんど知らないわけですよね。どの基地がどんな役割を果たしているのかを知らないのに、ただ言われた金額を払うというのは変じゃないですか。
在日米軍を守っているのは陸上自衛隊です。日本の空を守っているのは、航空自衛隊です。米軍の第7艦隊を守るのは海上自衛隊なわけですよ。
そしてそれのみならず、日本にある弾薬庫、燃料庫、あるいは修理能力がなければ、米国の国際戦略は成り立たちません。
その前提に立った時に、改めて日米同盟って何なんだと。
日本は米国を守らないけど、米国には守ってもらうんだからお金を払うのが当たり前だという発想は、非常に前時代的だと思います。
強硬な「中国」との付き合い方
──中国に対しては、どう接するべきでしょうか。
中国は香港での動きを見ていると、かなり自信をつけてきたように思います。世界中から非難されることを分かった上で、やっているわけですから。
そしてきっと、行き着く先には台湾がある。
背景には、コロナで輸出が遮断されても当面の間は内需でやっていけるという自信があるんでしょう。でなければ、あんなに強引なことはやりません。
そうした動きを考えると、日本も領土について安心してはいられません。漁民を装った中国民兵が、いきなり上陸してくる可能性だって考えておかなければいけない。
でも日本の領土を守ろうとしても、法整備が十分ではない。領土を外国に犯されているときに、警察権で対応するというのはおかしいですよ。
一方、いきなり自衛隊が出ていくと、先に仕掛けたのは日本だという話になる。だから、自衛権と警察権の中間、マイナー自衛権と呼ばれる法的カテゴリーとそれに見合った部隊が必要です。
それは憲法に反することでも何でもなくて、日本が自分たちで領土を守ることの意思表示にもなります。
──米中貿易戦争では、中国製品の締め出しが行われています。これについてはどう対応すべきでしょうか。
それはやはり、なるべくサプライチェーンを中国に依拠することなく、日本に移していくことが必要になるでしょう。分散化が必要です。
ただね、やっぱり中国というのは軍事的なリスクもあればサプライチェーンの問題もあるけれども、マーケットとしては魅力的ですよ。
鈍くなったと言っても、経済成長のペースはかなり早い。そうすると、市場として諦めるわけにはいきません。
我が国にとって最大の貿易国でもあるのだから、中国人のニーズに適合した商品、物品でありサービスでありを提供し続ける必要がある。ここは変わりません。
「石破茂」が果たすべき役割
──今回の総裁選について、石破さんが勝つのは厳しいという見方が大半です。それでも出馬するのは、今の自民党への警鐘を鳴らす意味合いもあるのでしょうか。
本当はやらない方が、楽でいいよね(笑)。だけどもし出なかったら、「あのときに誰もものを言わなかったのか」ということになる。
党のあり方、あるいは政策をきちんと議論することのない自民党とは一体何なのだろう。ものを言わない自民党、ものを言わない国会議員って何なんだろう。
国会議員だけで物事を決めていく自民党って何なんだろう。調子の良い時だけ党員を利用して権利を行使させない、そういう自民党って何なんだろう。
そういうことをあの時、誰も言わなかったのかって。
総裁選というものは、誰だって出られるわけじゃありません。20人の推薦人を集めるのだって大変なわけです。うち(石破派)だって、19人しかいません。
でも、何とか20人揃えられる。私たちは仲良しクラブではないので、政策も党のあり方も、ずっと議論をしてきた。それが今、果たすべき役割って何なんだと。
どうも情勢が悪いなあと、負けそうだなあと。ひょっとすると石破殺しとか、石破潰しとかいうことで、二度と立ち上がれないんじゃないかという声もありますよ。
だけど、そんなことを恐れていては、政治家なんてやってられません。それができる立場の人間が、「やらない」ということは許されないと思っています。
──どんな結果になろうが、9月14日に次の首相が決まります。日本のリーダーになる人間は、どんな要素が必要でしょうか。
国民を、有権者を信頼して真実を語れる。そういうリーダーじゃないでしょうか。
独善的に「これが正しいんだよ」と言って、共感を得られない。それではダメですよね。
私が嫌いなのは、「どうせ国民に分かるわけがない」という政治の姿勢です。国民は政治なんか信じていませんよ。諦めていると思います。
でも、政治家は国民を信じないといけない。
なのに、「どうせ国民には理解できない」という姿勢が多すぎる。答弁でもはぐらかし、論点をずらし、Aを聞いたらBを答える。
国民を信じない政治家が、国民に信頼されるはずがありません。
私の政策って、むしろ安倍さんよりラジカル(急進的)かもしれません。
でも、そうであるからこそ、国民に向かって語りかける姿勢、少なくとも「この政府はうそを言わないね」「真剣に向かっていくね」と思ってもらう努力をしたい。
それが私が目指す、リーダー像です。