女装レオと男装転校生
「んん、どうしてこんなことになってるんだっけ……」
ぽそりと呟いてレオはスカートの裾を摘んだ。
レオの通う夢ノ咲の唯一の女子生徒である少女に借りたものだ。
女性用であるから多少身動きはしにくいものの、華奢な体格が幸いしてどこかが破けたり身体を痛めることはなかった。
女性用すら着こなしてしまう自分の体格に情けない気持ちになる。
が、今はそれどころではないのだ。
「誰がおまえにこんなこと吹き込んだんだっ!?言え~!言うまで離さないからな…っ!」
がっと勢いよく掴んだ華奢な肩をガタガタと揺らすと無表情な少女の顔が揺れる。
「天祥院先輩です」
「だよな~?あいつ今頃、おれの今の状況想像してほくそ笑んでるのかなっ?むかつく」
「私が男装、月永先輩が女装なんて天祥院先輩も面白いこと考えますよね。霊感がわきませんか?」
「おれは面白くない…ぜんっぜんわかない…」
くるりとその場でまわった少女の着るものはその逆で、彼らの通う夢ノ咲の男子生徒の制服だった。
制服交換をしたのだから当然着ているものはレオのものだった。
若干大きいサイズに、かわいらしくてもやはり男性なのだなと思う。
そんなに体格は変わらないはずなのだけど。
小さく華奢な身体とかわいらしい顔に、女性用の制服はよく似合っていた。
不服なのだろう。
つんと尖った唇が余計に愛らしさを際立たせていた。
このかわいらしい先輩を見せびらかしたいという気持ちが芽生えたとき、なるほど、だから天祥院英智という先輩はこれを渡したのだと理解した。
ありがとうございます。ありがたく使わせて頂きます。
心の中で手を合わせ頭を下げる。
どこかでくすくすと笑う声が聞こえたような気がした。
「では遊園地デートに行きましょう。天祥院先輩からチケットを預かっています」
「は?…えっ?えっ?なんで!?おれは一刻も早くこれ脱ぎたい…!」
「やめてくださいこんなところで…!変態ですか!?」
なんでそうなるんだよ~というレオの叫び声が響いた。
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ねえ、もう満足?帰ろ?と催促するレオを放って園内を突き進む。
しばらくひそひそと抗議を続けていたが、聞き入れられないと分かったのか、不満げに唇を尖らせ眉を寄せたまま、素直にあとをついてくる。
揺れるスカートが気になるのか、頻繁に尻のあたりを押さえてはきょろきょろと辺りを見渡していた。
男が女装をしているとバレるのを恐れているのだろうか…。
しかし、レオが心配せずとも、少女じみた顔と体格で、彼をよく知るものが見なければ気づかれないだろう。
「月永先輩、あれ乗ってみませんか?」
「む?わっジェットコースター!いいねいいね…っ!楽しそう~!霊感がわきそう!」
早く行こっと手を引くレオは、ジェットコースターを前にして自分の身なりを忘れてしまったのだろうか。
どたどたと歩くせいでスカートがふわふわと揺れて心許なかった。
しかしその表情はいつもの、ひまわりのようにぱぁっと咲いた笑顔で、まぁいいかと思った。
が。ふんふんと安全のためにつけてくださいと指示されたベルトを装着するレオは、やはり大事なことを忘れているようだ。
「スカートの中身が見えますよ。足は閉じてください」
「へっ?……あっ」
ささっと閉じられた太もも。
きっと、その太ももに乗せられた両手がもじもじと動かされていたせいだ。
その表情が気になって、顔をそうっと覗き込んでしまったのは。
俯きがちに頭を下げたレオは、わずかに瞳を潤ませて、目元を赤く染めていた。りんごのように真っ赤で、舐めたら甘そう、だなんて考えてしまった。
これではどっちが変態なのか。
恥ずかしそうにハの字に寄せられた眉が、どうしようもなく愛らしかった。
この間何分だっただろうか。
じっと見つめられていたのだからさすがに気づいたらしく、レオがおずおずと視線をあげ、少女を伺った。
いつもの様子からは想像もできない静かな仕草に面食らう。
こちらはどんな表情をしていたのだろうか。
鏡なんてないし、それを想像することもできないが、照れたように、小さな花が開くように微笑んだレオを見てしまって、もう全部どうでもよくなった。
私の先輩がこんなにかわいい。