少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口23-
23 パンの効果
彩里水の提案で、白兎は恐る恐るパンを舌先でほんのちょっとだけ舐めてみた。2人はジッと白兎の様子を観察する。彩里水は特に、白兎の頭頂部を。
「・・・。」
「なんの反応もなさそうだな。」
「うん。量が少な過ぎたかな?」
「うん。じゃあ、もうちょっと思い切って舐めてみる。ところで、なんでおまえオレの頭見てんの?指先見ててくれない?」
「う、うん。わ、わかってる!」
そういったものの、彩里水的には指よりも頭頂部が遙かに気になる。
白兎は思い切って舌を大きく出し、ベロンっと先程よりは大きく舐めてみる。
彩里水は白兎の頭頂部の様子を注意深く観察する。
すると・・・。
「あ!」
2人は同時に声を揃えて小さく喜びの声をあげ顔を見合わせる。
「み、見た?」
「うん!ちょっとだけ短くなった気がするよな、指。」
「う、うん。」
――オレが見てたのは頭だけどね。
彩里水は白兎に不審に思われないように頭を見る。
白兎は今度は思い切ってパンを一口かじってみた。
すると・・・。
「あ!」
先程よりも大きい声で2人同時に声をあげてしまい、2人はそうっと衛兵の方を振り返る。しかし、衛兵はこれには気付いていない様子だった。
2人は互いの両手を合わせて小さくハイタッチしながら喜び合う。
白兎の指は1cm短くなっていた。
「よかったー!じゃあ、後は微調整しながら数口かじればいいな!」
白兎がご機嫌で言うと、彩里水は口を挟む。
「あ!ちょっと待って!」
「・・・え?なんだよ。」
一刻も早く元に戻りたい白兎は、せっかく元に戻れると喜んでいるところに水を差され少し不機嫌になる。
「あ、いや、元に戻りたい気持ちはめっちゃわかるんだけどさ。その指、使えるじゃん。アレ、取るのにさ。」
「あ!」
白兎は今まで何で気付かなかったんだろうと思った。
自分はいつも小学生にしては冷静だし、頭もいいと周りから言われてきていた。
しかし、彩里水はバカみたいに見えるし実際にこの短い時間の付き合いでもかなり能天気なやつという印象なのに、いざという時にはどんと構えてこんなにいろいろなことがあっても彩里水はいつもしっかり自分たちが助かる方法を考えている。
勿論、彩里水は自分の指が伸びたわけではないので、白兎よりいくらか客観的でいられた部分はあると思う。
しかし、それでもこんなに次々にいろんなことが起きていることに翻弄されず、逆に起きている事柄まで利用してしまう。
――彩里水って実際ホントすごいやつだよな。
白兎は彩里水の逞しさと明るさに改めて感謝すると同時に感心した。
「・・・そうだな。わかった。パンはまだあるし、アレを取ってからだな。・・・でも。」
白兎はそう言ってチラリと衛兵を盗み見る。
「・・・うん。」
衛兵が見張っている今は、取る方法があっても取らせてはもらえない。
「あいつらをどうするかだよなー。」
すると、彩里水が窓の外を見て感嘆の声を上げる。
「わ!やばー!太陽見てよ!白兎!」
彩里水に言われて白兎も窓の外に目をやる。
「うわー!すげー色!すげーでかい!」
2人は窓際に駆け寄ると、目の前にあるかのように大きな緑色に輝く太陽が遙か遠くの山間に沈んでいく姿を歓喜の容貌で眺める。
緑色に煌めく光が2人のハツラツとした顔をさらに輝かせていた。
「あれ?てか、あの太陽顔が付いてね?」
白兎が言うと、彩里水も太陽の顔に気づき言った。
「うわ!ほんとだ!すげえ!太陽も半人半太陽!?」
「・・・ホント、何でもありなんだなー。」
感嘆の声を上げ続ける2人に太陽はウインクをしてみせる。
「わ!今ウインクした!?」
「やべー!」
その太陽が照らす空を、美しい女性に蝶の羽が生え全身が7色に煌めく半人半蝶と思われる者たちが群れで太陽の前を横切り、羽が生えたライオンの背に乗った、鹿の角と脚を持つ逞しい数人の男性がその群れの遙か手前を反対方向に駆っていく。
しばらくすると太陽を隠していた山間が実は蠢いて再び太陽の顔を見せていたことに気付き、小さな花々を傘にしながら急いで移動する全長10cm程度の妖精たちも目にした。
妖精たちは彩里水が穴を落ちながら見た剥製にも似ていた。
2人は太陽がゆっくりと沈んで行くまで大喜びで眺めていた。
やがて太陽は、彩里水たちが元の世界にいた時に目にしたことがあるような、空全体を群青と銀朱に変化する太陽とのコントラストでまさに異世界へいるかのような幻想的なあの一瞬の美しさを、彩里水と白兎が初めて目にする、若草色が燃えるような色と群青とのコントラストを作りながら、山が太陽を見せようと動いても意味が無くなる場所まで沈んでいった。その美しい姿に見惚れながら、目にした美しい景色や目にしたことがない生き物たちが楽しそうに、逞しく、美しく空を自由に往来していた姿を2人は輝くような笑みを浮かべ語らっていた。
その後夜空に無数の星々が瞬き始め、たくさんの流星が夜空を彩り始めると三日月と半月が空を上ってきた。
三日月には人のような顔が、半月には犬のような顔が付いており互いにそっぽを向いていた。
つづく